鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Iqbal H. Chowdhury&“The Wrestler”/バングラデシュ、男たちは彷徨いぶつかりあい

皆さんはボリ・ケラというスポーツを知っているだろうか。これはバングラデシュの伝統的レスリングである、投げ技、関節技などといった組み技を主としたコンバットスポーツの一つだ。砂と土の競技場で、半裸になった筋骨隆々の男たちが全力でぶつかりあうこ…

Yousef Assabah&“In the Long Run”/イエメン、僕たちここで暮らしてます

さて、イエメンである。アラビア半島の南端にある国であるが、2015年からは内戦が続いており予断を許さない状況となっている。映画産業は未だ小規模なものであり、この国で初めて長編映画である“A New Day in Old Sana'a”(アラビア語原題:“يوم جديد في صنعا…

Muhannad Lamin&“Donga”/リビア、生きるには長すぎる悲劇

さて、リビアである。この国ではムアンマル・アル=カッザーフィーによる独裁政権が40年以上にもわたって続いていたが、2011年に反政府デモを発端として内戦が始まり、それが今でも継続しているという状況だ。この情勢は混迷に混迷を極めているが、今回紹介…

Denise Fernandes&“Hanami”/カーボベルデ、去る者と残る者

さて、カーボベルデである。映画界においてはペドロ・コスタの作品でカーボベルデが舞台になったり、カーボベルデ移民が主人公になるなどしているので、そこからこの国を知った人も多いかもしれない。最近では「クレオの夏休み」というフランス映画で、カー…

Jean-Luc Mitana&“Uje”/ルワンダ、神はそこにいるのか?

さて、ルワンダである。アフリカ東部に位置するこの国は、映画的な側面ではあまり顧みられることはないだろう。おそらく広く思い出されるのは大量虐殺を扱った「ホテル・ルワンダ」くらいではないだろうか。ルワンダ人によるルワンダ映画はシネフィルにすら…

Iva Radivojević&“Kada je zazvonio telefon”/まだ、ユーゴスラビアが存在した頃……

かつてユーゴスラビアという社会主義国家が東欧に存在した。数十年の安定を経てカリスマ的な指導者であったチトーの死後、急速に崩壊が始まりユーゴスラビア紛争が起こることとなる、かつて隣人同士だった民族同士が殺しあうという凄惨な状況に陥り、ユーゴ…

Anja Kreis&“Fără suflet”/モルドバ、神は与え奪い去る

さて、モルドバである。日本だとこの国はウクライナに隣接しているがゆえ、ウクライナ侵攻の影響をモロに受けて情勢不安が続いていることが有名かもしれない。そして憲法において公用語の“モルドバ語”が“ルーマニア語”という記述に改正されたという報道を聞…

済東鉄腸オリジナル、2020年代注目の映画監督ベスト100!!!!!

さて、未知の国の映画を探し求め、それについての記事を書き続けて早9年、何だか色々なことがあった。ある未公開映画を紹介したら、その監督からメッセージが来たり。フランスかぶれの映画批評家とTwitter上で大喧嘩して、ちょっとした騒ぎになったり。クロ…

Damien Hauser&“Theo: Eine Konversation mit der Ehrlichkeit”/傷つけ傷つけられ、今ここに立って

razzmatazzrazzledazzle.hatenablog.com ネットにおいて常に議論されているものの1つと言えばセックスだろう。中でもセックスにおける“合意”についての議論は激しいもので、その複雑な議論に疲れ果てたのか“じゃあ全部レイプじゃないか!”と思考停止に陥って…

Hachimiya Ahamada&“Zanatany, l'empreinte des linceuls esseulés”/コモロ人たちの、その歴史と今と

さて、コモロ連合である。インド洋上、モザンビークとマダガスカルという国に挟まれたこの連邦共和制国家の島国、日本ではあまり知られていない国かもしれない。斯く言う私も知られざる国の映画を探求する過程で、名前だけは知っていたのだが、肝心の制作映…

