鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

私が「バーガンディー公爵」をどれだけ愛しているかについての5000字+α

2015年現在、イングランド映画界において私が"ビッグ3"と呼ぶ監督がいる。まず1人がジョナサン・フレイザーだ。映像作家としてジャミロクワイ"Virtual Insanity"などを手掛けていたフレイザーは2000年に異色のノワール映画「セクシービースト」でデビュー、…

アンナ・オデル&「同窓会/アンナの場合」/いじめた奴はすぐ忘れるが、いじめられた奴は一生忘れない

アンナ・オデル Anna Odell は1973年10月3日、スウェーデンに生まれた。ターヌムのGerlesborgsskolanという学校でファイン・アートを学び、その後もスウェーデン国立美術工芸大学(Konstfack)、王立美術大学(Kungliga Konsthogskolan)を渡り歩き、美術と映画…

リサ・ラングセット&「ホテルセラピー」/私という監獄から逃げ出したくて

リサ・ラングセット& "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級 リサ・ラングセット監督の略歴、デビュー作についてはこの記事を参照。私とは一体何なのだろう。私とはあなたの心から湧きあがる物によって構成されるのだろうか、それとも私と…

カミーラ・アンディニ&「ディアナを見つめて」/インドネシア、夫にPowerPointで浮気を告白されました

さて、現代インドネシア映画界の話である。日本、というか世界で一番有名なのは「ザ・レイド」だろう、監督はウェールズ人のギャレス・エヴァンスだがインドネシアの武術シラットを全面に押し出したことで新世紀のアクション映画!と世界中で話題になってい…

Julia Murat &"Historia"/私たちが思い出す時にだけ存在する幾つかの物語について

私にとってブラジル映画といったら、少し前まではエログロのカリスマキチガイ貴公子コフィン・ジョー一択だった。いやだって取り敢えずこの動画観てみてよ、アレだろ!……しかしここ最近、現代ブラジル映画を何本か観てきて、新しい才能現れ始めてるなあと思…

Jaak Kilmi&"Disko ja tuumasõda"/エストニア、いかにしてエマニエル夫人は全体主義に戦いを挑んだか

エストニア、エストニア、取りあえず今の段階で私が知っていることを書くと、リトアニアとラトビアと共にバルト三国の一国であること、去年か一昨年公開した「クロワッサンで朝食を」はフランス+エストニア映画であること、いや、本当にそれくらいしか知識が…

杨明明&"女导演"/2人の絆、中国の今

香港映画、台湾映画、そして大陸映画、いわゆる中国映画は大きくこの3つに分けられる。香港映画はもう大分昔からジミー・ウォングからジョン・ウー、ウォン・カーウァイからジョニー・トー、ダンテ・ラム、そして今年上映された「八仙飯店之人肉饅頭」「エボ…

I LOVE 女子×女子バディ・コメディ「キューティ・コップ」

バディ・アクションものと言えば男&男が普通で、ときどき男&女があり、しかし女&女という組み合わせはあまり見当たらない。アクションといえば男性が中心で、女性は彼らの添え物か恋愛を絡めりゃ客来んだろ!って意図で出てくるだけの存在でしかなかった訳だ…

朝起きる、基地に行く、席につく、ボタンを押す「ドローン・オブ・ウォー」

トーマス・イーガン(「ゲッタウェイ スーパースネーク」イーサン・ホーク)は朝起きる、1階に降りる、朝食を食べる、車を運転する、基地につく、席に座る、液晶を見る、液晶を見る、ドリンクを飲む、液晶を見る、ボタンを押す、10数える、爆発する、死体を数…

Daniel Wolfe&"Catch Me Daddy"/パパが私を殺しにくる

名誉殺人という言葉を聞いたことがあるだろうか。親が決めた結婚相手ではない男性と交際したり、結婚したりした、もしくは結婚後においても夫に反抗する女性を“一族の名誉を汚した”という理由で、家族から殺害されること、それを名誉殺人という。こうした因…

