鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

リチャード・フライシャー再考その2

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20210427135255p:plain

ということでリチャード・フライシャー作品を観続けている。1984年制作の「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2」/ "Conan the Destroyer"にはマジで感動した。いや、絶対午後のロードショーで観てたとは思うんだけど、こんなにも豊穣な作品だったのかと。ファンタジー映画において、設定でなくビジュアルで世界観を魅せるというのは、当然だとは思われながら実際には本当に高くて困難なハードルだと思える。だけどもフライシャーと撮影監督のジャック・カーディフ、そして忘れちゃいけない多くの特殊効果スタッフは、こんなにも容易く、威風堂々と飛び越えてみせる。それに衝撃を受けた。

その威風堂々さのなかで、しかし外連味もあって本当に楽しい。あの氷山のなかの鏡の空間の幻想性、かと思えばそこに現れる笑撃のトカゲ人間。でも割と強いんだよな、あいつ。そこからのシュワちゃん、鏡大破壊祭り。すげえのなんのって。本当、子供のように無邪気に楽しんでしまった。それでいて子供の頃分からなかったものが、今見えた気がする。感動以外の何物でもなかった。

1977年制作の「王子と乞食」"The Prince and the Popper"はその割を喰ったかもね。。別に悪くはないんだよ、冒頭の雑踏追っかけっこの素晴らしい躍動感、英国貴族の絢爛豪華たる汚らわしさ、アーネスト・ボーグナインの眉毛とオリヴァー・リードの胸毛乳首のハーモニー。いやリード、映画で毎回上半身露出しているイメージしかない、マーク・ウォールバーグかよ。だけども世界観の立ち上がり方とか「コナンPART2」の後に観るといささかか見劣りって感じで、何とも言えない出来だった。

1952年制作の日本未公開作"The Happy Time"1920年代カナダに生きるフランス移民の家族を描く1作だった。ある少年がのらくらで馬鹿だけど信念がある男たちに囲まれ成長するみたいな。だが"男ってやつっていつだって、いつまでも馬鹿"みたいな甘やかな郷愁が虫歯を量産するレベルの有害さだ。職人気質のフライシャーには珍しいまでに深い思い入れ、もしくは自己耽溺。見苦しいことこの上ない。

だが1974年制作のマジェスティック」/ "Mr. Majestyk"は予想に反して素晴らしかった。午後のロードショーとかで観ている筈だけど、その時は今作の面白さに全く気付けていなかった。ブロンソンのスイカへの熱き想い、それを嘲笑うスイカ大虐殺、泣けるね。だが最終決戦がすごい。無音と銃声の狭間を忍ぶブロンソンの渋みと薄笑いの哀愁は絶品。場を静寂で満たすさの手捌きといえばフライシャー作のアクション場面でも最上の1つ。冒頭に切れ味と血肉湧く激しい銃撃戦を置いたうえでのあの静謐は正に神懸かり的なアンチ・クライマックスで圧倒された。

でもその素晴らしさですら同年制作の「スパイクス・ギャング」/ "Spikes Gang"の前では霞むんだから困った。冒頭の荒野と少年たちの暖かな視線から、もう涙が溢れそうになった。そんな果てしない荒野で若さを生きる青年たちの切なさと多幸感、それをここまで胸を引き裂くほどの慎みと美を以て描いた作品があったか。70年代アメリカ最高の青春映画として屹立するべきフライシャーベストの1本。あまりにもやるせない、やるせないよ。

それから今作を観ながら、頭に思い浮かんだのはイヴァン・パッセル監督作「男の傷」だった。何か朧げな蜃気楼を思わす撮影、時おり響く場違いな、しかし印象的なまでに物悲しいシンセ音楽、そして世代が全く違いながら青春の終りを感じさせる主人公たちの道行き。それらが不思議と共鳴するような気がした。「男の傷」はもはや中原昌也率いる東京住まいの知的スノッブの慰み物となってしまい残念だな。

ここまで来ると、リチャード・フライシャーが日本で過大評価という当初の印象は無くなったが、今度は語られるべき作品が語られていないという印象が強くなる。50年代ノワール群とマンディンゴの著しい過大評価、晩年である80年代作品の著しい無視、初期作"Child of Divorce""Banjo"の日本未公開etcetc

次に観たのが1954年制作の夢去りぬ」/ "The Girl in the Red Velvet Swing"だった。ショービズ界の痴話喧嘩殺人っていう下らねえも下らねえゲス映画、フライシャーでも救えやしねえって感じだった。ジョーン・コリンズはただただテカってる木像状態、レイ・ミランドは生理的に受け付けないキモ紳士。唯一ファーリー・グレンジャーだけがモラハラ夫役で健闘しているも、正直映画全体は虚飾以外の何物でもない。無残だ。

