鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

何が彼を突き動かすのか?"The Overnighters"


アメリカ・ノースダコタ州、石油採掘に潤うその地へと“アメリカン・ドリーム”を掴むため、日々、多くの失業者たちが訪れる。しかし現実は甘いものではない。いくら探しても仕事は見つからない。全てが思い通りに行かない。それでも失業者たちは言うのだ。“だけど、ここにいる以外に選択肢はない”夢を諦めきれず、路肩に止めた車の中で寝泊まりし、仕事を探し続ける。そんな彼らのことを住民たちは“Overnighters”と呼び、蔑みの目で見つめる。

Jessie Moss監督作“The Overnighters”はアメリカの夢という言葉の裏で繰り広げられる惨状を克明に描き出していくドキュメンタリーだ。素晴らしく完成度が高いからこそ、しかし、観る者を深く、深く打ちひしぐだろうそんな作品でもある。

映画は、ノースダコタ州のとある町で、失業者たちを救おうと奔走するJay Reinke牧師という人物を中心に展開していく。牧師は自身の教会や自宅をシェルターとして失業者たちに提供し、彼らが仕事を見つけられるよう救いの手を差し伸べ続ける。弱い立場に追いやられた者たちを救わなければならない、そんな強い信念が彼を動かす。

しかし失業者たちに向けられる物と同じ視線が、Reinke牧師にも向けられる。新聞やTVでは毎日のように失業者たちによる犯罪が報道されている。そうして、奴らは町にとっての“ゴミ”だと、理解を求める牧師に対して住民たちは怒りの声を上げる。そして牧師の協力者たちの中にも、この町で彼らはレイプし、強盗し、犯罪を犯すだけ犯して去っていく、そんな彼らに手を差し伸べる必要があるのか?とそう問う者もいる。

私はNOと言えない人間なんだ、Reinke牧師はカメラに向かってそう語る。私はYESとしか言えない、彼らが救いを求めるならその手を掴む以外に他はない。その言葉を証明するように、牧師は毎日のように失業者たちを救うことに奔走する。家族との時間を犠牲にしてすら。

それでいて、例え仕事が見つかったとしてもそれで苦悩が終わる訳ではない現実を、この作品は映し出す。石油採掘場で働く青年Keegan、彼は妻Sabrinaと息子Darrenを置いて、出稼ぎ労働者としてこの地で働いていた。仕事中いつも石油に腕を浸して作業する故に、Keeganの肌は見るも無惨に変色してしまっている。Skypeで家族の顔を見ることだけが日々の慰めだった。カメラの前にいるKeeganはいつも笑みを浮かべているが、しかし、何かを諦めてしまったような雰囲気すら漂わせている。夢など全てまやかしだった、この先良いことなど何も起きない気がする、それでもここにいる以外に道はない……

そんな現状を知らないまま、毎日のように失業者たちが町に押し寄せてくる、その数は一向に減ることがない。いつまでこれが続くのだろうか、殆どの者たちが口には出さないがそんな思いに消耗していく様をカメラは撮し取っていく、住民たちのバッシングは更に激しくなり、とうとう町議会で、失業者たちの排斥を目的とした法案が提出されることにもなる。自分はどうすればいい、どうしたらいい、ラインキ牧師はそんな現実に苦悩する。

そうして映画がラインキ牧師の行動から内面へと、描く対象が移り変わっていくにつれ、彼の信念が拠り所としていた物の残酷な真実が浮き彫りになっていく。おそらく監督も予期していなかっただろう真実が。

“The Overnighters”は、おそらく、余りにやりきれないとそんな心の地点へと観客を置き去りにしていってしまう。そして私たちはこの“The Overnighters”というタイトルの意味が永遠に変わってしまったことに気づき、途方に暮れるだろう。

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