アンドリュー・ヒューム&"Snow in Paradise"/イスラーム、ロンドンに息づく1つの救い

映画にとって編集は重要だ、時によっては撮影や音楽よりも。シーンとシーンを繋ぐ編集はそのまま映画全体のリズムを決める、余計な部分を容赦なく切り捨てれば勢いよく物語は進む、むしろ余計な部分をそのままにして意図的な間延び間を生み出すことで逆に魅…

Carol Morley&"Dreams of a Life"/この温もりの中で安らかに眠れますように

新聞をつらつらと眺める、あなたはある記事に目を引かれる、誰かが亡くなったという記事、名前と年齢と亡くなった場所と、それから……冷ややかなリズム、この四角の中だけでは説明できるはずのない人生がその人にもあったはずなのに、あなたは少しだけそう思…

Sally El Hosaini&"My Brother the Devil"/俺の兄貴は、俺の弟は

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド、この4つから構成されている地域を何と言えばいいのか、イギリスとか英国とかUKとか色々あるが、調べてみると厳密にはそれでは駄目らしい。いや、別にそこ纏めて語る必要なくない?というのもある…

ジアン・シュエブ&"Sous mon lit"/壁の向こうに“私”がいる

思春期とホラーというのは相性がいい。第二次性徴を迎え自分の体が変わっていくとそんな恐怖はグロテスクなボディホラーにとって格好のテーマだし、思春期の少年少女が抱く未熟さゆえの全能感と何もかもから見放されたかのような孤独や絶望は世界を歪めるに…

お家でヴェネチア国際映画祭 総評

ということで半月かけてきたお家でヴェネチア国際映画祭もとうとう閉幕、オリゾンティ部門+ビエンナーレ・カレッジ作品15本中14作のチケットを買ってのめり込み、観たら記事を書くという日々を続けていたのでかなり名残惜しい。が、何にも終わりは来るという…

ジェイク・マハフィー&"Free in Deed"/信仰こそが彼を殺すとするならば

2週間ほど前のレイバーデイ、アメリカで興業収入1位となったのは"War Room"という作品だった。トニーとエリザベスは幸せな家庭を築いているように見えた。しかし水面下で溝はどんどん深まっていく。そんな状況に苦悩していたエリザベスはクララという女性と…

ヴェトリ・マーラン&"Visaaranai"/タミル、踏み躙られる者たちの叫びを聞け

インド映画と聞くとやはりボリウッド、歌って踊ってランタイム余裕で2時間越えという印象だが実情はそんな単純なものではないらしい。多民族国家であるインドは地方・言語圏それぞれで映画産業が独立しており、ボリウッドというのもインド最大の都市ムンバイ…

アニタ・ロチャ・ダ・シルヴェイラ&"Mate-me por favor"/思春期は紫色か血の色か

今まで11本のオリゾンティ部門&ビエンナーレ・カレッジ出品作を観てきたが、そこで分かったのは今年のトレンドは“少年少女の不穏な青春”だということだ。詳しくは総括記事に書くつもりだが、クバ・チュカイ"Baby Bump"、アナ・ローズ・ホルマー"The Fits"、…

ハダル・モラグ&"Why hast thou forsaken me?"/性と暴力、灰色の火花

いやいや、とうとうヴェネチア国際映画祭特別編その10にまで来てしまった。その9では私の好きなギリシャ映画界、そこに現れた新鋭を紹介できて嬉しかったが、今回はイスラエルである。このブログを読んでくださっている方はご存じだろうが、今までロニ・エル…

ヨルゴス・ゾイス&"Interruption"/ギリシャの奇妙なる波、再び

ギリシャ、財政破綻を迎えたこの国で、それでも映画を作ろうとする者たちが世界に衝撃を与えることとなる――グリーク・ウィアード・ウェーブ、Athina Rachel Tsangari監督の長編デビュー作"Attenberg"から始まったこの奇妙な波は、ヨルゴス・ランティモス監督…

