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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Salomón Pérez&"En medio del laberinto"/ペルー、スケボー少年たちの青春

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さて、ペルーである。アンデス山脈の険しさ、リャマの可愛さ、日系人の多さなどなど日本人にも親しみ深い国の1つかもしれない。だがこの国の映画を観た人は少ないかもしれない。古い映画だとアルマンド・ロブレス・ゴドイ監督の「みどりの壁」が、新しい映画だとクラウディア・ジョサ「悲しみのミルク」が有名だろうか。しかし2010年代以降のペルー映画は知られていないのが現状である。という訳で今回はそんな国から現れた気鋭の作家Salomón Pérezと彼のデビュー長編"En medio del laberinto"を紹介していこう。

今作の主人公は10代の青年レンソ(Renzo Mada)、彼は母親と一緒にペルーの首都であるリマに住んでいる。彼は学生であるが勉強もせずに、ハードコアを聞きながら、友人たちとスケートに明け暮れる日々を送っていた。そんなある日、彼はゾエ(Astrid Casos Portocarrero)という少女と出会い、恋に落ちるのだったが……

今作はレンソのダラダラとした日常を描き続ける。彼はスケート場で様々な技に挑戦しては失敗し、時々はちょっと成功する。その合間には友人たちと他愛ないお喋りを繰り広げ、夜には家に帰る。反抗期的な態度のままに母親と晩御飯を食べた後、部屋に籠ってハードコアを聞くのである。そんな何の変哲もない日常がただただ続いていく。

監督は撮影監督であるGilberths Martín Rebaza Ponce de Leónこういった日常をめくるめく映像で描き出していく。例えば今作は16mmフィルムで撮影されており、フィルムの粒子が鮮やかに煌めいているのが分かる。そして四隅は丸っこくなっており、どこか夢見心地な雰囲気を醸造することとなっている(最近この丸枠画面をよく見るのだが、リサンドロ・アロンソ「約束の地」震源だろうか?)

そしてその合間には監督自身が作曲した電子音楽が流れ続ける。浮遊感あるその響きはいわゆるベッドルーム・ポップに属するだろう音楽であり、この映し出される世界に漂うような感覚が味わえる。この映像と音楽の組み合わせ、私はラテンアメリカのインディーバンドが大好きなのだが、そのPVを彷彿とさせるものだ。

と、説明するといわゆる80年代90年代にアメリカで流行ったMTV映画みたいな軽薄さなんじゃないか?と疑問に思う方もいるかもしれない。正直に言うと、私自身そんな印象を持っていて、最初は今作にあまり良い印象を抱いてはいなかった。しかしこの物語を目の当たりにし続けるうち、私はあるものを見出したのである。

映画好きならば、こういった10代の青春映画というものを好き嫌いに関わらずよく観ることになると思うのだが、私はそういった作品があまり好きではない。例えば去年だと「エイスグレード」"Booksmart"に乗れなかった。それは何故かと言うと、こういった青春映画は全てフェイクに思えるのだ。それは10代の青春を描いているのに、作り手のほとんどが20代や30代であるのだ。現実にはその時代を終えた人物が10代の青春を語り、"青春の喜びや苦しみだ!"と言う訳である。私はそれに苛立ちを覚えるのだ。

だが今作に関して言えばそうではない。今作の演出は退屈で怠惰で甘酸っぱい、そんな洗練のない青臭いものである。だがそれが誰も描けなかった青春のように思える。退屈で怠惰で甘酸っぱい、そんな洗練の一切ない青臭さだ。監督はこの演出を徹頭徹尾続けることで、まるで10代によって監督された10代の青春映画を作り上げることに成功している。

"En medio del laberinto"は青春の1つの真実に到達している稀有な映画作品だ。最後、レンソがゾエに語る愛の風景は何てぎこちなくも優しく、甘美なものだろう。この題名の意味を知る時、私たちの頬は柔らかく緩むはずだ。

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