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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Amanda Kramer&"Ladyworld"/少女たちの透明な黙示録

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さて2010年代において、何と形容すべきだろう、"透明な黙示録"というべき作品が多く製作されているように思われる。それは黙示録の予感が濃厚に満ちながらも、実際の破壊と崩壊は延長され、延長され続け、ただただ禍々しい予感だけが永遠に引き延ばされていくといった不気味な作品だ。例えばそういった作品を作る監督としてブラジルのKleber Mendonça Filho クレベール・メンドンサ・フィーリョや、フランスのVirgil Vernie ヴィルジル・ヴェルニエが挙げられるのだが、今回アメリカからそんな作家が現れた。ということで今回はAmanda Kramer監督によるデビュー長編"Ladyworld"を紹介して行こう。

壊滅的な大地震が勃発したその後、今作の主人公である少女オリヴィア(Ariela Barer)は地下室に閉じ込められてしまった。出口を探すうち、彼女はドリー(Ryan Simpkins)という少女に出会うのだったが、状況は変わらない。そこに出口は存在せず、この地下室からは逃れる事が叶わない……

それでも捜索を続けるうち、オリヴィアたちはこの地下室の中に自分たちを含めて8人の少女が閉じ込められていることを知る。その中でも殊更傲慢な態度を見せる少女パイパー(Annalise Basso)はリーダーを自称し、この場をコントロールしようとするのだが、彼女に対してオリヴィアは反感を露わにし、張り詰めた緊張感が流れることになる。

監督はそんな少女たちの姿を、不気味な冷徹さで以て眺めていく。彼女と撮影監督のPatrick Meade Jonesは固く腰を据えたまま、目前に広がる緊張感に満ちた風景を見据えることとなる。まるで"最後の晩餐"さながら並んで座る8人、彼女たちはそうして現状について議論をする。だが監督はそんな少女たちの中に、互いに対する、ある意味で子供っぽい敵意と軽蔑が宿っているのを

特に際立つのは思春期の少女たちが抱く類の激しい敵愾心だ。地下室の中を彷徨い、寝転がり、駆け回るうち、少女たちの間の緊張感は更に研ぎ澄まされたものとなっていく。それぞれがそれぞれに向ける攻撃的な視線、そしてナイフのような言葉の応酬。それらは放たれる毎に彼女たちの心を傷つけ、怒らせることとなる。

そんな中でイーデン(Atheena Frizzell)という少女が、地下室に潜む何者かを目撃する。彼女はそれを"男 Man"と呼び、恐怖する。そして最後には謎の失踪を遂げてしまう。この事件は少女たちの心を掻き乱して、新たな疑念と絶叫を呼び覚まし始める。

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物語が進むにつれ、禍々しい何かが競り上がってくる感覚が濃厚になっていく。それに寄与する第1の要素が撮影だ。灰色を基調とした色味の中で、少女たちは「蠅の王」さながらの権力闘争を遂げる。カメラはそれを冷えた明晰さで以て捉えていくのだ。それはまるで動物を解剖していく時に見せる研究者の凍てつきだ。

そして第2の要素は音である。今作では様々な音が不気味な震えを以て響き続ける。地震の揺らぎ、ヘリコプターの飛行音、少女たちの足音。それがまるで意志を持った亡霊のように私たちの耳元に迫ってくる。だが最も印象的なのは音楽担当のCallie Ryanによって紡がれる不協和音だ。少女たちの囁きや絶叫が暴力的なまでに重なり合い、観客の聴覚だけでなく五感全てを押し潰そうとしてくるのだ。

劇中においてパイパーは少女たちの前でこう宣言する。"私たちは小さな少女なんかじゃない。私たちは女なんだ"と。だがある意味でこう宣言すること自体が、彼女たちの幼さを証明するものだろう。ここに代表される1つの強がりとその根源である心の不安定さは物語の中で増幅していくことになる。

ここで印象的なのは"男"という存在である。"Man"は"人間"をも指し示す言葉であるが、ここでは"男"という意味が強調される。セックスやレイプなどの言葉が繰り返されているからだ。そうして彼女たちは"男"に恐怖を感じ、自衛策を練りながらも、それと同時に"男"という存在に魅了されている節も見られる。自衛を施す間、"男"への恐怖を語りながらも、少女たちは陶然と喜びを感じているようだ。それはある意味で、悍ましい"男"に何故であるか惹かれてしまう、少女たちもしくは監督自身のヘテロ女性としての懊悩を指示しているのかもしれない。

そして上述の"男"への相反する矛盾した感情が象徴するように、少女たちの中にあるのは未だ確定していない曖昧さなのである。監督はその曖昧な部分から人間として生きる上で直面する情念――怒り、不安、軽蔑、愛着――を浮かび上がらせていく。それがそれぞれの少女から溢れ出て、激突する様は激烈な衝撃に溢れている。

更にこの激突が凄まじい錯乱へと至ることとなる。興味深いのはこの錯乱がクィア的な様相を呈することだ。パイパーたちは自衛のために化粧を塗りたくり、極彩色の衣装を身に纏う。その様はまるでドラァグクイーンの扮装をするようだ。それは"男"という怪物に惹かれるヘテロとしての自分に対するアンチテーゼなのかもしれない。そんな中でオリヴィアは自身の立ち位置を変えないままに、移りゆく状況を冷静に眺めていく。

"Ladyworld"においては人間の情念と錯乱が、監督の禍々しい演出とシンクロすることによって壮絶なヴィジョンが広がっている。そして黙示録までの引き延ばされた時間は、最後に……

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