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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Chloé Aïcha Boro&“Al Djanat - Paradis originel”/ブルキナファソ、フランスが刻んだその遺恨

ブルキナファソは西アフリカに位置する内陸国であるが、隣接国であるマリやニジェールなどともにフランスによって植民地化された国でもある。その影響は公用語がフランス語であることや法システムがフランスに則っていることなどからも理解できる。そんな国でここ数年クーデターが連続し、政情不安定な状態が続いているが、この裏側にあるものの1つが旧宗主国であったフランスへの国民の反感でもある。今回紹介するChloé Aïcha Boro クロエ・アイシャ・ボロ監督作“Al Djanat - Paradis originel”はそんなブルキナファソにおける反フランス感情の源を見据える1作となっている。

今作の発端は監督の叔父が亡くなったという知らせである。彼はブルキナファソのデドゥグという町の有力者であり、広大な土地の所有者でもあった。しかし彼が亡くなってしまったことで、10人以上もいる彼の子供たちの間で土地の権利問題が浮上することとなってしまう。監督はこれを受け帰郷、ここで起こる出来事をドキュメンタリーとして残すことを決意する。

そうして映し出される光景の数々は世知辛いものばかりだ。この土地を売るか売らないかで子供たちの間で必然的に激論が巻き起こる。先祖代々受け継がれてきた土地であり、手放すことなどはあってはならない。自分の妻が妊娠中であり金が必要だから、土地を売ることでそれを用意したい。こういった各自の言い分が現れては消えていき、議論は収拾がつかなくなっていく。

さらに事態を複雑にするのは、この土地に住む人々の存在だ。土地には様々な場所から流れてきた人々が住んでおり、身を寄せ合いながら暮らしている。子供たちは彼らから家賃を徴収するなどもしているが、この土地が売られてしまえば住む場所がなくなってしまう事情もある。こうしてこの土地には利害関係者があまりにも多すぎるがゆえ、解決の糸口が掴めないのである。

こういった時のためにこそ法は存在しているはずだが、ここにも落とし穴がある。ブルキナファソの法システムはフランスのそれを模倣したものであり、この国の文化や風土に則したうえで設計されたわけではない。ゆえに、特にこの国の伝統的な相続方式と完全に衝突してしまうのだ。そしてこれがブルキナファソにおける反フランス感情の源の1つとなっているのが今作では描かれる。劇中においても利害関係者の1人が、白人の押しつけた法のために伝統を放棄するのか?と激昂する場面が存在している。フランスが残した“遺産”によって何をするにしても、あちらを立てればこちらが立たずという状態が生まれてしまうのである。

監督であるBoroはブルキナファソ出身であるのだが、移住先のフランスを生活拠点としている境遇にある。これが故に、こういった反フランス感情が存在する祖国で監督の存在は良く思われていないようだ。昔は愛情深く接してくれた叔母の態度が、フランスに移住してしまった今は余所余所しくなってしまったと吐露する場面も劇中にはある。それでも今作はインサイダーとアウトサイダーの狭間にいる異物という独自の立場からそんなブルキナファソの光景を見据えており、だからこそ描けたものもあるのだろう。

ここからは少し現在のブルキナファソ情勢について書いていこう。今作完成の前年である2022年は軍事クーデターが2度も起こるという激動の年だった、まず1月にブルキナファソ国軍が機能不全の政府に業を煮やしクーデターを実行、そのリーダーであるポール=アンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐が政権のトップに就くこととなる。だがこの政権も現状に上手く対処できず、不満を持ったクーデター参加者の一部が9月30日に新たなるクーデターを実行する。そうしてイブラヒム・トラオレ大尉が暫定大統領に就任、今も彼の政権は続いている。

この2回のクーデターは、政府がイスラム武装勢力を鎮圧できないことへの不満が原因の1つであるとされている。政府は反乱を恐れて自軍の強化を怠り(それで結局はクーデターを起こされたのだから何とも虚しい結果だ)、フランス軍に鎮圧の任を担ってもらっていたが、フランスへの不信感からその支援を十全に活かすことすらできなかった。トラオレ大尉はこの現状を抜本的に変えるため、2023年3月には何とフランス軍を自国から追放してしまう。これは反フランス感情を持つ国民の支持を得たいという側面もあったのだろう。そしてその勢いでブルキナファソ政府はロシアの民間軍事会社であるワグネルに接近する一方で、自国軍強化のための住民たちの総動員をも宣言、今に至るというわけである。

今作はこの混迷のブルキナファソ情勢を直接的に描きだしているわけではない。しかし土地の権利問題と法制度の矛盾を通じて、クーデターの背景にある国民の反フランス感情、そしてその複雑さを観客に伝えてくれる。そしてそれを生んだものこそが植民地化という近代ヨーロッパの原罪であることを、私たちは理解せざるを得ないのである。