鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!

マンブルコアがシカゴ(スワンバーグ)やポートランド(カッツ)、ボストン(ブジャルスキ)、デトロイト(デュプラス兄弟)、イリノイ(シェルトン)などアメリカ各地で成長を遂げる頃、もちろんインディー映画の本場であるニューヨークにおいてもこの運動は勢力を増してきていた。その中心にいたのが前回紹介したソフィア・タカールであり、彼女の存在がマンブルコアとポスト・マンブルコアの作家や俳優たち(例えばアレックス・ロス・ペリーリンゼイ・バーなどなど)を繋げ、米インディー映画界が更なる躍進を遂げることになる。だがもう1人、ブログに何度も名前は載せているが紹介していなかったある重要な人物がいる。その人こそ今回紹介するローレンス・マイケル・レヴィーンである。

ローレンス・マイケル・レヴィーン Lawrence Michael Levineはニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する映画作家だ。子供の頃から映画監督を志し、友人と共にカムコーダーを使って映画を撮影する少年時代を送っていた。しかし高校の頃から小説にのめり込み始め、大学時代には短編を幾つか書くまでになる。しかし映画の授業を受けた際、マイク・リージョン・カサヴェテスの作品に触れ衝撃を受けた彼はそこから演技を学び始める。

卒業後はオフ・オフ・ブロードウェイ(商業主義から離れ前衛的な演劇を実践する演劇運動)の世界に飛び込み、俳優トム・ヌーナンが主催するParadise Theater(現Paradise Factory)に参加、出演に加え戯曲の執筆や舞台の演出などをして経験を積む。2005年には自身の戯曲を原作として長編デビュー作"Territory"を監督、青年の元に昔のルームメイトが来訪してきたことから生じる関係性の捻じれを描き出した作品は好評を得る。だが当時の彼はある苦悩を抱えていたのだという。

"Territory"が上映されたのはジョー・スワンバー"Kissing on the Mouth"(紹介記事)やアンドリュー・ブジャルスキ"Funny Ha Ha"(紹介記事)が上映されたのと同じ時でした。時を同じくしてSXSW映画祭から電話を受けました。彼は"Territory"の上映を計画していたそうんですが、もう他の映画祭での上映は決まっていました。プレミア上映でない駄目ということで見送りになったんです。それから、そこでもしジョーやアンドリューと会っていたらどうなっていたんだろう?映画学校に戻ってたんだろうか?と考えましたね。その時私は孤島に取り残されているような気分でした。自分の他に低予算映画を作ってる人とは全く知り合いではなかったので"

"結局コロンビア大学の大学院に通うことになりましたが、そこでジョーや他の皆が映画を作り続けているのに5年間何やってるんだ、彼らの方が自分より多くのことを学んでるだろうにと思っていました(中略)その頃には誰かと競い合わなくてはという思いは消えていて、それでも慣習にのっとったやり方は全く気に入りませんでした。興奮を感じないんです、選択肢を狭めてしまう。卒業の後、1,2年の間は自分が何をしたいのか分からず、一歩を踏み出すことも怖かった。その時にはジョーやアンドリュー、アーロン・カッツや他の若い作家たちの作品を観ていてとても親しみを感じていました。私は徹底的なナチュラリズムにいつだって興味を持っていて、彼らに一発ブン殴られるような気持ちにもなっていたんです。"Territory"で達成したことにも誇りに思えることはありますが、私はもっと極端なナチュラリズムに傾きたかった、俺もやってやるという気分になったんです。アイツらがやってることを俺もやってやる、もっと良い作品を作ってみせると。そして映画学校で学んだ全てを爆発させた上で、このクレイジーな計画に着手しようと思いました"

この後彼は映画学校に通いながら"The Empress""Fat Friend"(共に2009年製作)を監督するが、この時期に出会ったのが後に妻となるソフィア・タカールだった。そして彼女と共に"クレイジーな計画"に着手、第2長編である"Gabi on the roof in July"を完成させたのだ。更にタカールの初長編"Green"を製作し、俳優としてもスワンバーグの"The Zone"(紹介記事)や"All the Light in the Sky"(紹介記事)、Onur Takel"Richard's Wedding"などで共演するなどその関係性は更に密になっていく。そして2014年にはタカールとめでたく結婚すると共に、自身にとっての第3長編である"Wild Canaries"を完成させる。

バリとノア(タカール&レヴィーン)はブルックリンに住むヒップスターなカップル、最近婚約したばかり……なのだが早くも倦怠期に突入、二人の間には何だかぎこちない空気が流れている。そんなある日、バリと仲が良かった80歳のおばあちゃんが突然亡くなるのだが、彼女の息子アンソニー(「成果」ケヴィン・コリガン)の様子が明らかにおかしい。不審に思ったバリは彼を調べ始めるのだが……

今作の冒頭に流れるのは色とりどりの影絵OP、揺れる色彩の中で人々のシルエットやトランプが浮かび上がっては消えていく。こういった演出からも明らかだが“Wild Canaries”は60年代70年代のオシャレ犯罪映画(例えばピンク・パンサーとかね)やコミカルな探偵もの(「名探偵再び」的な)への愛に溢れた一作だ。レヴィーンはそういった作品をテン年代のブルックリンに甦らせようと目論んでいる訳だ。

そして物語はドタバタ探偵物語が繰り広げられていく。バリはアンソニーの留守中に部屋へと潜入、彼が母を殺した決定的証拠を掴もうと辺りを探し回る。が、こういう展開好きだろ?とばかりにアンソニーが部屋に帰宅、焦ったバリはネズミのようにちょこまか逃げまくる。表情をグルグル変えまくるバリの姿だけでもおかしいが、そこにMichael Montesによる軽妙洒脱で茶目っ気のある旋律が加わると、部屋には密やかな笑いが溢れだす。

