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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

拾われたのは俺の足なのに「拾ったものは僕のもの」

実業家であるシャノン・ウィズナントは、オークションで買ってきたおかしな品の数々を、巧みな話術で高く売りさばいて生計を立てていた。この日もそうだ、いつものようにオークションで売れそうな物を見繕っていく、そして買ったのは古びたバーベキュー用グリル、しかし家に持ち帰ってそのフタを開けてみると何と驚いたことに、中には切断された左足が入っていたのである。シャロンも確かに最初は驚いた、だけどもそのうち彼は思い始める――これをネタにしたら、俺はきっと有名人になれる!

ブライアン・カーベリー&J・クレイ・トゥイール監督作「拾ったものは僕のもの」aka"Finders Keepers"は一本の切断された足を巡って、21世紀に甦ったP.T.バーナムとその足の本当の持ち主がアメリカ全土を巻き込み繰り広げる騒動を描き出したドキュメンタリー映画だ。そんな風に書くとコミカルな内容を想像するかもしれない、しかしただコミカルなだけでは終わることのない所がこの映画の魅力でもある。

さて、シャロンが見つけた足の本当の持ち主とは誰だろう。それはジョン・ホッジという男だ。事件から遡ること3年前、ジョンは飛行機事故で左足を失うという悲劇に見舞われてしまう。骨だけは残しておきたいということで、回収された左足を家に送ってもらったのだが、葬儀屋の怠慢で切断された左足(しかもゴミ袋入り!)がそのまま送られてくる。返そうにも自分の足だし……と躊躇したジョンと彼の家族は色々やる。色々。腐らないよう近くのレストランの冷蔵庫にブチ込んでおき、店長にバレたら裏口から足を運び出して逃げたり。そんなこんなで結局、ジョンは友人から防腐剤を借り、足をミイラ化、ミイラ化って……という感じだが、とにかくミイラ化させるため家に生えた木の上で太陽光に当て放置、してたら、家が抵当に入り、何故か足は中古グリルに放り込まれて、あれよあれよとシャロンの元にという訳だ。

シャロンが手にした足それ自体は、もちろん警察に回収され、取り合えず死体安置室的な場所に置かれる訳だが、彼はグリルを"これには人間の、本物の足が入っていた!"と宣伝し、子供1ドル大人3ドルで見世物興業を始めてしまう。テレビニュースでも取り上げられるや、見世物は大盛況を迎えるのだから、まあ。そのうち足の存在をジョンが知り、返してくれと頼みに来るがシャロンは、金出して買ったコンロに足入ってたんだからもう俺のモンだ!と断固拒否、そうして足の所有権を懸けた2人の戦いが幕を開ける。しかし監督たちの眼差しは戦いそれ自体にばかり向かわない、むしろ彼らは渦中の2人のその心に寄り添おうとする。

足の持ち主ジョンは裕福な家庭の生まれで、何不自由なく育ってきた。だが彼はあるきっかけから麻薬中毒に陥り、家族の信頼、特に仲睦まじく彼の目標でもあった父の信頼を失っていってしまう。彼の母や姉、姪たちの言葉には苦労の色が滲み、ジョンの苦闘も浮かび上がってくる。それでも更正しようとした矢先に飛行機事故が起こり足を失い、人生は再び滅茶苦茶になり、滅茶苦茶なのを正そうとしたなら足事件が勃発し、彼の人生はどんどん予測不能な方向へと転がっていく。そしてシャロンには父への屈託がある、幼少期の彼は虐待まで行かずとも、怒声を浴びせられ叩かれ、父に愛された記憶は残っていない。それが影響を及ぼしているのか、シャロンには誰かに認められたい、有名になりたい!という大きな欲望がある。こうした2人の背景を丹念に描き出していくことで、映画は深みを増していく。

シャロンの欲望はますます肥大化、"俺は足男だ!"と人前で叫び、コンロと足の描かれたTシャツをバカみたいに売りまくって金を稼ぎ出す。それとは対称的にジョンは金には目もくれず、所有権を巡って徹底抗戦、テレビ上での公開裁判沙汰にまで発展するのだが、あれほどコミカルだった戦いが段々と悲壮感を帯びるようになってくる、だが物語の鍵が実はその感覚なのだ。つまり「拾ったものは僕のもの」という物語が描くのは、1つの事件を通じて2人の人間の人生が静かに、劇的に変わっていく光景であり、監督たちは"変わりゆく"ということに人が普遍的に抱くだろう悲しみを真摯にすくい取る。それでもその変化は悪いことばかりではない、この物語が終わる頃、悲しみは様々な形で観る者の心に染み渡っていくことになるだろう。[B+]

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