鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

Ana Lungu&"Autoportretul unei fete cuminţi"/あなたの大切な娘はどこへ行く?

現在大隆盛を遂げているルーマニア映画界には、傍目から見れば何の問題もないように見える。だが内部で叫ばれているのは女性監督の圧倒的な不足だ。例えば以前紹介した「テキールの奇跡」ルクサンドラ・ゼニデや、アニメーションと実写を交互に行き交う監督A…

Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で

私は東欧映画をかなり多く観ている方だと自負しているのだが、少し前の動向においてはいわゆる"EU加盟映画"(私命名)というジャンルが隆盛を迎えているように思われた。"EU映画"というのはEUに加盟する過程、もしくは加盟した以後の余波を描いた作品を総称し…

Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街

さて、ゼロ年代からテン年代にかけてルーマニアは驚くべき作品の数々を以て世界を席巻してきた。そして今その影響は隣国であるブルガリアにも及んでいると言っていいだろう。例えばクリスティナ・グロゼバ&ペタル・バルチャノフ監督作「ザ・レッスン〜女教…

Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す

この前、アリス・ロウの“Prevenge”について記事を書いた時、今ホラー映画界で妊婦ホラーが再び隆盛の時を迎えていると記した。それらは独自の趣向を凝らしており、例えば“Prevenge”は自身も妊娠中であった監督がその不満や体験をぶつけまくったホラーコメデ…

ラドゥ・ジュデ&"Cea mai fericită fată din lume"/わたしは世界で一番幸せな少女

Radu Jude&"Toată lumea din familia noastră"/黙って俺に娘を渡しやがれ! Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅 ラドゥ・ジュデの経歴及び"Aferim!"のレビューはこちら参照。1989年に勃発した血の革命の後、社会主義国家であったルー…

オーレン・ウジエル&「美しい湖の底」/やっぱり惨めにチンケに墜ちてくヤツら

木々も枯れ果て冷たい色彩に満たされたアメリカのド田舎、その地で不満を溜めこんだ小市民たちがなけなしの勇気を奮って犯罪に打って出る。しかしその結果は当然の如く大失敗を迎え、チンケな騒動が幕を開ける……そういったあらすじの映画をあなたは何本観た…

Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄

いわゆる別荘映画というジャンルがある。倦怠期を迎えた夫婦が人里離れた地にある別荘へと赴き、夫婦関係を見直そうとしながらも更なる泥沼へと嵌っていくこととなる……こういった作品は酷く多いが、それは映画作家になったら1度は作ってみたいジャンルである…

ゼロ年代を知るならこの映画を観よう!"Take 100"

このブログの目的はテン年代の新人映画作家たちを紹介することが中心だったのだが、この頃いわゆるアメリカにおけるマンブルコアというムーブメントの隆盛や、ゼロ年代から始まった今最もエキサイティングな潮流"ルーマニアの新たなる波"の成立を探る記事を…

サフディ兄弟&「神様なんかくそくらえ」/ニューヨーク、這いずり生きる奴ら

サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ サフディ兄弟&"The Black Ba…

アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語

世界には様々な身体を持った人々が生きている。腕や足が備わっている身体、先天的に目が見えない身体、下半身を持たない身体。こうして人の身体は多種多様な物だが、五体満足のいわゆる健常者以外の身体が映画で語られることは少ない。そしてもし語られると…

Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて

時おり観ている間、涙を抑えきれなくなる映画というものが存在する。例えばジャコ・ヴァン・ドルマルの「ミスター・ノーバディ」は枝分かれしていく、有り得たかもしれない未来の切なすぎる美しさの数々に途中から涙が止まらなくなった。そしてフランク・カ…

サフディ兄弟&"The Black Baloon"/ニューヨーク、光と闇と黒い風船と

サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ サフディ兄弟の諸作について…

ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から

ルーマニアのドナウ川流域には豊かな生態系と風光明媚な景色が広がっており、黒海に面するコンスタンツァは観光都市としても有名である。この地に存在する肥沃な泥は美容にも良いとされ、その恩恵に預かるためここを訪れる人々も少なくない。さて“ルーマニア…

ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる

私は常々思っているのだが、“犬になる”という言葉が日本語で“誰かに従属し媚びへつらう”というような意味になるのは人間のとんでもない傲慢さの表れではないだろうか。人間は太古の昔から犬に助けられ、そして今でも共に並び立って生きる存在である。そんな…

Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて

さてコンゴである。とはいえまず言うべきなのは、いわゆるコンゴという国はこの世界に2つ存在している、つまりコンゴ共和国とコンゴ民主共和国である。前者はフランスが、後者はベルギーが植民地化した故に公用語も同じフランス語で紛らわしいことこの上ない…