Vladimir Bitokov&“Deep Rivers”/カバルダ・バルカル共和国、その現在

さて、カバルダ・バルカル共和国である。ロシア連邦の構成国家の1つであるこの国から、近年新たなる才能が多数現れている。例えば日本でも「戦争と女の顔」が公開されたカンテミール・バラーゴフ、さらにカンヌ国際映画祭ある視点部門で作品賞を獲得、その後…

Alberto Gracia&“La parra”/この不条理がガリシアなんですよ……

2000年代後半から2010年代にかけて、今まで注目されてこなかった国の映画が注目を受け世界を席巻することになる。韓国、ギリシャ、ルーマニア……韓国映画の活況は日本でも十全に紹介され、後者2国の映画に関しても少なくとも私の鉄腸ブログで何本も紹介してき…

楊國瑞&“好久不見”/運命の人魚に惑わされて

何というか時々“妙な映画”としか呼称できないような映画に遭遇することがある。例えば演出があまりにも変な映画だったり、物語の展開があまりにも不可解なものだったり、登場人物の行動原理があまりにも理解できない映画だったりする映画に出会うと“妙な映画…

Chloé Aïcha Boro&“Al Djanat - Paradis originel”/ブルキナファソ、フランスが刻んだその遺恨

ブルキナファソは西アフリカに位置する内陸国であるが、隣接国であるマリやニジェールなどともにフランスによって植民地化された国でもある。その影響は公用語がフランス語であることや法システムがフランスに則っていることなどからも理解できる。そんな国…

Salam Zampaligre&“Le taxi, le cinéma et moi”/ブルキナファソ、映画と私

さて、ブルキナファソである。この国は例えばイドリッサ・ウエドラオゴ Idrissa Ouedraogoやガストン・カボーレ Gaston Kaboréなど日本で作品が上映されるほど著名な映画監督にも恵まれている。さらにこの国ではアフリカ映画のある種メッカとも言えるワガド…

Álfrún Örnólfsdóttir&“Band”/悲痛と悲哀のアイスランド音楽界

ビョーク、シガー・ロス、オブ・モンスターズ・アンド・メン……その国の規模に反してアイスランドの音楽超大国ぶりたるや、他に並ぶ国を思いつかないほどだ。私がルーマニア映画をきっかけにルーマニア語を学んだのと同じように、アイスランド音楽に触れてア…

Beinta á Torkilsheyggi&“Heartist”/フェロー諸島、こころの芸術

さて、フェロー諸島である。デンマークの自治領であるこの地域にも、実は固有の映画産業が存在している。まず70年代後半にフェロー諸島舞台、フェロー人キャスト、この地域で話されるフェロー語を使用した数本の映画がスペイン人監督Miguel Marín Hidalgoに…

Hamida Issa&“Places of the Soul”/カタール、石油の子供たち

さて、カタールである。アラビア半島の北東部に位置するこの小さな国は、映画界における存在感もまた比較的小さい。私のように日本未公開映画を観まくっている方ならばアラブ首長国連邦やルクセンブルクに並んで、他国の映画を共同制作する国として知ってい…

Fidel Devkota&“The Red Suitcase”/ネパール、世界を彷徨う亡霊たち

さてさて、この鉄腸ブログでは何度も書いているが、最近にわかにネパール映画界がアツいことになっている。この国の新鋭たちの作品が2022年辺りからサンダンスやロッテルダムなどの有名映画祭に続々と選出されているのだ。そして2023年、その中でもより特権…

Wissam Charaf&“Dirty Difficult Dangerous”/レバノン、愛ってだいぶ政治的

さて、レバノンである。この国は人口1人当たりの難民受け入れ数が最も多い国としても有名だろう。近隣国であるシリアやパレスチナからの難民が多く押し寄せるゆえである。更には地中海を挟んでアフリカ大陸にも距離が近いので、そこから難民や移民たちがやっ…

