鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

クバ・チュカイ&"Baby Bump"/思春期はポップでキュートな地獄絵図♪♪♪

ポーランドの映画監督といえば灰とダイヤモンドアンジェイ・ワイダサクリファイスアンドレイ・タルコフスキー、個人的には去年の「毛皮のヴィーナス」がすごく好きなロマン・ポランスキー「デカローグ」クシシュトフ・キェシロフスキ、今年トロント国際映画祭に新作"11 minut"が出品されるイエジー・スコリモフモフモフスキーなどなど枚挙に暇がない。最近活躍しているポーランド人監督としては「イマジン」が日本でも今年公開されたアンジェイ・ヤキモフモフモフモフモフスキー「イーダ」でアカデミー外国映画賞を受賞した――が、私にとっては「マイ・サマー・オブ・ラブの監督――パヴェル・パヴリコフスキー、そして今年のベルリン国際映画祭で監督賞を獲得した"Body"マルゴスカ・ズモウスカなんかがいる。ここまでつらつら名前を挙げたし読んでくれた人の頭にも様々な名前が浮かんだことだろう、だけどもその名前は一切合切全部忘れろ!!!ということでヴェネチア国際映画祭特別編その2、今回紹介するのはポーランドの全く新しい才能クバ・チェカイ監督と彼の長編デビュー作"Baby Bump"である。

クバ・チェカイ Kuba Czekaj監督は1984年6月18日ポーランドヴロツワフに生まれた。ヴロツワフ映画専門学校卒業後はカトヴィツェのクシシュトフ・キェシロフスキ放送学校、そしてワルシャワアンジェイ・ワイダ・マスター・スクールで映画を学んでいた。監督デビューは2006年の"Kawalek Nieba"、慈恵病院に入院している患者たちの姿を描いたこの作品はポーランドのCamerimage映画祭の学生コンペティションに出品され話題を集める。

その翌年には3人の少年少女の出会いと旅路を描いた第2短編"Za horyzont"で再び学生コンペ入り、今度は最高賞を獲得しリベンジを果たした。そして2007年の"Mamo"と2009年の"Dom w rozach"を経て、彼を世界的に有名にした2作が"Ciemnego pokoju nie trzeba sie bac""Twist & Blood"だ。"Ciemnego pokoju nie trzeba sie bac"は少女ラタの物語だ。彼女はパパが大好きで、そんなパパのため父の日に送る歌を練習していた。しかしラタはパパが隠していたある秘密を知ってしまい……こちらはアヴァンサ、クラクル映画祭で最高賞を獲得、"Twist & Blood "はある奇妙な癖を抱えた11歳の少年“ベリーボーイ”の姿を描いた作品で、カナダ国際映画祭、キエフ国際映画祭、ポツダム映画祭で作品賞を勝ち取る。そして実はこの2作、京都国際学生映画祭で上映されていて、長編部門グランプリを連覇していたり、日本にもゆかりのある監督だったりする。

2014年には第7短編"Rwetes"を監督、1人の女性の何も起きない1日を淡々と描き出す監督としては異色の作品らしい。そして2015年、、ビエンナーレ・カレッジに選出されたチュカイ監督はとうとうの初長編"Baby Bump"を監督することとなる。

11歳の少年ミッキー・ハウス(Kacper Olszewski)はある朝起きると、小さかったはずの耳が大きな茶色いウサミミになっていることに気づきました。だけどそれだけではありません、見えるのは大きな大きな顔面、聞こえるのはグニュグニュドスンと大きな音、ミッキー・ハウスがビックリしていると顔面が彼の方を向きます、そして持っていたナイフをこちらに向け身を乗り出してきたのです。ミッキー・ハウスは逃げて逃げて逃げて逃げてドカーン!!!ジャムの瓶にぶつかってしまいました、するとどうしたことでしょう、なぜだかミッキーのウサミミがブヂブヂグデュグデュと音をたてて鮮血と共に炸裂していきます、まるでデヴィッド・クローネンバーグハッピー・ツリー・フレンズを実写化したかのような血まみれの惨劇にミッキーは悲鳴を上げることしかできません…………ああ、良かった、それは全部ミッキーの夢でした。

でもミッキーにとっては現実の方も悪夢と大差ありません。体はいつもベットベト、何だか腎臓の調子も悪くて、自分の体の変化についていけません。学校に行けばマシュマロ&撮影マニアの少女に言葉の弾丸をぶつけられ、3人組の不良ヒップホッパーには色んな物をたかられ、Mr.刑事という名のオッサンはベルトに挟んだ銃を弄りながら――多分フロイトなら銃はぺニスのメタファー、銃を弄るのはマスターベーションのメタファー(ドヤァ)とか言う類いの奴だ――「君の母さんによろしくと言っておいてくれ」「君の母さんによろしくと」「君の母さんによろしく」ってマジでキモい下心丸出し野郎で、どいつもこいつも嫌な奴ばかり。でもミッキー・ハウスにとって一番吐き気がして、一番ブッ殺してやりたい、この世で一番嫌いな相手は他ならぬ彼のママ(「木漏れ日の家で」Agnieszka Podsiadlik)だったのです…………

