鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

Tamar Shavgulidze&"Comets"/この大地で、私たちは再び愛しあう

昔から女性を愛し、女性に愛されてきた、いわゆるレズビアンという人々がいた。しかし彼女たちの愛と人生は平坦なものではあり得なかった。社会の同性愛者への不理解や偏見に晒され、そして個人的な苦悩にも苦しめられ、愛する者と別たれてきた人々も多いだ…

Antoneta Kastrati&"Zana"/コソボ、彼女に刻まれた傷痕

個人的な意見だが、最近のコソボ映画は頗る繊細な作品が多い。例えばBlerta Zeqiriの"Martesa"やLendita Zeqirajの"Shpia e Agës"など、静かに紡がれていく風景を背景として、登場人物たちの心情が丹念に描かれていく。そしてその中にはコソボ人としての壮絶…

Oskar Alegria&"Zumiriki"/バスク、再び思い出の地へと

良きにしろ悪しきにしろ、子供時代の思い出というのは人々にとって重要な意味を持つ。それは再現したり、修正したりすることができないからだ。だがそれでももう一度この思い出を再現しようとする者は確かに存在する。その過程では一体何が起こるのか。この…

Marie Grahtø&"Psykosia"/"私"を殺したいという欲望

自殺というテーマは、比較的若い芸術ジャンルである映画・ドラマでも多く描かれてきた。例えばルイ・マルの「鬼火」は人生への虚無と倦怠が自殺へと繋がる様を描き出した作品だったし、最近話題である「13の理由」は少女の自殺が高校生たちの心に波紋を広げ…

Théo Court&"Blanco en blanco"/チリ、写し出される虐殺の歴史

チリにはある黒歴史が存在している。それがセルクナム族の虐殺だ。19世紀、チリとアルゼンチンに跨る土地ティエラ・デル・フエゴには先住民族であるセルクナム族が住んでいた。しかしここに入植してきたチリ人たちは、アルゼンチン人やイギリス人たちと共に1…

Valentyn Vasyanovych&"Atlantis"/ウクライナ、荒廃の後にある希望

2019年9月7日、ロシアとウクライナは収監していた相手国の国民を釈放、拘束者を交換することになった。その中にはテロ活動の罪で禁錮20年の判決を受けたウクライナの映画監督オレグ・センツォフがいた。ジャン・リュック・ゴダールなど世界中の映画監督は彼…

ボスニアの大地に立つ2人~Interview with Maja Novaković

さて、このサイトでは2010年代に頭角を表し、華麗に映画界へと巣出っていった才能たちを何百人も紹介してきた(もし私の記事に親しんでいないなら、この済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!をぜひ読んで欲しい)だが今2010年代は終…

Dmitry Mamulia&"The Criminal Man"/ジョージア、人を殺すということ

ジョージア映画は歴史を鑑みると絵画的な素養が根底にある作品が多かったように思われる。実在の画家の伝記映画である「放浪の画家ピロスマニ」に始まり、テンギズ・アブラゼの「祈り」、最近公開された作品でもザザ・ハルバシ監督の「聖なる泉の少女」は絵…

Mani Haghighi&"Pig"/イラン、映画監督連続殺人事件!

現代イラン映画と言えば、アスガー・ファルハディ作品に代表される重厚なドラマ作品だろう。イランの厳しい戒律に端を発する問題、更にそれらが呼び込む親族・友人間の軋轢、そういった要素が濃密な緊張感を以て描かれてきた。だが今回紹介する作品はそうい…

Saeed Roustaee&"Just 6.5"/正義の裏の悪、悪の裏の正義

さて、60年代から70年代にかけては骨太の刑事ものが流行った。例えば「ダーティ・ハリー」や「フレンチ・コネクション」など、アメリカではマチズモの塊である刑事たちが犯罪者たちを執念で追い続ける作品が多数制作された。イタリアでもそれを模倣した刑事…

Vesela Kazakova&"Cat in the Wall"/ああ、ブレグジットに翻弄されて

2016年、イギリスは国民投票によってEUからの離脱を決定した。通称ブレグジットである。これによって世界が激震を遂げたが、その中でも直接的に影響を受ける一団が東欧移民だった。ルーマニアやブルガリアなどの東欧には貧しい自国から逃れて、より豊かな西…

Amanda Kramer&"Ladyworld"/少女たちの透明な黙示録

さて2010年代において、何と形容すべきだろう、"透明な黙示録"というべき作品が多く製作されているように思われる。それは黙示録の予感が濃厚に満ちながらも、実際の破壊と崩壊は延長され、延長され続け、ただただ禍々しい予感だけが永遠に引き延ばされてい…