鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

私の好きな監督・俳優

楊國瑞&“好久不見”/運命の人魚に惑わされて

何というか時々“妙な映画”としか呼称できないような映画に遭遇することがある。例えば演出があまりにも変な映画だったり、物語の展開があまりにも不可解なものだったり、登場人物の行動原理があまりにも理解できない映画だったりする映画に出会うと“妙な映画…

Chloé Aïcha Boro&“Al Djanat - Paradis originel”/ブルキナファソ、フランスが刻んだその遺恨

ブルキナファソは西アフリカに位置する内陸国であるが、隣接国であるマリやニジェールなどともにフランスによって植民地化された国でもある。その影響は公用語がフランス語であることや法システムがフランスに則っていることなどからも理解できる。そんな国…

Salam Zampaligre&“Le taxi, le cinéma et moi”/ブルキナファソ、映画と私

さて、ブルキナファソである。この国は例えばイドリッサ・ウエドラオゴ Idrissa Ouedraogoやガストン・カボーレ Gaston Kaboréなど日本で作品が上映されるほど著名な映画監督にも恵まれている。さらにこの国ではアフリカ映画のある種メッカとも言えるワガド…

Álfrún Örnólfsdóttir&“Band”/悲痛と悲哀のアイスランド音楽界

ビョーク、シガー・ロス、オブ・モンスターズ・アンド・メン……その国の規模に反してアイスランドの音楽超大国ぶりたるや、他に並ぶ国を思いつかないほどだ。私がルーマニア映画をきっかけにルーマニア語を学んだのと同じように、アイスランド音楽に触れてア…

Beinta á Torkilsheyggi&“Heartist”/フェロー諸島、こころの芸術

さて、フェロー諸島である。デンマークの自治領であるこの地域にも、実は固有の映画産業が存在している。まず70年代後半にフェロー諸島舞台、フェロー人キャスト、この地域で話されるフェロー語を使用した数本の映画がスペイン人監督Miguel Marín Hidalgoに…

Hamida Issa&“Places of the Soul”/カタール、石油の子供たち

さて、カタールである。アラビア半島の北東部に位置するこの小さな国は、映画界における存在感もまた比較的小さい。私のように日本未公開映画を観まくっている方ならばアラブ首長国連邦やルクセンブルクに並んで、他国の映画を共同制作する国として知ってい…

Fidel Devkota&“The Red Suitcase”/ネパール、世界を彷徨う亡霊たち

さてさて、この鉄腸ブログでは何度も書いているが、最近にわかにネパール映画界がアツいことになっている。この国の新鋭たちの作品が2022年辺りからサンダンスやロッテルダムなどの有名映画祭に続々と選出されているのだ。そして2023年、その中でもより特権…

Wissam Charaf&“Dirty Difficult Dangerous”/レバノン、愛ってだいぶ政治的

さて、レバノンである。この国は人口1人当たりの難民受け入れ数が最も多い国としても有名だろう。近隣国であるシリアやパレスチナからの難民が多く押し寄せるゆえである。更には地中海を挟んでアフリカ大陸にも距離が近いので、そこから難民や移民たちがやっ…

Perivi John Katjavivi&“Under the Hanging Tree”/ナミビア、血の過去とそして現在

アフリカ南部に位置するナミビア共和国、この国とドイツの間には負の現代史が横たわっている。欧米列強の1国として領土の拡大を目指し、ドイツは1884年から1915年に南西アフリカを植民地支配していた。その支配の最中、この地に住んでいたヘレロ、ナマの両民…

Wendy Bednarz&“Yellow Bus”/その国の名は、アラブ首長国連邦

さて、アラブ首長国連邦(UAE)である。この国の映画を観たことある方は……実は意外と多いかもしれない。というのもUAEはカタールやルクセンブルクといった富裕国と同じく、他国の映画を共同製作しまくっている国ゆえだ。特に私のように未公開映画をよく観てい…

