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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

イヴァン・アンドノフ&"Vchera"/ブルガリアに響くイエスタデイ

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60年代のブルガリア、他の国がそうであったように共産主義国家であったこの国にも、ビートルズなどのロックミュージックや性の解放がもたらされるなどして、自由の気風が高まりを見せていた。だが今作の舞台となる寄宿学校はそれとは真逆の方向を行っていた。イギリスに多大なる影響を受けている癖して、学ぶのはシェイクスピアだとか昔の文学ばかりだ。規律も余りに厳しくて自由がない。そんな現状に生徒たちが不満を抱く中、とある女子生徒が父親の分からない子供を産み、学校はにわかに揺れ動き始める。
 
この作品はブルガリア版「初体験/リッチモンド・ハイ」と呼ぶべきかもしれない、軽妙な青春コメディだ。妊娠で一騒動起こったり、ロックミュージックで一悶着が起こったり、男子も女子も下らないことで騒ぎまくって大人に楯突きまくったり、とにかく全編から若い活力がみなぎっている。
 
題名はブルガリア語で“昨日”を表している、つまりはビートルズの「イエスタデイ」が題名の元ネタな訳で、実際ビートルズなどのロック楽曲が流れて楽しい。のだが、権利料の関係なのか何なのか流れる曲は少ない。その代わりに何故だか官能的なジャズと80年代の空気を濃厚に反映した安っぽい電子音楽がガンガン流れるのだ。60年代にこの音楽群がチグハグな印象を受けるが、そのチグハグさが逆に味になっていて宜しい。
 
そして今作で興味深いのは共産主義下における身体設計みたいな物が垣間見られることだ。ルーマニアにしろソ連にしろ共産ブロックは体操競技に異様な熱を入れていたのはご存じの通りだが、今作ではとにかく青年たちが脱いで体操しまくる。OPでは野郎脱ぎ青年たちが筋トレに励み、上半身裸でバスケットに勤しむ(以前紹介した"Megáll az idő”にも同じようなことしてるハンガリー高校生が出てきた)寮生の部屋には鉄棒が用意してあって、手前で主人公たちが喋ってる時に奥でモブ青年が大車輪してるとかザラだ。アメリカの青春映画は女性の裸が多いが、共産主義の青春映画は男性陣の裸が多いという発見がある。マジでバンバン出てくる。
 
ここで描かれるのは完全に体制に反旗を翻しまくる青年たちの姿な訳で、ちょいちょい監督大丈夫か?と思ったりするが、製作年が1987年と共産主義体制も末期なので大丈夫だったのか?という気がする。監督のイヴァン・アンドノフ Иван Андоновは俳優として活動すると同時に60年代から活躍している映画作家で、とある男女の愛の放浪を描き出したロマンス"Trudna lyubov"(1974, 監督自身が主演)や、2人の女性が運転免許を取ろうと悪戦苦闘する姿を描いた"Dami kanyat"(1980)、空前の色男が巻き起こす騒動を描き出したコメディ映画"Opasen char"(1984)などが有名。
 
ポスターにもビートルズ

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