鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2017-01-01から1年間の記事一覧

Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ

Katarzyna Rosłaniecは1980年にポーランドのマルボルクに生まれた。グダニスク大学で学んだ後は、ワルシャワ映画学校、アンジェイ・ワイダ映画学校などで勉学に励み、映画に対する技術を養っていく。そして2009年には初の長編作品"Galerianki"を監督し、消費…

アドリアン・シタル&"Pescuit sportiv"/倫理の網に絡め取られて

さて、私は常々ルーマニア映画界の動向を追っている訳であるが、今年のアカデミー外国語映画賞のルーマニア代表には何とブログでも紹介したアドリアン・シタル監督作「フィクサー」が選ばれることになった。記事に詳しいが、倫理観を巡るこの一作は私とルー…

パトリック・ブライス&"Creep 2"/殺しが大好きだった筈なのに……

いわゆるPOV映画という奴は数多くあるがどこもこれもダメダメな作品ばかりだ。手振れカメラがグラグラ揺れるだけの奴に、最後の最後まで怪物出すのを勿体ぶる奴、いきがった若者がぺちゃくちゃ喋ってばっかの奴にと挙げればキリがない。そんな中で米インディ…

S.クレイグ・ザラー&"Brawl in Cell Block"/蒼い掃き溜め、拳の叙事詩

今作の主人公はブラッドリー(「サイコ」ヴィンス・ヴォーン)という男、彼は元ボクサーでありながら力を発揮できる場もなく、妻のローレン(「リミットレス」ジェニファー・カーペンター)と共に味気ない日々を送っている。そんなある日、彼は仕事をクビになり…

Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力

スポーツと暴力は切っても切れない関係にある、言い換えればスポーツとは暴力の一形態である。サッカーやボクシングなど直接的に身体同士を接触させあうスポーツは当然として、陸上やフィギュアスケートなど個人競技であったとしても身体の酷使はつまり自身…

Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で

オーストラリアの内陸部にはアウトバックという巨大な砂漠地帯が広がっている。この地に心を惹かれる映画作家たちは少なくないようで、ここを舞台とした様々な映画作品が作られているが、まず私の頭に浮かぶのはテッド・コッチェフによる異形のドラマ作品「…

Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア

最近は余り聞かれなくなったが、日本で一時期"オレオレ詐欺"という奴が流行った。電話口で孫を騙ってお爺ちゃんお婆ちゃんからお金をせびるあの詐欺である。今回紹介するCyril Schäublin監督作"Dene wos guet geit"は外国にも同じような詐欺があるのだなと思…

Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと

さてさて、最近このブログではテン年代におけるブルガリア映画の隆盛について何度か記している。例えばRalitsa Petrovaの"Godless"にGrigor Lefterovの"Xristo"など頗る質の高い作品が数多く作られている訳だが、顕著なのはそのどれもがブルガリアという国の…

ライ・ルッソ=ヤング&"Nobody Walks"/誰もが変わる、色とりどりの響きと共に

ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように ライ・ルッソ=ヤングの略歴および前作についてはこの記事参照。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。私たちを構成する感覚の中で映画と最も相性がいいのは当然視覚だろう。スクリーンに映…

Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像

さてジョージア映画である。最近話題となっているのが、このブログでも紹介したナナ・エクチミシヴィリ(ブログ記事読んでね)による第2長編"My Happy Family"だ。3世代同居で家族の些事に負われ続ける女性が、一人で生きることを決意したことから巻き起こる悲…

Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争

さてマケドニア共和国である。旧ユーゴスラビアを構成する一国であったこの国、映画界では余り目立たない存在だ。この国から巣立った有名監督には「ビフォア・ザ・レイン」の監督ミルチョ・マンチェフスキがいるが、正直言って他には全く思いつかない。今回…

Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち

ゼロ年代後半、オーストラリアから現れた実録犯罪映画「ウルフ・クリーク」は全世界を震撼させた。それに続いて現れたのが「アニマル・キングダム」と「スノータウン」という凄まじい密度を持った犯罪映画であり、この3本はオーストラリア映画界の名声を高め…

Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録

Eduardo Williams&"Pude ver un puma"/世界の終りに世界の果てへと Edualdo Williamsの略歴および代表作についてはこちらの記事参照。この前、マティアス・ピニェイロ監督の特集上映に行き、現代アルゼンチン映画講座を受けた際、Nele WohlatzとEdualdo Wil…

Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を

さて、この前ブルガリア映画“Hristo”を紹介する記事において、テン年代以降この国の映画界が隆盛を遂げていると記した。ダルデンヌ兄弟や隣国ルーマニアの映画作家たちから多大なる影響を受けたスタイルで以て、ブルガリアの過酷な現状を忌憚なく描き出して…

Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎

さて「ダラス」である。おそらくアメリカ人ならば誰でも知っている長寿ドラマであり、暴君J.R.を中心としてとある一族の激烈で、時おり滑稽な権力闘争と愛憎模様が描かれる作品だ。この作品は誰が見ても分かる通り資本主義の論理を濃厚に反映した一作である…

ラドゥ・ジュデ&"Inimi cicatrizate"/生と死の、飽くなき饗宴

ラドゥ・ジュデ&"Cea mai fericită fată din ume"/わたしは世界で一番幸せな少女 Radu Jude&"Toată lumea din familia noastră"/黙って俺に娘を渡しやがれ! Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅 ラドゥ・ジュデの経歴及び今までの長…

Ana Lungu&"Autoportretul unei fete cuminţi"/あなたの大切な娘はどこへ行く?

