鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺

ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
ジョー・スワンバーグの作品についてはこちら参照。

ジョー・スワンバーは自身の作品において人と人との“関係性”を一貫して描く上で、絶対にセックスを描くことを忘れない。デビュー作の“Kissing on the Mouth”から最新作のドラマ「EASY」まで、気軽なセックス、居たたまれないセックス、エロティックなセックス、笑いの溢れるセックス、男女のセックス、男性同士のセックス、女性同士のセックス、若者たちのセックス、もう既に若くない者同士のセックス、彼の作品では様々なセックスが描かれてきた。そんな中で、スワンバーグがセックスと並列するもう1つの性行為、つまりはオナニーを題材とした作品を1作品だけ作っている。その唯一の作品が2011年の変態性愛路線真っ只中に作られたオムニバス映画“Autoerotic”だ。

まず1話目から紹介しよう。殆どのキャラには名前がないので便宜上俳優の名前をそのまま使おうと思うが、1話目の主人公レイン(「サプライズ」レイン・ヒューズ)はとある大きな悩みを抱えていた、それはぺニスが異様に小さいことだ。恋人のエイミー(サクラメント 死の楽園」エイミー・サイメッツ)は気にしないと言ってくれるが、情けなさばかりが先に立つ。ある時彼はぺニス増強サプリの広告を見つけ、早速試してみるのだが……そして2話目の主人公ケイト(ガールフレンド・エクスペリエンス」ケイト・リン・シャイル)もやはり悩みを持っている、性欲が無尽蔵に迸るという悩みを。彼女は恋人ジョー(スワンバーグが兼任)とのセックスに飽きたらず、セックス後にオナニー、職場のトイレでオナニー、自転車に乗っている時ムラムラし道端でオナニー……

“Autoerotic”はスワンバーグ作品としては初めてである、4話の短編から構成されたオムニバス映画となっている。今作の翌年にはマンブルゴア組大集合のホラーオムニバス「VHSシンドロームが製作されるが、その前哨戦が今作と言っていいかもしれない。そして構成上、スワンバーグが2016年に製作するシカゴに生きる人々のライフスタイルを描くドラマシリーズ「EASY」へも繋がっていく。ある意味では「EASY」の変態性愛バージョンがこの“Autoerotic”なのである。

4つの短編に共通して描かれるのは性的な不満だ。例えば1話は自分のぺニスが異常なほど小さいこと、2話は性欲が異常に湧いてくること。そして3話、この短編の主人公はクリス(「ハンナだけど、生きていく!」クリス・スワンバー)とフランク(Frank. V. Ross)のカップル、クリスは現在妊娠中なのだが、そのせいか2人ともセックスで満足できなくなっていた。フランクは彼女を気持ち良くさせてあげられない自分を責め、クリスは自分の体の変化に戸惑い、まるでフランクが自分の体の中でオナニーしているような一方的な感覚を抱いてしまう。そんな中彼女の親友であるジョセフィン(Josephine Decker)が1つの提案を持ちかけてくる。

だが今作の場合、欲求不満はただ簡単に解消される訳ではない。その裏側にいるのが共同監督アダム・ウィンガードと共同脚本サイモン・バレットだ。ご存じの通り、彼ら2人は「サプライズ」「ザ・ゲスト」などのホラー映画で頭角を現してきたマンブルゴア界の若き俊英だ。短編の1つ1つは基本的に変態性愛路線驀進中だったこの時期のスワンバーグ作品と同じく、目の前の光景を観察、時には盗み見るような窃視的撮影なのだが、それがホラー的な飛躍を遂げるのだ。つまり両者の長所が巧い具合に融合している訳である。

その時要となるのが、題名にもある“Autoerotic”という言葉だ。これは普通のオナニーに満足できなくなった人々が逸脱したオナニーに耽溺していく様を指し示す言葉なのだが、有名なのは俳優のデヴィッド・キャラダインだ。彼はキル・ビルに出演した直後に凄まじいオナニーをして(詳しくはググって下さい)命を落とす結果となった訳だが、命を失うまでとは行かずとも今作においてホラー的飛躍=オナニーの逸脱を意味している。そしてそこには様々な要素も関わってくるのだ。

1話においてぺニスの小ささに悩むレインは、つまり“男らしさ”のあり方を自分が達成できていないことに気を病んでいる。劇中で彼は口ごもりながらエイミーに悩みを吐露する、映画やテレビに出てくる奴らはこう………………でもとにかく俺の何か無いに等しいだろ。この沈黙は映像作品においては男女問わず“男らしい/女らしい”完璧な肉体を持つ人物ばかりが現れることを意味しているのは明らかで、それを観るうち劣等感によってセルフイメージが捻じ曲がっていくことを示している。こういった身体への内省はスワンバーグ作品には欠かせないものだが、この要素が後半ウィンガードに委ねられると……という訳である。

