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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

映画が好きで良かった「ラブコメ処方箋〜甘い恋のつくり方」

イラン系アメリカ人でバイセクシャルな女性の声をすくいとり、更に失恋の痛みが癒えていくプロセスを丁寧に描いたデジレー・アッカヴァン監督作「ハンパな私じゃダメかしら」そして中絶というテーマを軽やかに描き出したGillian Robespierre監督作"Obvious Child"と、2014年にはNYロマコメ史上に残る重要作品が2本も現れた……と以前の記事で書いたがアレは嘘だ。改めて書こう、2014年にはNYロマコメ史上に残る重要作品が“3本”も現れた、じゃあその3本目は何か。それこそ"Wet Hot American Summer"や「ぼくたちの奉仕活動」を手掛けてきたデヴィッド・ウェイン監督の最新作"They Came Together"a.k.a.「ラブコメ処方箋〜甘い恋のつくり方」なのである。

物語はとあるレストランから始まる。晩餐を囲みながらジョエルとモリーカップル(アントマンポール・ラッド&「ベイビーママ」エイミー・ポーラー)が友人のカイル&カレン夫妻(「スケルトン・ツインズ」ビル・ヘイダー&"Unbreakable Kimmy Schmidt"が早く観たいエリー・ケンパー)に自分たちが出会った馴れ初めを話そうとしていた。「この話はごくありきたりなラブコメみたいな話なんだ、登場人物はぼくとモリー、そしてもう1人絶対欠かせないキャラがいる――ニューヨークさ!」

モリーは最近恋人と別れて傷心モード、親友のワンダが慰めてくれるのだが立ち直れる時はいつ来るのだろう。しかも彼女が経営している小さなキャンディー屋が巨大キャンディー企業に立ち退きを求められて気が気じゃない。しかしその企業に勤めるユダヤ系のナイスガイ・ジョエルの日々も雲行きが怪しくなっていた。ライバルのトレヴァー(「40歳からの家族ケーカク」マイケル・イアン・ブラック)に結婚を約束していた恋人ティファニー("Unexpected"コビー・スマルダース)を寝取られるわ、役員の座を奪われるわ、散々な目に遭っていたのである。そんなジョエルは友人ボブ(「ディクテイター」ジェイソン・マンズーカス)から良い人紹介してやるよとコスプレパーティに誘われる。渋々ながらパーティに行くのだがその途中とある女性とぶつかり荷物が全てダメになってしまう。「どこ見てんだよアンタ!」「何よそっちこそ!」こんな人間とは早くオサラバしたかったのだが、行く先は同じ道、同じアパート、同じ階、同じ部屋、ということは……「一緒にいるってことはもう紹介する必要はない訳だな!」考える限りサイアクな出会いかたをしてしまった2人はさらにサイアクな感じでこじれていく、と思ったら……

この「ラブコメ処方箋〜甘い恋のつくり方」にはNYロマコメの全てが詰まっていると言っても過言ではない(邦題は“ラブ”コメってついてんじゃねーか、というツッコミは、あの、無しで)。サイアクの出会いかた、反目する2人、妙に粋なこと言ってくる友人たち、キスしそうでキスしない焦れったさ、ライバルの存在、2人のラブラブMV演出、そしてNYの親しみ深い風景の数々……と挙げればキリがない。敢えて具体名は出さないが、多分これを観ている間、今まで観てきたロマコメが走馬灯のように思い浮かんでくるだろう、それほどまでにコッテコテのロマコメパロディがこの映画では繰り広げられる。

だがただロマコメあるあるネタを連発するんじゃ面白くなる訳がない。監督のデヴィッド・ウェインは映画・ドラマ含めアメコメ道を十数年もの間駆け抜けてきたベテラン職人だ。彼はコメディの文法を完全にマスターした上で、馬鹿げたあるあるに馬鹿げたツイストを加えメタクソ馬鹿げたそりゃねーーーーーーよ!!!ネタで以て観客の腹筋をブチ抜きにかかる。でももう、どれもこれもホントわっざとらしくて白々しくて、確信犯的に安っぽいネタばっかなんだよこれが本当に、しかも一つ一つのシークエンスに全力投球すぎて、コントも寄せ集めみたいな印象も受ける、だけどそれが良い、最高、下ネタ、ユダヤネタ、メタネタ、ナチネタ、ポケモンネタ、カメオネタとネタを仕込みすぎて収拾つかなくなっちゃってるところもあるがそれもめっちゃ最高、この映画ではそういう欠点みたいな物全部ひっくるめて魅力になっていて、めくるめくロマコメワンダーランドを堪能することが出来る。

そしてこの映画はキャストも凄い、上に挙げたキャストの時点でもうヤバいが他にも「私にもなれる!夢の単願希望」の鼻が素敵なカエラ・ワトキンス"The Interview"の金総書記役でお馴染みランドール・パーク、ウンコネタで笑いをかっさらうベテラン俳優クリストファー・メローニモリーに言い寄るエッグバート役は「なんちゃって家族」エド・ヘルムズ、ウェイン監督作常連で「バッド・マイロ!」では尻にイボ痔モンスターを抱えるハメになったケン・マリーノ、マンブルコアムーブメントのせいで何だか日々に不満を抱える人妻役が鉄板ネタになってしまった乙女の祈りメラニー・リンスキー、更にあの俳優がカメオ!カメオ!カメオ!とキャスト陣のアホみたいな豪華さを味わうのも楽しいが、やはりこの映画の核はポール・ラッド&エイミー・ポーラーを置いて他にはいない。"Wet Hot American Summer"からウェイン監督の勝手知ったる2人がNYを舞台にロマンティックにスウィートにお下品に大暴れする様はああ、ああ素敵……家具を猛烈にブチ壊していくキスシーンとか色々ホント絶妙な掛け合いを私一生見ていたい……(恍惚)って感じなのだ。

先に挙げた「ハンパな私じゃダメかしら?」と"Obvious Child"がNYロマコメに新風を巻き起こした作品とするなら、この「ラブコメ処方箋〜甘い恋のつくり方」は今までのNYロマコメを総括する集大成的作品だ。私は何だか、この作品を観ていて、ああ私アメリカ映画好きで、NYロマコメ好きで、ていうか映画が大好きで良かったって、そう思ったんだよ、本当に、本当に……[A]

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