Perivi John Katjavivi&“Under the Hanging Tree”/ナミビア、血の過去とそして現在

アフリカ南部に位置するナミビア共和国、この国とドイツの間には負の現代史が横たわっている。欧米列強の1国として領土の拡大を目指し、ドイツは1884年から1915年に南西アフリカを植民地支配していた。その支配の最中、この地に住んでいたヘレロ、ナマの両民…

Wendy Bednarz&“Yellow Bus”/その国の名は、アラブ首長国連邦

さて、アラブ首長国連邦(UAE)である。この国の映画を観たことある方は……実は意外と多いかもしれない。というのもUAEはカタールやルクセンブルクといった富裕国と同じく、他国の映画を共同製作しまくっている国ゆえだ。特に私のように未公開映画をよく観てい…

Niranjan Raj Bhetwal&“The Eternal Melody”/ネパール、生と死とそのあわいと

鉄腸野郎の直近記事を読んでもらえば分かる通り、今、私のなかでネパール映画界がアツい。去年の2022年からその兆候を徐々に感じ取っていたのだが、今年はネパール人監督の長編作品がヴェネチアとトロント国際映画祭に選出されるという破格の出来事があり、…

Sunil Gurung&“Windhorse”/ネパール、人生の道筋もまた険しく

ネパールの山岳地帯に位置する僧院の数々は日本でも有名な観光地だろう。しかし険しい高地を行くトレッキングは相当に過酷なものだ。この記事を書くにあたって色々検索すると、ある村からある僧院までトレッキングで数時間といった文言すら見掛け、運動神経…

Ayarush Paudel&“Helena”/ネパールより、遠く離れて

アラブ首長国連邦という国は中東に位置する連邦国家であるが、この国の人口比において自国民が占める割合がたった1割ほどなのだそうだ。つまり人口の約9割が移民などの外国籍住民で構成されているのである。驚くべき割合であるが、今回はそんな移民国家の日…

Kyros Papavassiliou&“Embryo Larva Butterfly”/過去も未来も、今すら虚しく

razzmatazzrazzledazzle.hatenablog.com 監督の前作についてはこちら参照私はここ数年、キプロス映画界の動向に注目してきた。2010年代の映画界を席巻した国の1つがギリシャだったことは“ギリシャの奇妙なる波”と、例えばヨルゴス・ランティモスらギリシャ人…

Mouloud Aït Liotna&“La maison brûle, autant se réchauffer”/ふるさと、さまよい、カビール人たち

アルジェリアにはカビール人という民族が住んでいる。彼らはアルジェリア北部のカビリアに固有のベルベル人民族であり、 この国においてベルベル語を話す民族でも最大の人口を誇っている。だが経済的・歴史的理由によって、少なくない人々がフランスに移住し…

Amjad Al Rasheed&“Inshallah a Boy”/ヨルダン、法が彼女を縛るならば

さて、ヨルダンである。ヨルダン映画と聞いて何か作品が頭に思い浮かぶなら、あなたは相当のシネフィルだろう。ヨルダンの映画産業は未だ発展途上で、年間の長編製作本数も数本ほどらしい。だが今まで後塵を拝してきたヨルダン映画界が近年にわかに発展を遂…

Pascale Appora-Gnekindy&“Eat Bitter”/中央アフリカ共和国に生きるということ

さて中央アフリカ共和国である。文字通りアフリカ大陸の中央付近に位置しているこの国については、長きにわたり各地で激しい武力紛争が繰り返されているというニュースが頻繁に報道されている。その情勢によって世界最貧国の1つと呼ばれているほどだ。だがそ…

Brenda Akele Jorde&“The Homes We Carry”/ドイツとモザンビークの狭間で

ドイツとアフリカ大陸の間には負の現代史が横たわっている。欧米列強の1国として領土の拡大を目指し、ドイツは1884年から1915年に南西アフリカを植民地支配していた。ここに住んでいたヘレロ、ナマの両民族が1904年に反乱を起こすが“民族の絶滅”を旨として独…