鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

レスリー・ヘッドランド&"Sleeping with Other People"/ヤリたくて!ヤリたくて!ヤリたくて!

それは12年前のこと、ある所にジェイクとレイニーという名前の大学生がいました。2人にはあるコンプレックスがありました、それは1回もセックスをしたことがないことです。しかし何の因果か1人の童貞と1人の処女は大学寮で運命的な出会いを果たし、寮の屋上に置いてあるソファーの上、夜空に瞬く星を見ながら初めてのセックスをしたのです……

と、そんなシーンから始まるコメディ映画がレスリー・ヘッドランド監督3年ぶりの最新作"Sleeping with Other People"だ。あのクズ女子3人組が映画を通じて一歩も成長しない、だからこそ素晴らしい「バチェロレッテ -あの娘が結婚するなんて-」を産み出したロマコメ界の風雲児の新作と聞けば心踊る人々も少なくないだろう。さて、まず結論を言ってしまおう、本作はその大いなる期待に答える……ポテンシャルはありながら、何とも惜しい出来になってしまっていたのが実状だ。

時は現在に至り、あの初々しかった童貞と処女は立派なヤリチンとヤリマンになってしまっていた。ジェイク(「なんちゃって家族」ジェイソン・サダイキス)は恋人がいながらも、溢れる性欲を抑えきれずに彼女の親友とセックス!それがバレ、何やかんやで車に轢かれる羽目に。更にレイニー(「コミ・カレ!!」アリソン・ブリー)は昔の恋人、マシュー(「バチェロレッテ」から続投のアダム・スコット)と16回ヤりまくったことを良心の呵責から婚約者に告白、この娼婦が!と吐き捨てられ婚約は破棄に。さらにマシューが結婚するからこの関係は終わりと言ってきて、彼女は愛の路頭に迷ってしまう。

このままじゃいけないとセックス依存症患者の自助会へと足を運ぶジェイクとレイニーだったが、そこで2人は12年ぶりに再会を果たす。とは言え最初は、久しぶり、元気だった?こんなトコで会うとはね、ハハハ……とぎこちない感じだが、何度か会ううちに昔の親しさを取り戻していくジェイクたち。そんな中で2人はある提案をする、自分たちは異性と知り合いになったら誰彼構わずセックスしてきた、だけどそろそろNOセックスな友人が欲しい、だから互いが互いにとってそういう存在にならないかと。

ここから2人の苦闘が始まる訳だが、セックス依存症をテーマにしてきた他の作品と違うのはジェイクもレイニーも依存症を治す気はクソほどもない点だ。ジェイクは女性と見れば部屋連れ込んでヤりまくる、レイニーはマシューの面影を追って右往左往。つまり2人が欲しいのはセックスなしにそんな自分の存在をセックス依存症込みでそのまま受け止めてくれる友情の存在なのだ。そしてまた2人の姿をもヘッドランド監督は丸っと受け止めていく。

このドタバタな苦闘を彩るのがマシンガンのように放たれる超ドレッドノート級な下ネタの数々だ。レイニーとマシューのセックスにはレンズフレアが無駄に煌めき(某惑星大戦争の監督への当て付けか?)、オナニーのやり方を良く知らないというレイニーに対しジェイクは緑茶ボトルを使ったマスターベーション講座を開講、クリトリスの愛撫に至ってはチュクチュクチュクチュクヘヘイヘイヘヘイお下劣DJ参上だぜ!って感じで悪ノリも甚だしい。舞台仕込みの魅力的なダイアローグの乱打は他のロマコメ作家を圧倒するほどにダイナミックだ。

俳優陣についても語っておこう。ジェイクの同僚であり親友のザンダー役はジェイソン・マンズーカス、一度見たら忘れられないモジャモジャ容姿の彼は最近の米コメディには欠かせない存在だ。ジェイクの上司で気になる相手ポーラはデュプラス兄弟が監督するTVドラマ"Togetherness"で復活の兆しを見せ始めているアマンダ・ピートナターシャ・リオンはレイニーの友人役、前作「バチェロレッテ」から唯一の続投俳優であるアダム・スコットはキモい口髭を付けたレイニーの元彼と堪らないキャスティングだが、特筆すべきはインヒアレント・ヴァイスで大ブレイクを果たしたキャサリン・ウォーターストンがスコットの婚約者役で出演していることだ。実は彼女、舞台版「バチェロレッテ」で映画版においてはジーキャプランの役を演じていたのであるが(そういう意味でアダム・スコットの婚約者役というのはニヤッと来る組合せだ)、少ない出演時間で豪快に笑いをかっさらっていく感じが素晴らしい!

だがメインはもちろんジェイソン・サダイキスアリソン・ブリーの2人だ。内省のないクズであるジェイクと内省はするけどクズであるレイシーが2人の熱演で実体を持ち、遠くから見てる分には良いけど実際巻き込まれるのは嫌だな……というアッパーさで映画を牽引していく様はその勢いや良し!特にデヴィッド・ボウイ「モダン・ラブ」をバックに2人が躍り狂うシークエンスに満ち溢れる多幸感は何とも言えない。そんななのに、いつしか映画は2人のとある横顔によって1つの痛みある切なさへと辿り着くのだから恐れ入るものだ。

だからこそラストの展開はヘッドランド監督とは思えない普通さに墜すのが余りにも惜しすぎる。いや普通のロマコメだって良いんだよ、良いんだけども、序盤・中盤・終盤の前半あんなに攻めてたのに残りが何故にあんなに保守っぽいのか!となってしまったのが否めない、何で主人公たちを成長させちゃってるんだ……そして思ったのはだ、ヘッドランド監督なんか大人になっちゃったなってことだ、あれから3年経って何があったか知らないけど、監督は大人になってた、私は完全に置いてかれたってさ、そういうこと……面白かったんだけどもそういう意味でね、"Sleeping with other people"には一抹の寂しさを感じたんだな……


ポスト・マンブルコア世代の作家たちシリーズ
その1 Benjamin Dickinson &"Super Sleuths"/ヒップ!ヒップ!ヒップスター!
その2 Scott Cohen& "Red Knot"/ 彼の眼が写/映す愛の風景
その3 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その4 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その5 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その6 ジェームズ・ポンソルト&「スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜」/酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい…
その7 ジェームズ・ポンソルト&"The Spectacular Now"/酒さえ飲めばなんとかなる!……のか?
その8 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その9 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その10 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その11 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その12 ジョン・ワッツ&"Cop Car"/なに、次のスパイダーマンの監督これ誰、どんな映画つくってんの?
その13 アナ・ローズ・ホルマー&"The Fits"/世界に、私に、何かが起こり始めている
その14 ジェイク・マハフィー&"Free in Deed"/信仰こそが彼を殺すとするならば
その15 Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く
その16 Leah Meyerhoff &"I Believe in Unicorns"/ここではないどこかへ、ハリウッドではないどこかで
その17 Mona Fastvold &"The Sleepwalker"/耳に届くのは過去が燃え盛る響き
その18 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その19 Anja Marquardt& "She's Lost Control"/セックス、悪意、相互不理解
その20 Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路
その21 Whitney Horn&"L for Leisure"/あの圧倒的にノーテンキだった時代
その22 Meera Menon &"Farah Goes Bang"/オクテな私とブッシュをブッ飛ばしに
その23 Marya Cohn & "The Girl in The Book"/奪われた過去、綴られる未来
その24 John Magary & "The Mend"/遅れてきたジョシュ・ルーカスの復活宣言