鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Clément Cogitore&"Ni le ciel ni la terre"/そこは空でもなく、大地でもなく

2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件が発生、それを受けジョージ・W・ブッシュ大統領はテロとの戦いを宣言した。タリバン政権の関与が示唆され、アメリカはイギリス、カナダ、ドイツなどと共同でアフガニスタン派兵を行うこととなるが、その中にはフランスも含まれていた。シラク大統領下においては戦闘自体が行われることは少なかったが、2007年にニコラ・サルコジが大統領に就任し親米路線を取るようになってからは部隊数は増援され、兵士たちはアフガンの危険地帯に送られることとなる。その結果、2008年にはタリバンの攻撃で駐留フランス兵10人が死亡するという事態が起こるなど戦闘は泥沼化、2012年には戦闘部隊が全軍撤収されるも、現在もフランス軍の駐屯は続いている。

このアフガン問題を描いたフランス映画は数多く作られており、日本においては2010年製作の「アフガントラップ」や、フランス軍特殊部隊がタリバンに誘拐されたジャーナリストの救出に奔走する一作スペシャル・フォース」などが鑑賞可能だ。そして先日紹介したアリス・ウィノクール監督作「ラスト・ボディガード」(紹介記事)においては、主人公のヴァンサンはアフガン派兵の後にPTSDを発症という設定であり、作品自体もフランスが負う傷の深さが伺える1作ともなっている。さて今回紹介するのはそんなアフガニスタンで任務を遂行する兵士たちの姿を異様な筆致で描き出した作品"Ni le ciel ni la terre"を紹介して行こう。

Clément Cogitoreは1983年フランス・ラプートラワに生まれた。ル・フレノワ国立現代芸術スタジオで映像制作について学び、2006年に短編"Chroniques"で映画監督としてデビューを果たす。今作がベルフォール映画祭で賞を獲得したのを皮切りに、2007年の短編ドキュメンタリー"Visités"はヴァンドーム短編映画祭で審査員特別賞、2011年の"Parmi nous"はベロ・ホリゾンテ映画祭で作品賞を獲得するなど話題になる。同年には"Bielutin - Dans le jardin du temps"カンヌ国際映画祭の監督週間に選出されると同時にビデオ・インスタレーションの製作も開始、パレ・ド・トーキョーやMOMAで個展されるなどする。そして2015年には自身初の長編作品である"Ni le ciel ni la terre"を監督する。

2014年アフガニスタン・ワハーン地区、この地にはアンタレス大尉(「HAKUGEKI 迫撃」ジェレミー・レニエ)率いる小隊が駐屯しており、武装勢力の襲撃に備えながら日々を過ごしていた。丘の上から敵の姿がないか監視に明け暮れ、基地に帰った後にも肉体の鍛練は欠かさない。万が一襲撃されようと彼らは冷静に対処し、敵を殺害していく。だがそんな日々に兵士たちの心は磨り減っていく。

ある日、アンタレスの大事にしていた軍用犬が突然姿を消すという事件が起こる。これを境にして2人の兵士が謎の失踪を遂げ、更に1人、また1人と数が増えていき、基地内には動揺が広がる。それと時を同じくして、近隣住民たちが深夜に何らかの儀式を執り行っている姿が目撃される。彼らは家畜の羊を葬るための儀式と言うが、同時にタリバンの活動も活発化し始め、兵士たちの心は不信感で満たされていく。

"Ni le ciel ni la terre"の全編には言い知れぬ不穏な影が漂っているが、その影は荒れ果てた岩の山々にこそ宿っている。監督はロケーションについてこういった言葉を残している。"実際の撮影場所はモロッコの人里離れた山間の谷です(中略)近くの町まで車でも90分かかる場所でした。ですから私たちはこの映画の撮影は、全てから遠ざかり山の中に迷い込むとはどういうことかを実験することでもありました。撮影はとても大変でした。気温や砂嵐、サソリなど肉体的な問題に直面せざるを得なかったのですから。ですがそのおかげもあり、あの奇妙な風景の中で世界の終りを彷徨うという感覚を作り上げることが出来ました"

撮影監督の捉えるアフガニスタンは生命の彩りが根こそぎ刈り取られ、硬く乾いた岩の塊ばかりが積み上がる不毛の地だ。周到な武装と銃を身につけ、そんな険しい岩山を兵士たちは練り歩くが、画面の向こうにいる私たちの肌を刺すほどの激熱は過酷すぎる日々を雄弁に語る。そして夜、岩山には紫色の薄い膜がかかる。それは禍々しい存在の到来を語る、私たちの想像を越えた不可視の超越が到来することを。

監督はインタビューにおいて"フランスは理性主義の国である"と語るが、今作のテーマはその理性を重んじる価値観と超越の衝突にある。理性の象徴はアンタレス大尉だ。最初は威厳を以て小隊を率いるリーダーながら、怪異が彼らを襲うようになってからは、タリバンの襲撃や近隣住民の裏切りなど失踪の理由を並び立て、小隊どころか地域一帯を混乱に陥れる。そんな理性に固執する彼の姿は無能以外の何物でもない。兵士たちは彼への信頼を失い、襲いくる超常に恐れおののくしかない。

この作品を一言で示すとするなら"寄宿舎の少女をフランス軍に置き換えた「ピクニックatハンギング・ロック」"だ。見えない何かに導かれ姿を消す少女/兵士たち、事態に対処できずむしろ状況を悪化させる教師/上官、取り残された者たちは成す術もなく、だが彼女/彼らの心もまた変容を遂げる。少女たちが金切り声によって苦痛を叫ぶ中で兵士たちはまた違う方法論を取る。ある時、1人の兵士が基地内のスピーカーを起動させエレクトロニカを響かせる。そして彼は上半身裸で体を躍動させる。しかしそれはナイトクラブで披露する類いのものではない、彼は2本の足で体を支えながら体を不気味なまでに痙攣させる、鎧さながらに纏う筋肉の震え、周囲の兵士たちはその光景をただ眺めるしかない。兵士の両の肩甲骨には眼を模したタトゥー、その不気味な蠢きは男たちを越え、私たちを見据える。超常への恐怖、震えと同時に超常への抵抗が浮かぶ一瞬。2つの拮抗を不穏なる筆致で描き出した1作がこの"Ni le ciel ni la terre"なのだ。

参考文献
https://www.fandor.com/keyframe/clement-cogitore-on-unfinished-mourning-and-neither-heaven-nor-earth(監督インタビュー)

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