鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜

さてアルゼンチンである。ゼロ年代に入りアルゼンチン映画界にはルクレシア・マルテルというこの国の現在と変化を冷たく鋭い洞察で以て描き出す巨人が立ち上がった後、次世代の才能が次々と現れている。例えば2015年に日本でも「約束の地」公開されたリサン…

サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく

さて、オランダである。オランダと言えばお下劣残虐大将のポール・ヴァーホーヴェンな訳で新作のレイプ・リベンジ映画"Elle"が楽しみな訳だが、新鋭で注目作家というとまず真っ先に挙げるべきはナヌーク・レオポルドだろう。彼女の作品は1本だけ「裸の診療室…

ニコラス・ペレダ&"Minotauro"/さあ、みんなで一緒に微睡みの中へ

さて先日はメキシコ映画界の異端児ニコラス・ペレダの"Juntos"を紹介した。だが先述した通り、キャリアはまだ10年にも満たないながら、彼は精力的に作品を制作しまくっている。ということで今回は彼が2015年に製作した新作中編"Minotauro"を紹介していきたい…

ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて

米インディー映画界にはマンブルコアというジャンルがある、いやあったと言うべきだろうか。まあこのブログを読んでくれている方にはお馴染みだろうが(知らねーよって人は"マンブルコア"でググるかこちらの記事を読んでね)、まあアレだ、ゼロ年代、お金がな…

アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから

飛行機に乗るでもいい、いっそ鳥になるでもいい、この地上から離れてあの大空へと飛んでいきたい、そう思ったことのある人は少なくないのでは。最近でもパスカル・フェラン監督の手掛けた「バードピープル」が話題になったが、純粋な憧れにしろ日々の疲れか…

Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画

時折、この映画は全てにおいて"新しい"としか形容できない作品に出会ってしまうことがある。例えばRamon Zürcherの"Das merkwürdige Kätzchen"(詳しくはこの紹介記事を読んでね)、今作はある家族の日常の風景をシャンタル・アケルマンの禁欲性とジャック・…

Zia Anger&"I Remember Nothing"/私のことを思い出せないでいる私

No Badgeというサイトがある。ここは今、米インディー界で八面六臂の活躍を見せるKentucker Audleyという人物が経営しているサイトで、毎週火曜日に彼が選んだ選りすぐりのインディー映画を無料配信している。このブログを楽しんでくれている読者なら是非と…

ジェームズ・ポンソルト所感〜酒が飲みたくてしょうがないのは何で?

ジェームズ・ポンソルト&「スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜」/酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい… ジェームズ・ポンソルト&"The Spectacular Now"/酒さえ飲めばなんとかなる!……のか? ポンソルト監督の経歴、および個々の作品…

Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る

私が好きなルーマニアは、私が誰よりも愛する人物がいる。彼の名前こそエミール・シオラン、彼は凄まじいまでのニヒリズムに傾倒し多くの絶望の書を残したのだが、彼の言葉の1つにこんなものがある。"二十歳になる前、私に理解できたと誇れる唯一のことは、…

リンゼイ・C・ヴィッカーズ&「アポイントメント/悪夢の約束」/少女の絶望、父の悪夢

私は自他共に認める天邪鬼だ。皆がもう既に観ている映画は観たくない、既に映画史でそれ相応の地位にあり出来が保障されている映画は別に観たくない、少なくとも日本人が多く知っている映画は観たくないし、日本語でレビューが多く書かれている映画は特に何…

Gerard Barrett&"Glassland"/アイルランド、一線を越えたその瞬間

さてアイルランド映画である。最近では「FRANK」や2016年度アカデミー賞の有力候補「ルーム」を手掛けるレニー・アブラハムソンや、自身はイングランド出身だがアイルランド人俳優ブレンダン・グリーソンと共に「ザ・ガード〜西部の相棒〜」や「ある神父の希…

Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争

さて、ラトビアである。今までエストニア、リトアニアの知られざる映画監督たちを紹介してきたが、とうとうバルト三国完結編である。ではいつもの質問である、あなたはラトビアのことをどのくらい知っているだろうか?……私はバルト三国ってこと以外は知らな…

ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい

"オフビート"という言葉がある。"奇妙な"という意味なのだが、それだけでは説明できない、何とも言えない"間"だとかそんな意味が内包されている言葉だ。この感覚に当てはまる映画を幾つか観てきたが、個人的に印象深い作品はアレックス・ロス・ペリーの"Colo…

S. クレイグ・ザラー&"Bone Tomahawk"/アメリカ西部、食人族の住む処

2015年11月、日本でイーライ・ロス監督の食人族映画「グリーン・インフェルノ」が公開された。製作のゴタゴタや日本では予告編大騒動など紆余曲折あってやっとの公開だったが、大満足の人もいれば期待し過ぎたという人もいるとこういう映画としては理想的な…

Marcelino Islas Hernández&"La Caridad"/慈しみは愛の危機を越えられるのか

日本では偶然連続して、アイラ・サックスの「事実は小説より奇なり」aka "Love is Strange"とアンドリュー・ヘイの「さざなみ」aka "45 Years"が連続で公開される。これはどちらとも長年付き添ってきたパートナーの2人が、大きな試練に直面して自分たちの関…

Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと

さてチュニジアである。チュニジアと聞いて浮かぶ物といえば、やはりアラブの春についてだろう。2010年12月17日、露天商の青年モハメド・ブアジジが役所による暴行と侮辱に抗議し、県庁舎前で焼身自殺を遂げた。その映像がFacebookに投稿されたことにより、…

Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ

モデル業界を描いた映画は数知れない。まず思い浮かぶのはイタリアン・ホラー界の巨匠マリオ・バーヴァによる極彩ジャーロ「モデル連続殺人!」だ、題名の通りモデルがどんどんブチ殺されていく俗悪殺人ものジャーロの先駆的存在である。そして80年代にもジ…

アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して

さてノルウェーである。以前"The Sleepwalker"のMona Fastvoldを紹介した(この記事を読んでね!)のだが、彼女の活動拠点はアメリカなので、今回はノルウェー現地で活躍する新鋭を紹介していきたい訳だが、考えてみればデンマーク、スウェーデンといわゆるス…

Nelson Carlo De Los Santos Arias&"Santa Teresa y Otras Historias"/ロベルト・ボラーニョが遺した町へようこそ

ロベルト・ボラーニョという名前を貴方は聞いたことがあるだろうか?世界の裏側に潜む大いなる狂気を描き続け、現代の文学界に何者よりも高く聳え立つ永遠の存在となった偉大なる小説家だ。そんな彼が50歳の若さで亡くなる前に残した畢境の大作"2666"にサン…