鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

Noah Buschel&”Glass Chin”/持たざる者、なけなしの一発

ボクサーのバド・ゴードン(「ミッドナイト・イン・パリ」コリー・ストール)、昔は“ザ・セイント”とあだ名される元チャンピオンだったがその面影はもうない。仏教に凝っている恋人エレン(「31年目の夫婦げんか」マリン・アイアランド)を愛してはいるが“こんな…

Ramon Zürcher&「ストレンジ・リトル・キャット」/映画の未来は奇妙な子猫と共に

全くもって突然だが、ここで超アートハウス指向でラインナップがキレまくってる配信サイトFandor、そのサイトのスタッフであるKevin B. Leeが挙げた、2014年長編デビュー作ベストを観てみよう(全て題名から予告に飛べます)10位"At Li Layla" (イスラエル)監…

Marco Martins& "Alice"/彼女に取り残された世界で

ミゲル・ゴメスやジョアン・ペドロ・ロドリゲスなど、日本でも着々とポルトガル映画の受容が進み始めている。しかし見過ごされていく存在は必ずそこにいる。Tiago Guedes, João Nicolau, 「熱波」や「家族の灯り」の製作者としてではなく監督としてのサンド…

Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる

2014年はNYロマコメというジャンルを革新した作品が2つも現れた。1つはこのブログでも紹介したデジリー・アッカヴァン監督作「ハンパな私じゃダメかしら?」だ。イラン系アメリカ人でバイセクシャルという、今まで語られてこなかった声が映画として形になっ…

クリス・スワンバーグ&"Unexpected"/そして2人は母になる

このブログでは日本で知られていない監督について多く取り上げてきたのだが、いくつか自分の中で決めていることがあって、その1つに“マンブルコア世代の映画作家は取り上げない(個々の作品レビューは書くけど)”っていうのがあった。理由は簡単で「ハンナだけ…

Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!

何か、望月ミネタロウの漫画に出てきそうな。カルト教団という存在にはいつの時代も創作者を惹きつける魅力があるらしい。カルト教団を題材にしたアメリカ映画だけでも枚挙に暇がない、ここ5年ですらザル・バトマングリ"Sound of My Voice"、タイ・ウェスト"…

モハマド・ラスロフ&"Jazireh Ahani"/国とは船だ、沈み行く船だ

2010年「オフサイド・ガールズ」で日本でも有名だったジャファール・パナヒ監督がイラン当局によって逮捕され“懲役6年、出国禁止20年”などの刑を言い渡された。しかしこの後も「これは映画ではない」「閉ざされたカーテン」を監督、さらに最新作"Taxi"でベル…

貴方は誰?「私はゴースト」

私たちがまず目にする物、それは青空のもと不気味に聳え立つ洋館だ。観る者の心を波立たせるような、ひどく不穏な雰囲気をまとった場所。そしてカットが切り替わるごとに、カメラは洋館の内部へと入り込んでいくこととなる。玄関のドアに描かれている紋様は…

"You Are Not Thing"「残酷で異常」

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…… 数をかぞえる男の声がどこからか聞こえてくる。その響きには焦りが滲んでいる。そして現れるのは必死に心臓マッサージを施す男の姿だ。死なないでくれ、死なないでくれ、床に倒れた女に対し彼は何度もその言葉を繰り返すが…

リンゼイ・バージ&"The Midnight Swim"/湖を行く石膏の鮫

上の写真をよく見ると分かるかもしれない、彼女の眉間に、こう、プクッと浮かぶ突起物みたいな物がある。私がリンゼイ・バージという俳優の姿を見る時、いつもその部分に目を惹かれてしまう。彼女の内側から滲みだしてきた汗が、蒸発する間もなく固められて…

最近気になっている映画その2

"Box"(これ以下、全作、題名から予告に飛べます) 日本でもデビュー作「俺の笛を聞け」が公開されたルーマニア・ニューウェーブの旗手フロリン・セルバン監督5年振りの新作がこれ。予告からは「俺の笛を聞け」に続いて青年とその母親の物語が描かれるとそんな…

怒りの解剖学「人生スイッチ」

雨の降りしきる夜、そのダイナーには一人の客すらもいない。ウェイトレスのモサ(フリエタ・ジルベルベルク)がぼうっと外を眺めていると、駐車場に車が止まり、眼鏡の男が店に入ってくる。注文を聞きにいく彼女だったが、様子がおかしい。キッチンに急ぎ足で…

デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?

N.Y.を舞台にしたロマンティック・コメディ、アメリカではもう一大ジャンルと言ってもいいだろう。メグ・ライアンの嘘っぱちエクスタシー演技でお馴染み「恋人たちの予感」、シェールがオスカー主演女優賞をかっさらった「月の輝く夜に」、ジェニファー・ウ…

Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは"やる気ゼロ"

イスラエルは建国時から今まで何度も何度も戦争を経験している。第一次、第二次、第三次、そして第四次中東戦争、最近でもまたレバノン侵攻、幾度とないガザ侵攻……そのせいで今でも徴兵制が敷かれていて、18歳以上の男女全員が兵役に従事しなくてはならない…

最近気になっている映画 その1

"Le tout nouveau testament"(フランス語で"全く新しい聖書"という意味) 「トト・ザ・ヒーロー」「七日目」と寡作ながら、いや寡作だからこそ世界にその名を轟かせるベルギーの異彩ジャコ・ヴァン・ドルマル監督が「ミスター・ノーバディ」(私のオールタイム…

