鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路

Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路 Rick Alversonの略歴と前作"The Comedy"についてはこちら参照もし、もしだ、今まで観たアメリカ映画の中で最も題名と内容の解…

アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと

さて、ブラジル映画である。ガブリエル・マスカロを紹介した際(この記事を読んでね)、ブラジルの経済状況について記したが、現在進行形でこの国に現れ始めているのが階級差である。中流階級と貧困層の格差が目に見えて克明となりゆく過渡期、マスカロはそれ…

彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ

先日フィルメックスが閉幕、最高賞を獲得したのはペマ・ツェテン監督の「タルロ」と私がブログで取り上げていた作品でなかなか嬉しかった(ちょいちょいブログの閲覧数も上がってる)のだが、観客賞を獲った作品がピーター・チャン監督の「最愛の子」だった。…

Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ共和国、あなたは私の輝きだったから

さて、あなたはドミニカ共和国についてどのくらい知っているだろう? 私は名前は聞いたことあるくらいでほぼ何も知らなかった。調べてみると小説「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアズはこの国出身で、ミシェル・ロドリゲスやゾーイ・サルダ…

ジョナス・カルピニャーノ&「地中海」/この世界で移民として生きるということ

2015年、カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得したのはジャック・オーディアール監督の「ディーパンの闘い」だった。この結果はマーティン・スコセッシが「ディパーテッド」でオスカー作品賞を獲ったのと同じく、今まで蔑ろにしてきた故の功労賞と批評家陣…

ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ

さて10月11月ときて映画祭ラッシュも終わりに近づき始めたが、そんな中で東京フィルメックスが開催である。私的には何で今年に限ってイスラエル映画一本も公開しないの????と開催前から落胆していたのだが、以前ブログでちょっと取り上げたヴィムクティ…

Harry Macqueen&"Hinterland"/ローラとハーヴェイ、友達以上恋人以上

スティーブ・マックイーン、説明不要のアクションスター、私は「大脱走」のバイクを駆るマックイーンが一番好きだ。そしてもう1人のスティーブ・マックイーン、「HUNGER」「SHAME」で着実にキャリアを積み重ね第3長編「それでも夜は明ける」でアカデミー賞を…

Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民

ハンガリー映画と聞いたら、おそらく殆どの人が同じ名前を思い浮かべるだろう、タル・ベーラの名を。強迫的な長回しで以て物語を綴っていく作風は世界に多くのフォロワーを生み出した(以前、紹介したRamon Zürcherも彼の指導を受けた者の一人だ)が、ハンガ…

Bakur Bakuradze& "Shultes"/ロシア、全てが彼を過ぎ去っていく

ロシア映画といえばセルゲイ・エイゼンシュタインからジガ・ヴェルトフ、フセヴォロド・プドフキン、アレクサンドル・ドヴジェンコなどソ連映画創世記に活躍した人物から、ゲオルギー・ダネリヤやヴィターリー・カネフスキー、ニキータ・ミハルコフにアレク…

フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら

活気著しいラテンアメリカ映画界でも、にわかに頭角を現し始めているのがコロンビアだ。2015年のカンヌ国際映画祭でチロ・ゲーラ監督の「大河の抱擁」がカンヌ監督週間最高賞を受賞、さらにセサル・アウグスト・アセベド監督の「土と影」が才能ある新人監督…

「籠の中の乙女」あるいは"ギリシャの奇妙なる波"について

2009年のカンヌ国際映画祭、ある視点部門で上映された1本のギリシャ映画が批評家たちを賛否両論の激しき渦へと巻き込むこととなる。テオ・アンゲロプロスやジョルジ・スカレナキスなどギリシャにおける過去の巨匠たちとは全く違う、いやギリシャどころか世界…

ヨルゴス・ランティモス&"Alpeis"/生きることとは演じることならば

余りにも大きすぎる成功は、映画監督に"次回作"という名のプレッシャーをもたらす。私たちはその圧力に耐えられず砕け散る才能をいくつも見てきたはずだ。ではヨルゴス・ランティモス監督はどうだったか?2011年、彼はヴェネチア国際映画祭ーー「籠の中の乙…

ヨルゴス・ランティモス&"Kinetta"/人生とは、つまり映画だ

男と女と、そしてカメラマン。3人が空き地に集い、始まるのは何かのリハーサルだ。"女は男の頬に平手打ちを喰らわせる"という声が響くと、女は男の頬に平手打ちを喰らわせる。"男が女を掴み揉み合いになる"という声が響くと、男が女を掴み揉み合いになる。"…

Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない

私はまだ観ぬ素晴らしき映画たちを探すため、日々ネットの海へと飛び込んでいるのだが、"これは面白そうだ"と気になって監督名をググった時、よく監督が黒と黄色の壁の前に立っている画像に鉢合わせる。上の画像もそうな訳だが、ここはスイス・ロカルノ映画…

Anja Marquardt& "She's Lost Control"/セックス、悪意、相互不理解

セックス・サロゲイトという職業、映画ファンにとってはジョン・ホークス&ヘレン・ハントの「セッションズ」で親しみあるものかもしれない。ポリオが原因で"鉄の肺"に繋がれ体の不自由なホークスが、セックス・サロゲイトであるハントとの交流を通じて生きる…

Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ハシディズムという息苦しさの中で

今、ケベック映画界が熱いというのは何度も何度もブログで書いてきたし、ドラン/ヴィルヌーヴ/ヴァレ以降の若手作家たちを実際何人も取り上げてきた。だがまだまだいる、全然紹介し足りない、まだまだ、本当まだまだいる。ということで私の好きな監督・俳優…

Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都

ベネズエラ映画と聞いて、今まず思い出されるのはLorenzo Vigas監督の"Desde Alla"だろう。中年男性とギャングのリーダーである青年の愛の行方を描き出したこの作品は、Vigas監督にとって長編デビュー作ながら2015年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得…

死にたい…死にたい…一緒に死のう…"Amour Fou"

ヴェロニカ・フランツ"Ich Ser Ich Ser"、Lukas Valenta Rinnerの"Parabellum"など、今オーストリアの新鋭たちの活躍は目覚ましい物だ。彼らの存在は映画界に"オーストリアの新たなる戦慄"という言葉を生み出し、その潮流を世界へと広げていく。そんな中、戦…

Afia Nathaniel&"Dakhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望

さて、パキスタンという国についてあなたはどのくらい知っているだろうか。まず頭に浮かぶのはノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイの名前だろう。彼女は度重なる反対に会いながらも女子教育の権利を訴え、不正と戦い続けている。そしてこのパキスタ…

ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ

トルコ映画界の重鎮ヌリ・ビルゲ・ジェイランが日本でも受容され始めたよ、やったね!ということは新鋭トルコ人監督セルハット・カラアスランを紹介した時(この記事を読んでね)に書いた。そんなジェイラン監督初の日本公開作「雪の轍」はトルコの雄大な自然…

Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく

さて、あなたはマルタ共和国という国についてどのくらい知っているだろう?地中海に浮かぶ美しい島国、"楽園"とも呼ばれるリゾート地、地中海のヘソ、そんなイメージが浮かぶだろう。だが近年この国でアフリカからの不法移民という問題が持ち上がっているの…

Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動

私はある映画の主人公が中年女性なだけで嬉しくなる。年を取った女優は誰かの"母親"か"妻"役しか来なくなり、脇に追いやられそのまま消えていく、そんな状況があるからこそ中年女性が主人公である映画を観るのはそれだけで嬉しいのだ。今年公開された映画で…

Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く

バルカン半島と聞いて、まず何が思い浮かぶだろう。私の場合は"ヨーロッパの火薬庫"と、そんな言葉を歴史の授業で習ったのを覚えている。だが具体的に何処の国がバルカン半島に位置しているだとかは全然知らない、ということでググってみよう。"バルカン半島…

Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り

つい先日Varietyにティム・ロスがメキシコ映画界への大いなる期待を語る記事が掲載された(この記事)。2011年のカンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員長だったロスはとあるメキシコ映画に衝撃を受ける、その作品とは日本でも公開された「父の秘密」であり、監…

Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」

イエスは親しい信徒たちに告げた、私は再び戻ると。そしてオリーブの山で雲の上へと引き上げられていくイエスを茫然と見つめる信徒たちに、2人の天使は言った、あなた達から離れて天に上げられたこの方は、天に上っていかれるのをあなた達が見たときと同じ姿…

兄弟2人、マンソンの地へ「マンソン・ファミリーの休暇」

1969年、ロマン・ポランスキーの当時の妻であった俳優シャロン・テートが何者かに惨殺されるという事件が起こる。更にその翌日には事業家のレノ・ラビアンカが妻と共に死体で発見され、アメリカ全土が恐怖に慄くこととなる。この2つの事件を引き起こしたのは…

ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?

エストニア、ヨーロッパの最北端に位置し大国ロシアと隣り合う故に、常にその脅威に晒されてきた。戦後のゴタゴタに関してはこちらの記事に詳しく書いたので読んでもらいたいが、2010年代に入ってウクライナ情勢を重く見たロシアがクリミア半島に侵攻を果た…