それでも1955年制作の「叛逆者の群れ」/ "Bandido!"はなかなか良かった。純白スーツを飄々しなやかに着こなしながら、手榴弾ジャンキーとして有象無象を虐殺する傭兵ロバート・ミッチャムという主人公造型の絶品さな。「替え玉殺人事件」の再撮で仲良くなったんだろうか? かつその音響効果の壮絶さは娯楽を突き抜け、常に銃撃やら爆撃やら馬の蹄やらが響いてる。もはや実験映画の極致へ到達していた(最近でここまで音響が突き抜けていた娯楽大作は仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本」くらいだろう)全部が全部成功しているとは言い難いが、フライシャーの意欲作として必見だと思える。

そして「コナンPART2」が素晴らしかったんで1985年制作のレッドソニア」/ "Red Sonja"を観た。これも多分午後のロードショーで観た。だが再見すると格調高いロングショットの連なりによって流れる如く紡がれるファンタジアに陶然とさせられる。そして水中の激戦と愛の剣劇の長ったらしさで、この陶然が永遠さながら延長されていくことにまた感動してしまった。フライシャー作で最も美しい映画の1本だよ、間違いない。

フライシャー作品で、ショット1つ1つの独立した完成度とショットの有機的な繋がりを最も美しく両立し体現している作品を挙げるなら、躊躇いも一切なく「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2」レッドソニアを挙げたい。ロングショットとかクロースアップとか距離感がビビッドに現れるショット同士の繋がりやリズムがあまりにも華麗なんだよな。実はこの数日後に、気まぐれにジャン・ルノワール作品、例えば「カトリーヌ」とか「水の娘」とか観たんだけど本当美しかったね。俺はこの「コナンPART2」レッドソニアは、フライシャーが最もルノワールに近づいた作品と思えるよ。

初期フライシャーについてまた少し。ボディガード」以降のノワール期は、語りの経済性を押し進めすぎたゆえの加速主義的な胡散臭さを感じる。大作だけじゃなくてB級映画もまた"資本主義"の産物なんだよ、その速度が。こういう意味で「その女を殺せ」以外良くないと思う、いや「札束無情」もギリで良作かな。そして急に思ったことだけども、この意味で1951年における「替え玉殺人事件」の再撮は重要な転換期だったのかもしれないと思える。ノワール群と比べれば分かるが、その2時間というランタイムや前半ノワールで後半冒険劇という2部構成って感じの語りは件の経済性からは程遠い。そしてこの直後に作った"The Happy Time"から、フライシャー作品で決定的に何かが変わった感があるよな。

ということで鑑賞記録に戻ろう。「ならず者部隊」/ "Between heaven and Hell"はフライシャー1956年の1作だな。後年の大作「トラ・トラ・トラ!」の前哨戦、どころの騒ぎではなかった。正直、最初は主人公の回想を挿入する甘さが心配になった。これに関して、水とプールで現在と回想を繋げる手捌きがいいとか言ってるやついるけど、そもそもここに回想入れること自体、甘いだろ。だけどその後、戦争の静謐と喧騒を激しく行きかう最中、勃然と死が噴出するそのリズムが頗る異様(これはマジェスティックの最終戦とも共鳴する)で、死の不条理をまざまざと目撃させられる戦慄があるんだよ。あのヘッドショット、神懸かり的だ。さらにもう死ぬ気で主人公が山の斜面走りまくるラスト、生命の解放感というものがあって猛烈に興奮した。フライシャー50年代ベストの1本。

その次には1954年制作の海底二万哩」/ "20000 Leagues under the Sea"を観た。言わずと知れたジュール・ヴェルヌSF小説の映画化だけども、ぶっちゃけディズニーのために作っただけみたいな凡作だった。ピーター・ローレはヒョコヒョコおちゃらけカーク・ダグラスウクレレ持ってアシカと遊んでたり、俳優陣がすごい楽しそうだったので、まあ良し!

それよりも次に観た1955年制作の「恐怖の土曜日」/ "Violent Saturday"だよな。これ日本でもソフトとか出てるけど、語ってるやつをあまり見ない。ちょっと余りに過小評価されてないか?という傑作だった。こう何度も書いてる、50年代前半ノワール群における語りの経済性、味気ない加速主義の塊みたいな語りが、田舎町の群像としての豊かな余白/無駄と重なりあうことで生まれるものがあるんだよ。いや一体、あの人生の切実な交錯は何なんだ? 酔っ払いのオッサン、眼鏡のむっつりスケベ、置き引きを繰り返す中年女性、アーミッシュの家族。彼らの膨大な群像を、あの速度で捌かれるとさすがに驚嘆せざるを得なくなる。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20210427135341p:plain