2話にはセックスにおける支配関係も絡んでくる。ジョーは自分の要求をケイトに突きつけるばかりで、彼女自身が抱く性欲には見向きもしない。そうして性欲が肥大していき、友人であるエイミー(そう、1話のエイミーである。4話は微妙に登場人物が共通しているという関係性で、その意味でも「EASY」の雛型でもある)から薦められ、逸脱したオナニーに手を出すことになる。そして3話ではクリスとジョセフィンがセックスの探究に勤しむ頃、我慢できなくなったフランクが密やかにある行為を行うこととなる。この2作品にも逸脱が見られるのだが、全体の手綱を握っているのはスワンバーグのようで、どちらも倫理的に白とも黒とも言えない結末に辿り着く。頗るモヤモヤさせられる複雑さを宿しているのだ、正直観た後は心がザラつく。

その曖昧さを爆発するような吐き気で吹っ飛ばしてくれるのが最終話だ。今話の主人公アダム(ウィンガードが兼任)は他人とのセックスを撮影し、そのハメ撮りを見ながら四六時中オナニーしているクソ野郎だ。ある時以前セックスしたアン(Rosemary Plain)が彼の元にやってきて、もしあの時の動画が残っているなら今すぐ消して欲しいと頼みにやってくる。だがこのクソ野郎はただでは消したくないと、ある交換条件を提示してくる。

さて、ここからは少し“Autoerotic”から離れジョー・スワンバーグ作品全般におけるある傾向について書いていこう。その流れで登場人物の誰も彼もがバンバン全裸になり、バンバンセックスしまくる。そしてそれは上述した、映像作品においては現実からはかけ離れた完璧な肉体(Photoshopバリバリ)を持つ人物ばかりが登場することにするアンチテーゼであり、脂肪がプヨプヨで不格好な、言うなればもう本当に生々しくて普通の肉体ばかりが彼の作品には多く登場する。それも全て自分たちの現実を語るためだ、あんな完璧でなくていい、こんなプヨプヨした肉体だっていい、劣等感なんて感じる必要はないんだ、スワンバーグはこうして率先して裸体を晒すことで、映像作品における裸に対する意識改革を行ってきた(そんな彼の正統後継者が「Girls」レナ・ダナムでもある)

だがここで思わぬ問題が1つ生じる。裸の撮影どんとこい!自分の裸がエロ動画サイトに流れたっていい!というスワンバーグ及び役者たちの心意気は、スワンバーグ作品が役者の人生を反映するという特性を持つ故に、当然の流れで彼らが演じる登場人物たちの性格にも反映されていく。そして何が起こるかと言えば、スワンバーグ作品においてはかなり多くの登場人物が自分の裸やセックスを撮影するのだ。例えばLOLではグレタ・ガーウィグが恋人のために裸の写真を携帯で撮ったり、“Uncle Kent”ではケント・オズボーンが目の前で繰り広げられるセックスを撮影するなどなど。こういった描写はかなり軽いタッチで挿入されるのだが、問題はこれらにおいてセックスを撮影することの攻撃性/差別なども軽く扱われることだ。一旦セックス動画が撮影されたなら、ここには男女間の権力勾配が生まれる。例えば男性から女性に対するリベンジポルノによる報復、その後動画がネットに流れてしまえばかなりの確率で全てを消去することは出来ない。この被害者のほとんどは女性であり、彼女たちにとってセックス動画は一生続く性差別的な呪いと成りかねない。スワンバーグ作品はこの現実をかなり軽視している。自分たちのリアルを描くという心意気/プロ意識が、結果的に自分の作品をリアルから遠ざかる要員ともなっているのだ。

だがその意味で“Autoerotic”の4話にはそういった状況に対する一応の内省が存在していると言ってもいい。今話ではキチンとセックス動画を自分の欲望のために撮影する人間は悪だと描かれている、例えそれが女性側から許可を取っていてもだ。それでも手放しに誉められる訳ではなく、物語が進むにつれアダムはサイコスリラーに出てくる類いの変態野郎へと変貌を遂げ、このセックス動画を撮影すること/人物が現実を反映した恐怖ではなくホラー的な恐怖に回収されてしまう。もちろんこれはホラーなのでそれは正しいと言えば正しいし、今作のホラーとしての完成度は吐き気がするほど高かったりするのだが、そこは少し物足りない。マンブルコアの流れにおいては、セックス動画の危険性、それが流出した際の地獄とその余波を完璧な形で描き出したエイミー・サイメッツによるドラマ作品ガールフレンド・エクスペリエンスを待たなくてはならない。

とは言え“Autoerotic”はオナニーについての奇妙で不気味な教訓話として高い完成度を誇っている。今作においてオナニーとは自分とのセックスである。つまりセックスは他者との対話であるのならば、オナニーは自分との対話という訳である。であるからして肉体的にも精神的にも自分を傷つけるようなオナニーは、最終的に他者を傷つけるセックスへも至ることになる。だからこそ自分の肉体を愛する術を身につけなくてはならない。この4つの変態話にはそんな教訓が示されてるのかもしれない。まあ、ただ単にスワンバーグが変態性愛小噺を作りたかっただけなのかもしれないが……

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で