鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る

少し前Julia Solomonoff "El último verano de la Boyita"(この記事を読んでね)を取り上げ、"わたしのからだ"を眼差すことについての考えを巡らせていった。あちらは、肉体はここにあり心はそれをどう受け止めていくかという物語だったが、今回はもっと奥へ…

ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために

ホベルト・ベリネール Roberto Berliner は1957年6月ブラジルに生まれた。大学ではソーシャル・コミュニケーションについて学び、1978年からは映像業界で働くこととなる。スーパー8で学生運動についての短編を製作し、1988年からはTV局でドキュメンタリー作…

Carolina Rivas&"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影

Carolina Rivasはメキシコ出身の映画監督だ。メキシコシティのCUEC映画学校で映画を学びながら、同時に演劇や舞踏にも親しんでいたという。監督デビューは1995年の"La vida se amputa en seco"、1つの自殺が生む波紋を描き出した短編映画だそうだ。間が空い…

ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ

「禁じられた遊び」「ポネット」「ハッシュパピー」「メイジーの瞳」最近ではM・ナイト・シャマランの「ヴィジット」や「ぼくたちの家路」などが日本でも公開されているが、子供たちの視点で物語を作るということにはどんな意味があるのだろう。私たちがかつ…

Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ

自分はなんでこんな体をしているんだろう、誰でも一度はそんなことを思う時がある。思春期を経て変わっていく体に当惑と違和感を覚えたり、毎朝鏡に映る自分を見て溜め息をついてしまったり、子供の時も辛いが、この辛さは大人になったとしても簡単には折り…

アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる

ハンナ・フィデル監督の「女教師」という作品を紹介した時、私はいわゆるエロ文芸映画にはお宝がたくさんあるが、その邦題と売り方のせいで全く顧みられていないと。例えば「昼下がりの背徳」これ邦題もパッケージもあれだが、実は監督が「モントリオールの…

Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい

このブログでは様々な未公開映画を通じて様々なイシューについて見てきたり考えたりしてきたが、今回のテーマはパレスチナ問題である。以前取り上げたイスラエル映画"Zero Motivation"は男女共に18歳になると徴兵されるイスラエルで、戦争とか私たちには関係…

私たちは私たちのために立ち上がる「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への戦い」

止まれ、危ない、撃たれるぞ!……ダメだ、もう死んでる……響き渡る銃声、倒れた者の姿……僕はさっき死体を運んだんだ……もう血だまりを歩くのにも慣れた……そっちへ行くな!……革命に尽くしたい、これはウクライナの革命なんだ……2014年2月20日、マイダン革命の始ま…

マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊

マイケル・スピッチャ Michael Spiccia はオーストラリアと欧米を拠点とする映像作家だ。アート&デザイン西オーストラリア学校でデザインについて学び始め、21歳の時に世界的なデザイン・プロダクションであるThe Attikに加入、そこではデザイナーとしてMVや…

Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ

チェコ映画といったら、まずはヤン・シュヴァンクマイエルだろう。「アリス」「悦楽共犯者」などアニメと実写が混ざり合う唯一無二の異形なる世界観にはファンが多い。そしてチェコ・ヌーヴェルヴァーグ、「夜のダイヤモンド」のヤン・ニェメツ、「火葬人」…

Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い

今年はグザヴィエ・ドランの新作「マミー/Mammy」は画郭がInstagram的正方形であったり、リサンドロ・アロンソの「約束の地」は四隅が丸みを帯びている変形スタンダード・サイズであったりと、スクリーン・サイズに工夫を凝らし物語に没入させる新しいタイプ…

男より、息子より、まず1人の人間として「マイ・オウン・マン」

デイヴィッドとジェイ、20年来の親友である彼らはとある場所へと赴く。高校生の頃だよな、ジェイは語る、ここで誰かが俺たちに襲いかかってきて、ビンを後頭部に叩きつけられた、その時思ったんだよ、ああこれ西部劇によくある酒場での喧嘩みたいだなってさ…

Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか

映画というメディアが生まれて百余年、この映像芸術は様々な形で世界の終わりを描いてきたが、私が一番愛している世界の終わり映画は「ミラクル・マイル」という作品だ。ある理由でロシアから核ミサイルがアメリカへと発射されたのを知った主人公は、最愛の…

Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野

つい先日、リアルサウンド映画部にポール・トーマス・アンダーソンの新作ドキュメンタリー"Junun"についてのレビューを寄稿(このページを読んでね)したのだが、そこで私は配信サイトMUBIについて書いた。PTA自身がこのサイトの利用者だったのがきっかけで、…

ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"

まず映るのは少女の後ろ姿だ、赤毛を三つ編みにした彼女は、森の中の道筋をふらふらと歩く、カメラはその姿を追い続け、ふと彼女は携帯電話を取りだし、歩みは止めないまま何処かへ電話をかける、呼び出し音、呼び出し音、彼女はふらふらと歩く、呼び出し音…

Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女

以前、イランの映画監督モハマド・ラスロフを紹介した時(記事はこちらから)、題名にも付けたのだが"国とは船だ、沈み行く船だ"というように船は荒廃する国のメタファーとして映画によく表れるという話をした。だが"Jazireh Ahani"も「海にかかる霧」にも出て…

Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ

10月末に開催される東京国際映画祭で「タンジェリン」という作品が上映される。あれではない、アブハジア紛争を描いたエストニア映画の「タンジェリン」ではない、EUフィルムデイズで観たけども、私の感想としては「ノー・マンズ・ランド」最高!という一言…

ナタリー・クリストィアーニ&"Nicola Costantino: La Artefacta"/アルゼンチン、人間石鹸、肉体という他人

私はどちらかと言えば劇映画が好きなので、今までドキュメンタリーというものを余り観てこなかった。いやいや今、正にそれを後悔している所だ。切断された足を巡って2人の男がアメリカ全土を巻き込んで激しい争奪戦を繰り広げる「拾ったものは僕のもの」(こ…

Mona Fastvold &"The Sleepwalker"/耳に届くのは過去が燃え盛る響き

ブラディ・コーベット、この名にピンとこなくともミヒャエル・ハネケ監督作「ファニーゲームUSA」の不愉快甚だしいガキ2人の中で、マイケル・ピットではない方と言えば分かる人も多いのではないだろうか。俳優として「サーティーンズ」やグレッグ・アラキ監…

José María de Orbe&"Aita"/バスク、移りゆく歴史に人生は短すぎる

さて、今回紹介する映画はバスク映画である。私含め皆さんに馴染みのないだろう国の映画を紹介する時の、あのお決まりの問いをここにも書くとしよう、あなたはバスクのことをどのくらい知っているだろうか。スペインの北に位置する地域、この前私がかなり注…

ベンヤミン・ハイゼンベルク&"Der Räuber"/私たちとは違う世界を駆け抜ける者について

走る者を描いた作品であなたの好きな映画はなんだろうか。「炎のランナー」「長距離走者の孤独」「誓い」「駆ける少年」「リトル・ランナー」……私が好きなのは、1つがナ・ホンジン「哀しき獣」だ。ハ・ジョンウ演じる主人公が妻を追い求めて、暴力に追いたて…

Leah Meyerhoff &"I Believe in Unicorns"/ここではないどこかへ、ハリウッドではないどこかで

今、アメリカでFilm Fatalesという団体が注目を集めている。LAとNYを拠点として活動しているこの団体は、女性差別の激しいハリウッドから離れて、自分たちで映画を作っていこう!という意気を同じくした作り手たちの団体だ。ここからどんどん才能ある作り手…

拾われたのは俺の足なのに「拾ったものは僕のもの」

実業家であるシャノン・ウィズナントは、オークションで買ってきたおかしな品の数々を、巧みな話術で高く売りさばいて生計を立てていた。この日もそうだ、いつものようにオークションで売れそうな物を見繕っていく、そして買ったのは古びたバーベキュー用グ…

Caroline Poggi &"Tant qu'il nous reste des fusils à pompe"/群青に染まるショットガン

さて、あなたはベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた"長編"作品をいくつ言えるだろう。私は今年の受賞作すら覚えてはいない(調べたらジャファール・パナヒ"Taxi"だった)。ではベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた"短編"作品をいくつ言えるだ…

Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く

アメリカのインディー映画界というのは本当に広くて、色々観まくってああ今の映画界こんなことになってるのねと知った気になっていると、その多様性にブン殴られる時が多々ある。「女教師」「6年愛」ハンナ・フィデル(この記事とこの記事を読んでね)、"Glass…

Nadav Lapid &"Ha-shoter"/2つの極が世界を潰す

韓国、ギリシャ、ルーマニア、イスラエルの映画が私は好きだ。韓国は過去に犯してきた、もしくは今現在犯し続けている罪について、このことは一生語り継いでいかなければならないという信念が、時には圧倒的な熱量を以て、時には驚くほど理知的なアプローチ…