Niranjan Raj Bhetwal&“The Eternal Melody”/ネパール、生と死とそのあわいと

鉄腸野郎の直近記事を読んでもらえば分かる通り、今、私のなかでネパール映画界がアツい。去年の2022年からその兆候を徐々に感じ取っていたのだが、今年はネパール人監督の長編作品がヴェネチアとトロント国際映画祭に選出されるという破格の出来事があり、…

Sunil Gurung&“Windhorse”/ネパール、人生の道筋もまた険しく

ネパールの山岳地帯に位置する僧院の数々は日本でも有名な観光地だろう。しかし険しい高地を行くトレッキングは相当に過酷なものだ。この記事を書くにあたって色々検索すると、ある村からある僧院までトレッキングで数時間といった文言すら見掛け、運動神経…

Ayarush Paudel&“Helena”/ネパールより、遠く離れて

アラブ首長国連邦という国は中東に位置する連邦国家であるが、この国の人口比において自国民が占める割合がたった1割ほどなのだそうだ。つまり人口の約9割が移民などの外国籍住民で構成されているのである。驚くべき割合であるが、今回はそんな移民国家の日…

Kyros Papavassiliou&“Embryo Larva Butterfly”/過去も未来も、今すら虚しく

razzmatazzrazzledazzle.hatenablog.com 監督の前作についてはこちら参照私はここ数年、キプロス映画界の動向に注目してきた。2010年代の映画界を席巻した国の1つがギリシャだったことは“ギリシャの奇妙なる波”と、例えばヨルゴス・ランティモスらギリシャ人…

Mouloud Aït Liotna&“La maison brûle, autant se réchauffer”/ふるさと、さまよい、カビール人たち

アルジェリアにはカビール人という民族が住んでいる。彼らはアルジェリア北部のカビリアに固有のベルベル人民族であり、 この国においてベルベル語を話す民族でも最大の人口を誇っている。だが経済的・歴史的理由によって、少なくない人々がフランスに移住し…

Amjad Al Rasheed&“Inshallah a Boy”/ヨルダン、法が彼女を縛るならば

さて、ヨルダンである。ヨルダン映画と聞いて何か作品が頭に思い浮かぶなら、あなたは相当のシネフィルだろう。ヨルダンの映画産業は未だ発展途上で、年間の長編製作本数も数本ほどらしい。だが今まで後塵を拝してきたヨルダン映画界が近年にわかに発展を遂…

Pascale Appora-Gnekindy&“Eat Bitter”/中央アフリカ共和国に生きるということ

さて中央アフリカ共和国である。文字通りアフリカ大陸の中央付近に位置しているこの国については、長きにわたり各地で激しい武力紛争が繰り返されているというニュースが頻繁に報道されている。その情勢によって世界最貧国の1つと呼ばれているほどだ。だがそ…

Brenda Akele Jorde&“The Homes We Carry”/ドイツとモザンビークの狭間で

ドイツとアフリカ大陸の間には負の現代史が横たわっている。欧米列強の1国として領土の拡大を目指し、ドイツは1884年から1915年に南西アフリカを植民地支配していた。ここに住んでいたヘレロ、ナマの両民族が1904年に反乱を起こすが“民族の絶滅”を旨として独…

陈冠&“深空”/2021年、ロックダウンを駆ける愛

さて、マカオである。中国の特別行政地区であり、かつてはポルトガルの植民地だったこともあり西洋と東洋の文化が入り交じる場所、もしくは“アジアのラスベガス”との異名でも有名かもしれない。だが映画という面ではかなり影の薄い地域でもあるだろう、私自…

Cyrielle Raingou&“Le spectre de Boko Haram”/カメルーン、学ぶことのままならなさ

日本でも数年前にボコ・ハラムというテロ組織が話題になっていたのを皆さんも覚えているだろう。イスラム法の施行とイスラム教育の実施を教義として、ナイジェリアで過激なテロ行為を繰り返していた彼らだが、その影響はナイジェリアと国境を接するカメルー…

