鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

Michel Lipkes&"Malaventura"/映画における"日常"とは?

映画においては劇的な場面を描くよりも、日常を描く方が何倍も難しい。何も起きないことに映画的な強度と意味を宿すのは、そもそも映画という概念とは?という時点から考えないと悲惨な出来に落ちる。私たちは嫌というほど日常を味わっているというのに、映…

火星のロビンソン・クルーソー「オデッセイ」

1964年アメリカで「火星着陸第1号」というSFが公開された。とある事故から宇宙船が火星へと不時着、何とか生き延びた宇宙飛行士の命を懸けたサバイバルが描かれるのだが、謎の鉱物を燃やすと酸素が出てきたり、探検途中に偶然水場を発見したかと思えば、そこ…

Alejandro Gerber Bicecci&"Viento Aparte"/僕たちの知らないメキシコを知る旅路

さて貴方は自分の生まれた国のことをどのくらい知っているだろう。ずっとそこで生きているのだから沢山のことを知っている?果たしてそうだろうか。例えば貴方が東京都民だとしたら、北海道に初めて旅行に行った時、天候だとか文化だとか様々な物にいわゆる…

Santiago Cendejas&"Plan Sexenal"/覚めながらにして見る愛の悪夢

さてメキシコ映画界である。ゼロ〜テン年代を代表する作家たちの中で日本でも受容が進んでいるのは、東京国際映画祭で回顧上映も果たした「闇の後の光」カルロス・レイガダス、「父の秘密」や夏には"Chronic"の日本公開が決定しているマイケル・フランコ、そ…

Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独

群像劇というジャンルがある。様々なキャラクターが目の前に現れ、それぞれの人生を披露し、いつしかそれらが絡み合っていく物語の構図だ。ロバート・アルトマンの「ナッシュビル」や「ショートカッツ」、彼を師と仰ぐポール・トーマス・アンダーソンの「ブ…

Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること

「トランスぺアレント」というTVドラマをご存知だろうか。Amazonが製作しているドラマ作品で、これからは自分を偽らず女性として生きていきたいという父親と、それぞれに問題を抱えた彼女の3人の子供たちを描き出したドラメディで、2015年のゴールデングロー…

Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?

ルーマニアン・ニュー・ウェーブを構成する要素とは一体何だろうか。ルーマニアに生きる普通の人々を主人公に据えていること、彼らのパースペクティブからルーマニアの実情を捉えること、その批判の眼差しには深い地域性と広い普遍性が宿っていること、しか…

ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの

さてマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル2016の開催である。1月18日から2月18日までの間、日本未公開のフランス映画が配信上映される訳で、配信大好きな私としては勿論観ない訳がないのである。ということで今日からmyFFF特別編としてフランス語圏期待…

Joanna Coates &"Hide and Seek"/どこかに広がるユートピアについて

ユートピアという言葉の響きには、なにか胡散臭い響きがつきまとうようになってしまった。トマス・モアの提唱するユートピアという概念自体が非人間的なものだったが、理想郷としてのユートピアも空中の楼閣として断じられ、そもそもユートピアという言葉す…

コルネリュ・ポルンボユ&「トレジャー オトナタチの贈り物」/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ

Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた? Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実 Corneliu Porumboiu監督の略歴、デビュー作及び第3長編について…

コルネリュ・ポルンボユ&"Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実

Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた? Corneliu Porumboiu監督の略歴、デビュー作についてはこの記事を参照フロントガラスに夜の街並み、2つの席には男と女。男は車を運転しながら助手席の女に言う、明日は…

クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……

さて、ブルガリアである。何でもブルガリアは年間映画製作数3本という少なさだそうで、そりゃ日本でブルガリア映画なんて観る機会ほぼないよなという。最近、と言っても5年前だがカメン・カレフの監督作で東京国際で作品賞も獲得した「ソフィアの夜明け」が…

Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印

さて、スロバキアである。あなたはスロバキアについてどのくらい知っているだろうか。私は良くチェコ・スロバキアと聞くから2つは同じ国かと思ったらとっくに独立していたし、正直スロバキアとスロベニアがどっちがどっちだかも余り理解していない。そんな国…

Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて

さて、ウクライナである。今、映画界においてウクライナと言えば、全編手話で字幕なしの独特のスタイルで世界中を湧かせたミロスラヴ・スラボシュピツキー監督のデビュー長編「ザ・トライブ」以外にはないだろう、とか言いながら私は観てない、長回し主体の…

パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 〜秘密と嘘〜」/SNSの時代に憑りつく幽霊について

人を愛するという行為には喜びや快感と共に、不安や独占欲がつきものであり、ある意味ではそちらの方が強烈な感情をであるかもしれない。これらは「スター・ウォーズ」のダークサイドさながら、歴史の中で様々に姿を変えて人々を恐慌に陥れてきた。今はどう…

Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅

ルーマニアとロマ族とは切っても切れない関係にある。故郷であるインドを離れたロマはギリシャやバルカン半島を行き、そしてドナウ川を越えた先にあるルーマニアへと辿り着いた。西欧諸国の殆どが彼らを排斥したのとは逆に、ワラキアの君主や貴族たちはロマ…

この地獄を語り継ぐために「サウルの息子」

耳に聞こえてくるのは鳥たちの囀ずり、見えてくるのはぼんやりとした森の風景。そして何処からともなく緑の色彩から現れるのは、瞳に深き影を宿した男。「始めるぞ」との同僚の言葉に男はまた歩きだすと、ひどく唐突に世界は残酷さを帯びていく、野太い絶叫…

Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い

さてリトアニアである。あなたはリトアニアについて一体どのくらい知っているだろうか。映画的な意味ではリトアニアはバルト三国の中でおそらく最も有名な国だろう、だって考えてもみて欲しい、あのニュー・アメリカン・シネマの立役者ジョナス・メカスやシ…

Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない

辛く苦しい世界の中で想像力だけが少年少女の生きる希望、あなたはそんな映画を何本も観たことがあるはずだ。世界の全てが敵であったとしても想像力はそこにあってくれる、現実と戦うためのたった1つのかけがえない武器としてあってくれる、例えばギレルモ・…

アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング

2016年4月、嬉しいことに昨年ブリテン諸島で最も評価されたと言ってもいい"45 Years"が「さざなみ」というタイトルで日本公開が決定した。本作は結婚45周年を迎えた夫婦が、夫の隠していた秘密が明らかになることで静かに崩れ行く様を描き出した作品で夫婦を…