骨組みはこういったドタバタコメディなのだが、今作にはもう1つの重要な要素が隠れている。前のソフィア・タカール及び彼女の長編デビュー作“Green”の記事でも書いたが、“Green”とスワンバーグ監督作“The Zone”は、映画の演じ手/作り手がカップルとなる上で逃れられない“嫉妬”をテーマとした作品であるという側面がある。彼らはそんな2作を共に作ることで自分たちの間に横たわる“嫉妬”の奥深くまで潜行しこれを克服、めでたく結婚することとなった。が、勿論嫉妬を乗り越えることは全てのゴールではない。むしろここはスタート地点であり、関係性における新たな試練が彼らを待ち受けている。今作はつまりその試練に直面するレヴィーンたちが描かれている一作でもあるのだ。

バリとノアの関係性はかなり冷え込んできている。ノアはギャンブル中毒が治っておらず、バリに隠れてこそこそアパートの管理人で芸術家のダミアン(「サヨナラの代わりに」ジェイソン・リッター)と共にポーカーに勤しむ日々を送っている。こういう状況に不満が募り、バリは捜査にのめりこむこととなり、そんな彼女にノアは余計な首突っ込むなよとイライラを溜め込み、関係性は悪化の一途を辿る。それでいてここに微妙な愛も絡んでくる。エレノア(10日間で男を上手にフル方法」アニー・パリッセ)はノアの仕事上のパートナーなのだが実は元恋人同士、今の恋人と上手く行ってないらしい彼女に対しノアの心は何となく浮き足立つ。更にノアとバリのルームメイトであるジーン(「ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ」アリア・ショウカット)は実はバリに片想い中、ノアを尻目に彼女の捜査に嬉々として助けを貸し、その距離はどんどん近づいていく。いわば愛の四角関係が出来上がり、バリとノアの心はこの緊張感の中でプラップラフラッフラし続ける。

そんな彼らの姿を見守る第3の主人公こそがブルックリンという街だ。撮影監督Mark Schwartzbardの捉える街並みには心地よい空気と瀟洒な文化に満ち、観ているだけで高揚感が湧いてくる。そしてこういうの映画で観まくってるよ!という感じの、ほらベランダに階段があってそれが天井まで続いているみたいなアパートの構造を生かしたサスペンスシーンなんかも存在、展開のアレコレから物語の芯にまでブルックリンが息づいているのだ。

それに応える形で、俳優陣もテン年代インディー映画界のヒップスター俳優が勢揃いだ。このブログで紹介している俳優だけでも、精神不安定な人間を演じさせたら米インディー映画界随一のリンゼイ・バー(紹介記事)、テン年代のインディー映画を漁ると必ず彼女にブチ当たることでお馴染みジェニファー・キム(紹介記事)、「アドベンチャー・タイム」「スティーヴン・ユニバース」とアニメ界から引っ張りだこでジョー・スワンバーとも関係が深いケント・オズボーン(紹介記事)などなど。そして「神様なんかクソ喰らえ」サフディ兄弟のデビュー長編“The Pleasure of Being Robbed”で頭角を現したエレノア・ヘンドリックスアンドリュー・ブジャルスキの最新長編「成果」では主演も演じるケヴィン・コリガンも登場したりする(ちなみにタカールの“Green”にはアレックス・ロス・ペリーが“フィリップ・ロスの専門家”という役でカメオ出演していた)

だが何と言っても注目なのはジーン役アリア・ショウカットの存在だ。くっちゃくちゃの髪の毛にそばかすだらけの顔、一回見たら忘れられないくらい超キュートな彼女は日本じゃ余り有名ではないかもしれないが、ジェレミー・ソルニエグリーンルームが公開された暁にはあのキュートな子は誰だ!と話題になるに違いない。米インディー映画界においてはクレア・デュヴァルの監督デビュー作“The Intervention”で出演も果たすデュヴァルを惑わす小悪魔役、アンバー・タンブリンの初監督作“Paint It Black”では堂々の主演(何故か90年代組学園映画組にかなり愛されている)、そしてこのブログでも紹介したサラ=ヴァイオレット・ブリス(紹介記事)がクリエイターを務めるドラマシリーズ“Search Party”にも主演と、今乗りに乗りまくっている俳優だ。今作も超超超キュートで、いっそレヴィーンどかして、タカールとW主演でロマコメやっちゃいなよ!と言いたくなる程、服装も表情も行動もキュート!キュート!キュート!超超超超超超超超キュート!何がなんでもアリア・ショウカットの名前だけは覚えて帰ってください。

それでもやはり一番印象的と言ったら主演の二人を演じるレヴィーンとタカールな訳だ。関係性の試練と対峙する二人の錯乱と大騒ぎは相当なものであり、特に感極まって互いへの悪口をのべつまくなしにブチ撒ける様と言ったら最高におかしくて最高に痛々しい。こうして今の時代に二人で共に生きていくことのお辛みがブルックリン舞台の探偵物語と組合わさることで“Wild Canaries”は懐かしい感触を伴いながらも、また新しいリズムを宿しているのだ。いや本当、レヴィーンとタカール、末長くお幸せに。

参考文献
http://bombmagazine.org/article/8972210/lawrence-michael-levine(監督インタビュー)
https://indie-outlook.com/2012/07/30/lawrence-michael-levine-on-gabi-on-the-roof-in-july/(監督インタビューその2)
https://www.pastemagazine.com/articles/2015/03/sophia-takal-and-lawrence-michael-levine-on-taming.html(レヴィーン&タカールインタビュー)

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!