Anne Zohra Berrached & "Zwei Mütter"/同性カップルが子供を作るということ

2001年ドイツにおいて“生活パートナーシップ法”が制定されたことによって、同性カップルに婚姻に準じた権利が認められることになった。それが同性カップルに異性カップルと同等の権利が認められたことを意味するかと言えば、そうではない。あくまで婚姻に準…

キャサリン・ウォーターストン&「援助交際ハイスクール」「トランス・ワールド」/「インヒアレント・ヴァイス」まで長かった…

ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「インヒアレント・ヴァイス」において、豪華俳優陣が髪をどうしてメイクをこうして、誰も彼もが個性を爆発させていたが、その中でもホアキン・フェニックス演じるドクの元恋人シャスタに心惹かれた方は多いので…

リサ・ラングセット& "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級

リサ・ラングセットLisa Langseth は1975年4月20日生まれ、スウェーデン・ストックホルム出身。1999年〜2002年ストックホルム演劇アカデミーに在学。卒業後、劇作家・舞台演出家としてのキャリアをスタートさせ、"Godkänd"(2002)、"Märk Mig"(2003)、"Slätts…

何だこの映画はいったい "Results"

軽快なドラムの響きに合わせ、画面に現れるその単語RESULTS、そんなドデカイ文字が右から左へと消えていく。今自分が観ている映画って、ロッキー、じゃないよなと、そう思っていると、次は中年太りを惨めに晒しだす男のこれまた惨めな醜態の数々。これってい…

父だとか母だとか、夫だとか妻だとか「フレンチアルプスで起きたこと」(途中からネタバレ)

雪山を見渡せるテラス、そこで食事を楽しむ人々。しかし突然の爆音。周りを少し見渡すも、人々はすぐに食事を再開する。「おい雪崩だぞ!」声が響く。確かに、雪山から雪崩。携帯を持ち撮影する人々。だが様子がおかしいと気付き始める。「大丈夫、本当に大…

“Film Fatalesが選ぶ、今観るべき女性監督作品リスト”まとめ

最近、英国の映画サイトLittle White Liesが“世界の素晴らしい女性監督50人”という特集を組んだり、2015年は女性監督の手掛けた作品しか観ない!と宣言した評論家Marya E Gates氏が #AYearWithWomen(この運動についてはこちら参照) というタグを立ち上げ積極…

Chloé Robichaud&”FÉMININ/FÉMININ”/愛について、言葉にしてみる

以前このブログで、私の好きな監督・俳優特集の第1弾としてカナダの映画監督Chloe Robichaudを取り上げたのを覚えてらっしゃるだろうか(覚えてない、読んでないという方はこの記事をどうぞ)。今回取り上げる作品は、そんな彼女が2014年に監督したWebドラマシ…

Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?

最近、ピラミッド式英国俳優パワーマップ2015というのがElle Onlineに掲載されて、完全に悪い意味で話題になった。アイルランド人俳優を入れたり、白人限定なランキングだったり、名門校出身はランクアップ! だとか階級差別がまかり通っていたり、日本人が…

ロニ・エルカベッツ&"Gett, le procès de Viviane Amsalem"/イスラエルで結婚するとは、離婚するとは

イスラエルは中東でも唯一民主主義を成し遂げた国であると言われている。しかしそんな国でも女性差別は根深い。2012年のガーディアン記事によれば、女性は“控えめな”格好であらねばならないとして、ある地区の20の店舗で女性は常に長袖を着ていることという…

Scott Cohen& "Red Knot"/ 彼の眼が写/映す愛の風景

と、いうことでBenjamin Dickinsonに続き、ポスト・マンブルコア世代のインディー作家を紹介していこうのコーナー第2弾。紹介するのは、オリヴィア・サールビー主演作品"Red Knot"で監督デビューを果たしたScott Cohen(と言いながら、今回はほぼ"Red Knot"の…

何が彼を突き動かすのか?"The Overnighters"

アメリカ・ノースダコタ州、石油採掘に潤うその地へと“アメリカン・ドリーム”を掴むため、日々、多くの失業者たちが訪れる。しかし現実は甘いものではない。いくら探しても仕事は見つからない。全てが思い通りに行かない。それでも失業者たちは言うのだ。“だ…

I'll Follow You Down 「タイム・チェイサー」

この「タイム・チェイサー」という作品をSFとして人に薦めることが、私には出来ない。SFを期待してこの映画を観た人が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて鑑賞を終える、そんな光景が頭に浮かんでしまうからだ。邦題の響きに反して「タイム・チェイサー」…

Benjamin Dickinson&"Super Sleuths"/ヒップ!ヒップ!ヒップスター!

'Results' Director Andrew Bujalski Doesn't Want You to Call His Movies ‘Mumblecore’ “"Results"監督アンドリュー・ブジャルスキはもう自分の映画をマンブルコアとは呼ばれたくない”5月の最後の週、米国の映画サイトIndiewireにこんな記事が掲載された。…

性の解放とは何だったのか「ザ・ギャル狩り〜ターゲットは7月の女〜」

「えー、前Z級映画を特集したのはいつだったろう……」 「何かスイスのZ級映画を語ると言って、もう……2年ですか」 「ああ『ナチ女親衛隊 全裸大作戦』か、あれか、ああ、まあ……長かった……」 「長かったですね……」 「長かった、ああ、長かったが、しかし、Z級映…

ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画

何週間か前、とある低予算アクション映画がひっそりと配信スルーになった。邦題は「復讐」。これだけでは分からないだろうが、作品の原題は“Vendetta”という。ピンときた人がいたなら、その人はおそらく相当のホラーファンだろう。「復讐」の監督たちの名は…