昨日紹介した"Boi Neon"は徹頭徹尾リアリズムを指向していたが、この"Baby Bump"はとことん非現実を突っ走っていく。冒頭のアニメ&実写なナイトメア描写を皮切りに、スプリットスクリーンや極彩色、一癖も二癖もあるキャラたちのつるべ落とし、そして自分の体が嫌いなミッキーが手に掴むのはペンチとハサミ!と、来たら、めくるめく夢みたいな自傷行為が待っている訳だが、洪水のようになだれ込む荒唐無稽なイメージはこの映画を、カートゥーンの実写化、というか実写版カートゥーンという語義矛盾な存在に仕立てあげる。最初は洒落臭く思えるところもあるが、物語が進むにつれてチェバク監督は一体何がやりたいのかがハッキリしてくる。

不良ヒップホッパーにボコられ膝を怪我したミッキーは、家に帰ってママに手当てしてもらうのだが、その時彼は勃起してしまう。ママは股間の膨らみに目を背けて去っていく、 ミッキーは恥ずかしくて恥ずかしくて死にたくなるが、さらに翌日、彼は夢精してパンツを汚してしまう。その時からママの唇や胸やイボの出来たお尻が気になって気になってしょうがなくなってしまい……"思春期、親に性欲を抱いてしまうこと"こう書くと気持ち悪いと思われる方も多いかもしれない、だけどもチェバク監督は気持ち悪いという言葉だけで切り捨てず、これをとっかかりとして思春期のジェンダーセクシュアリティについて描こうとする。

妄想がどうしても止められないミッキーは股間がベトベトになる度、ただでさえ影で何かいかがわしいことをやっているから嫌いで、何考えてるのか分からないから嫌いなママに対する憎しみは募ってきているのに、それと同時に性欲まで沸き上がってきて、自己嫌悪に自己嫌悪と自己嫌悪が重なって、世界はカラフルな無間地獄と化していく。だけども相手が何考えてるか分かんないのはママにとっても同じなのか、どうにかミッキーとコミュニケーションを取ろうと、ギューーーっとしたり、一緒にお風呂に入ろうとしたりするが、気の弱いミッキーはそれを断ることも出来ず顔をしかめながら切り抜けた後、便器に苦痛のゲロをブチ撒けたりしている。いくら自分の子供とはいえ相手のことを考えないで過剰なスキンシップをするのはセクハラだって、良く考えれば当然だが、家族という繋がりのせいで見落とされがちな事実を監督はキチンと描く。そうして自己嫌悪と性欲に追い詰められたミッキーの胸はどんどん膨らみ、とうとう彼は"Baby Bump"してしまう。

とにかく漫画的で変な描写しかない今作だが、その表現とはつまり思春期の当惑をそのまんま描こうという試みなのだ。何が何だか分からない自分の体が一体どうなっているのか分からない、そんな当惑を順序立てて理路整然と描き出したらそれこそ現実離れしている、あのグルグルグルグルと?????が群をなして回って回り続ける状況こそがむしろリアルなんだということだ。そしてその試みはもう完全に成功しているのである。

"Baby Bump"は最初から最後までフザけた演出だけで構成されながら、テーマへの取り組みかたは驚くほど真摯だ。そんな監督の遊び心と暖かいまなざしに、ポーランド映画界の新たな夜明けを見た![A-]

"Baby Bump"はSala Webにて配信中。見方はこちらのページ参照。

参考文献
http://www.kubaczekaj.com/en

私の好きな監督・俳優シリーズ
その1 Chloé Robichaud &"Sarah préfère la course"/カナダ映画界を駆け抜けて
その2 アンドレア・シュタカ&“Das Fräulein”/ユーゴスラビアの血と共に生きる
その3 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その4 ロニ・エルカベッツ&"Gett, le procès de Viviane Amsalem"/イスラエルで結婚するとは、離婚するとは
その5 Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?
その6 Lisa Langseth & "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級
その7 キャサリン・ウォーターストン&「援助交際ハイスクール」「トランス・ワールド」/「インヒアレント・ヴァイス」まで、長かった……
その8 Anne Zohra Berracherd & "Zwei Mütter"/同性カップルが子供を作るということ
その9 Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは“やる気ゼロ”
その10 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
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ヴェネチア国際映画祭特別編
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