ディテールの描き方がさりげなくも鬼気迫る。子供の足をいきなり踏み躙るリー・マーヴィンの残虐な足、ゴミ箱に捨てられた財布、ポケットのなかの飴ちゃん、背中に突き刺さるピッチフォーク。これが"神は細部に宿る"ということかと思わされた。そしてその積み重ねのうえでラスト、人生の明暗が運命的に別れてしまった男2人のエピローグは壮絶で、残酷すぎるだろって言葉を失った。その崇高さはフライシャーのデビュー長編"Child of Divorce"のラストに匹敵すると思ったね。

で1958年制作のヴァイキング」/ "The Vikings"も観た。ぶっちゃけフライシャー50年代の大作群は「ならず者部隊」以外全部クソみたいに無難という印象の作品ばかりなんだけども、今作も正にそんな感じで退屈だった。スネーク・プリスキン先駆けの眼帯カーク・ダグラスが剣で自害するかと思いきや、何かよく分かんない感じで憤死するところは、何か良かった。それ以外は特に何も言うことはない。

次に観たのが1980年制作のジャズ・シンガー」/ "The Jazz Singer"だった。この映画は優しいよ。父親、優しいね。妻、優しいね。ヒロイン、優しいね。黒人の友達、優しいね。主人公、クズだけど優しいね。世界それ自体、優しいね。だからこそぬるい。例え視線は一方的ですれ違えても、人っていうのは分かりあえる。で? 30年前の"The Happy Time"に退行するぬるい親密さ。退屈。80年代のフライシャー作品は過小評価されているとは何度も言ったが、今作に関しては妥当な評価だ。

しかし気になったことが幾つか。1つは正直邪推に過ぎない。だが今作の完成度の低さには、シドニー・J・フューリーの後釜で撮影することになった事情もひっくるめ、その出来に納得行かず、3年後に同じく音楽が1つのテーマである「ザ・チャンプ」でリベンジしたと邪推したくもなる。そして成功した、と個人的には思う。しかも劇中、父親役であるローレンス・オリヴィエが"Tough enough"と「ザ・チャンプ」の原題を言うんだよな。これは早すぎる布石だったのか?

それからジャズ・シンガー観て、フライシャー作品における黒人表象の研究が興味深そうだなと。まあ、黒人表象を論文か何かで分析してくれると有難いです!というようなマンディンゴはそれとして、その数倍居心地が悪くなる、1940年代の白人と黒人の関係性をいやに鮮やかに捉えているような"Banjo"の冒頭とラスト(特にラスト、今やったら監督は社会的に抹殺されるだろうくらいに悍ましいほのぼのさだ)海底二万哩アシャンティの部族、「コナンPART2」グレイス・ジョーンズ、そして今作のリメイク元へのオマージュとしてのブラックフェイスなど。

今の所最後に観たのは「強迫/ロープ殺人事件」/ "Compulsion"だったけど、これはマジで余りにも酷かったな。さりげなさを装いながら、欲を出して技に溺れる撮影。撮影監督のウィリアム・M・メラーはこの時点でクソベテランだったが、ジョージ・スティーヴンスアンソニー・マンやらと、フライシャーの作品が違うことを全く理解してない無能って感じだった、さらに中立を気取ろうとして、殺人者への廉い同情に陥る脚本には呆れる。幾ら冷徹に殺人者の心理を観察しても、その1人が「俺が怖いのか?」と言いながら女友達をレイプしようとして、彼女が「怖いのはあなたを想ってるから!」みたいなことったら台無しだよな。それらが最高潮を迎える、オーソン・ウェルズ死刑廃止大演説は、スターという存在が要請するスペクタクルの虚無を壮絶なまでに体現してるよ。Filmarksには"彼らを生かすことことが本当の罰"という人がいて、確かにそれもそうだなという気はしながら今作に対して拒否感を抱くのは、この脚本の甘さとオーソン・ウェルズの存在のせいだな。死刑廃止論がクソみたいな殺人者の同情票に成り下がってる、ひでえよ。完全にフライシャー・ワースト。

現時点でのベスト

1.「悪魔の棲む家PART3」
2.「恐怖の土曜日」
3. "Child of Divorce"
4.「スパイクス・ギャング」
5. "Banjo"
6.「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2」
7.「ザ・チャンプ」
8.「レッド・ソニア」
9.「見えない恐怖」
10.「ならず者部隊」
11.「その女を殺せ」
12.「マジェスティック
13.「叛逆者の群れ」
14.「おかしなおかしな成金大作戦」
15.「替え玉殺人事件」
16.「ムコ探し大騒動」
17.「ミクロの決死圏
18.「海底二万哩
19.「王子と乞食」
20.「札束無情」
21.「罠を仕掛けろ」
22.「静かについてこい」
23.「ヴァイキング
24.「ボディガード」
25.「カモ」
26. "The Happy Time"
27.「ジャズ・シンガー
28.「夢去りぬ
29.「アシャンティ
30.「強迫/ロープ殺人事件」
31.「マンディンゴ

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20210427135427p:plain