ペマ・ツェテン&「タルロ」/チベット、時代に取り残される者たち

シルヴァーノ・アゴスティ、エトガル・ケレット、マイケル・クライトン、西川美和、ジョン・セイルズ、ミランダ・ジュライ……ここに挙げた人々の共通点は何か、それは“映画監督でかつ小説家でもある”ってことだ。さてヴェネチア国際映画祭特別編その8、今回紹…

メルザック・アルアシュ&"Madame Courage"/アルジェリア、貧困は容赦なく奪い取る

さて今回取り上げるのはアルジェリア映画である、アルジェリア、ふーむアルジェリア、私がアルジェリアについて知っているのはアフリカにあること、かつてフランスの植民地であったこと、そしてアルベール・カミュの生まれた場所ということ以外には何もない…

ヴァヒド・ジャリルヴァンド&"Wednesday, May 9"/現代イランを望む小さな窓

現代イラン映画といえば、まずは「彼女が消えた浜辺」「別離」のアスガー・ファルハディ、イラン当局に映画製作を禁止されながらも「これは映画ではない」「閉ざされたカーテン」のジャファール・パナヒや「ペルシャ猫を誰も知らない」公開延期の末に今年や…

アルベルト・カヴィリア&"Pecore in Erba"/偉大なる排外主義者よ、貴方にこの映画を捧げます……

お家でヴェネチア国際映画祭特別編その3で取り上げたレナート・デ・マリア監督の"Italian Gangsters"は志が高いゆえにつまらなさも際立つ、何とも残念な作品だった。それがトラウマで今日配信の奴はイタリア映画かあ…………と思いながら、ある作品を観たのだが…

アナ・ローズ・ホルマー&"The Fits"/世界に、私に、何かが起こり始めている

アメリカにフィルムメーカー・マガジンという雑誌・映画サイトがあって、そこは毎年“インディペンデント映画界期待の新人25人”を選出している。映画監督だけではなく、脚本家から撮影監督、アニメーターからキャスティング・ディレクターまで何処から見つけ…

レナート・デ・マリア&"Italian Gangsters"/映画史と犯罪史、奇妙な共犯関係

個人的な話だが、私が一番好きなイタリア産犯罪映画は「秘密組織・非情の掟」……と書いてから調べてみたら全然イタリア映画ではなかった、普通にアメリカ映画だった、でも何かこういう邦題のイタリア犯罪映画あった気しない???……まあ、ということで仕切り…

クバ・チュカイ&"Baby Bump"/思春期はポップでキュートな地獄絵図♪♪♪

ポーランドの映画監督といえば「灰とダイヤモンド」アンジェイ・ワイダ、「サクリファイス」アンドレイ・タルコフスキー、個人的には去年の「毛皮のヴィーナス」がすごく好きなロマン・ポランスキー、「デカローグ」クシシュトフ・キェシロフスキ、今年トロ…

ガブリエル・マスカロ&"Boi Neon"/ブラジルの牛飼いはミシンの夢を見る

ちょっと前から三大映画祭の1つヴェネチア国際映画祭が始まった。今年もいつものように英米の評論家が流す映画評を読んで疑似的に映画祭を楽しもうかと思っていたら、なんとヴェネチア国際映画祭はオリゾンティ部門で公開される15作品が配信され、家でも観れ…

この世界で女性が老いるということ「アドバンテージ〜母がくれたもの」

年をとった女性に対して“劣化”だとか“BBA”だとかいう言葉がぶつけられる様を見てしまった度、私は吐き気と、怒りを覚える。そしてそんな言葉に傷つかないよう自分から“BBA”と言う女性を見ると、やりきれなくて涙が出そうになる。日本は特にそうだと思うが、…

思い出という色とりどりの死骸たち「EDEN エデン」

冬と、枯れ木と、霧と、そして海。ミア・ハンセン=ラブ監督の最新作「EDEN エデン」が最初に映し出す、そして主人公のポール(「5月の後」フェリックス・ド・ジヴリ)が最初に見る風景は既に彼の挫折を予告している。90年代パリの音楽シーンを1人のDJの青春に…