現在大隆盛を遂げているルーマニア映画界には、傍目から見れば何の問題もないように見える。だが内部で叫ばれているのは女性監督の圧倒的な不足だ。例えば以前紹介した「テキールの奇跡」ルクサンドラ・ゼニデや、アニメーションと実写を交互に行き交う監督A…

Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で

私は東欧映画をかなり多く観ている方だと自負しているのだが、少し前の動向においてはいわゆる"EU加盟映画"(私命名)というジャンルが隆盛を迎えているように思われた。"EU映画"というのはEUに加盟する過程、もしくは加盟した以後の余波を描いた作品を総称し…

Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街

さて、ゼロ年代からテン年代にかけてルーマニアは驚くべき作品の数々を以て世界を席巻してきた。そして今その影響は隣国であるブルガリアにも及んでいると言っていいだろう。例えばクリスティナ・グロゼバ&ペタル・バルチャノフ監督作「ザ・レッスン〜女教…

Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す

この前、アリス・ロウの“Prevenge”について記事を書いた時、今ホラー映画界で妊婦ホラーが再び隆盛の時を迎えていると記した。それらは独自の趣向を凝らしており、例えば“Prevenge”は自身も妊娠中であった監督がその不満や体験をぶつけまくったホラーコメデ…

ラドゥ・ジュデ&"Cea mai fericită fată din lume"/わたしは世界で一番幸せな少女

Radu Jude&"Toată lumea din familia noastră"/黙って俺に娘を渡しやがれ! Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅 ラドゥ・ジュデの経歴及び"Aferim!"のレビューはこちら参照。1989年に勃発した血の革命の後、社会主義国家であったルー…

オーレン・ウジエル&「美しい湖の底」/やっぱり惨めにチンケに墜ちてくヤツら

木々も枯れ果て冷たい色彩に満たされたアメリカのド田舎、その地で不満を溜めこんだ小市民たちがなけなしの勇気を奮って犯罪に打って出る。しかしその結果は当然の如く大失敗を迎え、チンケな騒動が幕を開ける……そういったあらすじの映画をあなたは何本観た…

Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄

いわゆる別荘映画というジャンルがある。倦怠期を迎えた夫婦が人里離れた地にある別荘へと赴き、夫婦関係を見直そうとしながらも更なる泥沼へと嵌っていくこととなる……こういった作品は酷く多いが、それは映画作家になったら1度は作ってみたいジャンルである…

ゼロ年代を知るならこの映画を観よう!"Take 100"

このブログの目的はテン年代の新人映画作家たちを紹介することが中心だったのだが、この頃いわゆるアメリカにおけるマンブルコアというムーブメントの隆盛や、ゼロ年代から始まった今最もエキサイティングな潮流"ルーマニアの新たなる波"の成立を探る記事を…

サフディ兄弟&「神様なんかくそくらえ」/ニューヨーク、這いずり生きる奴ら

サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ サフディ兄弟&"The Black Ba…

アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語

世界には様々な身体を持った人々が生きている。腕や足が備わっている身体、先天的に目が見えない身体、下半身を持たない身体。こうして人の身体は多種多様な物だが、五体満足のいわゆる健常者以外の身体が映画で語られることは少ない。そしてもし語られると…

Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて

時おり観ている間、涙を抑えきれなくなる映画というものが存在する。例えばジャコ・ヴァン・ドルマルの「ミスター・ノーバディ」は枝分かれしていく、有り得たかもしれない未来の切なすぎる美しさの数々に途中から涙が止まらなくなった。そしてフランク・カ…

サフディ兄弟&"The Black Baloon"/ニューヨーク、光と闇と黒い風船と

サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ サフディ兄弟の諸作について…

ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から

ルーマニアのドナウ川流域には豊かな生態系と風光明媚な景色が広がっており、黒海に面するコンスタンツァは観光都市としても有名である。この地に存在する肥沃な泥は美容にも良いとされ、その恩恵に預かるためここを訪れる人々も少なくない。さて“ルーマニア…

ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる

私は常々思っているのだが、“犬になる”という言葉が日本語で“誰かに従属し媚びへつらう”というような意味になるのは人間のとんでもない傲慢さの表れではないだろうか。人間は太古の昔から犬に助けられ、そして今でも共に並び立って生きる存在である。そんな…