姚志衞&“明天比昨天长久”/シンガポール、僕は大人になるしかなかった

さて、シンガポールである。マーライオン、経済急成長、“明るい北朝鮮”という異名、徴兵制度などなど注目すべきところは多々あるが、映画という面ではどうだろうか。例えば最近でも斎藤工主演の「家族のレシピ」が公開されたエリック・クーや「イロイロ ぬく…

Angela Wanjiku Wamai&“Shimoni”/ケニア、英語という名の怪物

さて、ケニアである。この国は多言語国家であり、バントゥー語群のスワヒリ語と、植民地支配によってもたらされた英語が共通語として話されている。この2つが国の公用語ともなっているのだ。そして40以上の民族から成り立っている国であり、キクユ語やルオ語…

Ove Musting&“Kalev”/エストニア人の誇りとは何か?

スポーツというものは政治情勢の煽りを喰らうことがとても多いように感じる。その最たるものが国の代表が一同に介するオリンピックだろう。冷戦時代は東側と西側の代理戦争としての役割をも必然的に担い、イスラエルのアスリート11名が殺害されたミュンヘン…

Abner Benaim&“Plaza catedral”/パナマ、幼い命が失われゆく街で

さて、パナマである。グアテマラやコスタリカとともに中米を構成する国の1つだが、この国について知られていることは少ないかもしれない。斯く言う私もパナマといえば、地理の授業で必ず習うだろうパナマ運河や、近年の金融スキャンダルで話題になったパナマ…

Paul Negoescu&“Oameni de treabă”/ルーマニア、お前はここでどう生きる?

Paul Negoescu パウル・ネゴエスク、ルーマニア映画界には稀な、批評家や映画祭からも、ルーマニア国民からも愛される映画作家である。デビュー長編“O lună în Thailandă”(レビュー記事)はヴェネチア国際映画祭でプレミア上映後、映画批評家からも高く評価さ…

Amil Shivji&“Vuta N’Kuvute”/ザンジバル、黒い肌と茶色い肌

さて、ザンジバルである。これはタンザニアに属するザンジバル諸島の指す地域名であるが、名前を聞いてパッと何らかの連想が働く人は多くないだろう。とはいえここ出身の有名人が何人かいる。例えばクイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーはイギリ…

「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」のルーマニア語原題を訳す!

さて4月23日から日本でも「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」が上映されている。今作はルーマニアで今最も注目される映画作家Radu Jude ラドゥ・ジューデの最新作で、かつベルリンで最高賞の金熊賞を獲得している。ジューデ監督作が日本公開され…

Ioana Iacob&“Wir könnten genauso gut tot sein”/ドイツのルーマニア移民たち

ルーマニア人俳優は、ルーマニア以外でも世界の映画界で活躍している。ハリウッドで大活躍中のセバスチャン・スタンなどはその代表例だろう。他にもドイツのアレクサンドラ・マリア・ララなどがいるが、今同国でも著しく活躍の幅を広げている人物がいる、そ…

Petna Ndaliko Katondolo&“Kumbuka”/コンゴ民主共和国について語る時、私たちが語ること

Joris Postema ヨリス・ポステマというオランダ人監督がコンゴ民主共和国を舞台に“Stop Filming Us”という作品を製作した。今作はコンゴの現状を映し出したドキュメンタリー作品であり、世界の国際映画祭で評価されることになる。だがこれを疑問に思ったのは…

Stathis Apostolou&“The Farmer”/2つの国、1つの肉体

まずある1人の俳優との出会いについて語らせてほしい。先日、私はロッテルダム映画祭でプレミア上映された“Broadway”というギリシャ映画を観た。詳しくはレビューを書いたのでそれを読んでもらいたいが、少し内容を書くと、今作は家父長制に挑む反逆者たちの…