鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ

サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独
サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩
サフディ兄弟のプロフィール及び前作についてはこちら参照。

時々、映画を観ている時に“○○に捧ぐ”という一文の出てくることがある。”これを完成させられたのはあなたがいてこそだ”という最上の感謝を語る言葉であり、時々ニコラス・ウィンディング・レフンネオン・デーモンみたいなキワモノ映画を“妻に捧ぐ”みたいなことをして苦笑する(まあレフンらしい)こともあるが、概ね感動的な響きを持っている。今回紹介するのは、サフディ兄弟が“父親に捧ぐ”、極個人的でだからこそ胸を打つ第2長編“Daddy Longlegs”だ。

今作の主人公は映写技師として働く中年男性のレニー(Ronald Bronstein)、彼は離婚して独り暮らしの寂しい日々を過ごしていた。だがそんな中彼は最愛の息子たちであるセイジとフレイ(Sage Ranaldo&Frey Ranaldoソニック・ユースリー・ラナルドの息子だという)と久しぶりに再会、2週間の間共同生活をすることとなる。それでももちろん楽しいばかりで進むわけもなく……

“Daddy Longlegs”が描き出すのはレニーと彼の息子たちが巻き起こす日常という名の嵐だ。いたずら小僧であるセイジたちはレニーの家でもトカゲを捕まえたと大騒ぎしたかと思うと、レニーの仕事中に留守番を頼まれた青年におしっこ混じりの水鉄砲をかけまくるなどヤンチャ盛りだ。そこでレニーと微妙な関係にある女性レニ(エレノア・ヘンドリックスが再登板)と色々馬鹿やったり、ひょんなことからニューヨークの郊外で水上スキーをしたりと、彼らの日常は何とも騒々しい。

前作に比して主人公が1人から3人に増えたからか、作品に満ちるニューヨークの猥雑な活気も3倍増しになっていると言える。ザラザラなフィルムの粒子や常に震えまくる手持ちカメラの画面、超低予算を隠す気のない荒々しさは更なる洗練を遂げて、私たちにこの街の活気と噎せ返るような匂いを運んでくれる。そしてそこには様々な人種の人々が行き交うことで生まれる美しい訛りの交響曲が響き渡り、太陽の光と地下トンネルの闇が交錯しあう。映画でこそ観れる、映画でしか観れないニューヨークがここには広がっているのだ。

この猥雑さには2つの愛が宿っている。まずは映画というメディアに対する愛だ。レニーが映写技師というのは先述したが、劇中には彼が仕事をする場面が多く現れる。映写機を操る彼の横顔は仕事人という風な真剣さを誇る、もちろんサボる時もマジである。ある時彼は自分の仕事について教えるため、セイジたちを仕事場へ連れていくこととなる。大きなケースに入ったフィルム、スクリーンの右上に一瞬浮かぶ煙草の焼き跡のような円、そしてセイジたちは懐かしい匂いに満ちる空間を走り回り、映写室の父親に向かって手を振る。その光景はひどく微笑ましいものだ。

そしてもう1つが父親への愛だ。とはいえここで描かれる父親=レニーはとんでもないダメダメ野郎である。共同生活初日から学校への迎えに遅れ、教師から大目玉を喰らう。そして態度は父親というより遊び仲間という風で、けじめをつけずに一緒に騒ぎまくる様には責任感の欠片も伺えない。恋人なのか友人なのか良く分からないレニとの関係性もいい加減なままにしておきたいという魂胆が見え見えで、総てにおいて無責任である。だが彼を演じる○はサフディ兄弟言う所の“サイレント映画のスター”さながらの挙動で皆を魅了していく。その根底において憎めない父親の姿がここにはあるのだ。

今作は自身らが語る通り、サフディ兄弟と映像作家であった父の関係性を再構築した半自伝的映画である。彼らが小さな頃両親は離婚し、ほとんどの時間を母親と共に過ごしながらも、少しの間は父親と暮らし、映画作家としての道を歩むきっかけを彼から掴んだのだ。そう言えばやはり愛が先立つように思えるが、その実彼らの心境は複雑だ。物語が進むにつれて、レニーの無責任さはエスカレートし、とうとう彼はグレーな領域へと踏み込むこととなる。それはおそらくこの描写だけでこの映画が嫌いになる人も思えるほどに危ういものだ。しかしサフディ兄弟もこの危険さは意識的なのだろう。つまり彼の思い出の中にあるのは愛だけではないと分かってくるからだ。

“Daddy Longlegs”という映画は愛と嫌悪感の間にある曖昧な領域を綴る一作でもある。自分たちをこの道に導きながらも心に傷を残した存在、様々なノイズによって掻き乱された父親の思い出にいかに決着をつければいいのか、その答えを探し求める痛切な過程がここには映し出されているのだ。

それでも愛や嫌悪感を越えた何かもまた、この映画には確かに存在している。仕事場にやってきたセイジたちは、自分たちでも映画の絵コンテを書いてそれを勝手に何百枚も印刷してしまう。それを鞄の中に入れて持ち帰ろうとするが、風に煽られて落ちた鞄から紙がブワッと飛んでいってしまう。数百枚(撮影には3000枚使ったらしい)もの紙は激しい風に晒されてニューヨークの街を舞い踊る様には多幸感としか言いようのない感情が湧き上がる一方、何かが失われていく切なさすらも込み上げる。そんな風景はサフディ兄弟が実際に体験した光景でもあるのだという。十数年後経った時、彼らは様々な感情の入り交じる風景を再び世界に浮かび上がらせることで、ある1つの万感を語る。この映画を他でもない父に捧げる、と。

参考文献
http://www.nytimes.com/2010/05/16/movies/16safdie.html(監督インタビューその1)
http://jewishweek.timesofisrael.com/being-the-safdie-brothers/(インタビューその2、ユダヤ人という出自が話題の中心)
http://filmmakermagazine.com/221-daddy-longlegs-josh-and-benny-safdie-by-scott-macaulay/(インタビューその3)

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