鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇

さてここ連続して、ブログでロシア映画の記事ばかり執筆しているのに皆さん気づいているだろうか。というのも最近Soviet and Russian Moviesという未公開映画配信サイトを見つけ、ここで新作を片っ端から観ているからなのだ。ここは名前の通りソ連/ロシア映画を配信しているサイトで、セルゲイ・エイゼンシュタイン戦艦ポチョムキンからアンドレイ・ズビャギンツェフ「ラブレス」まで旧作新作を配信、もちろん未公開映画も多数取り揃えている。という訳で個人的にロシア映画ブームが来ており、記事を多く執筆しているのだ。さて今回はロシア映画界の新鋭トリックスターIvan I. Tverdovsky監督による奇妙なラブストーリー“Zoology”を紹介していきたいと思う。

本作の主人公はナターシャ(Natalya Pavlenkova)という中年女性だ。動物園で事務員として働く彼女は職場では同僚に嘲笑われ、家では耄碌した母親(Irina Chipizhenko)によく分からない話を聞かされ続け、どこにも居場所がない孤独な生活を送っていた。そんな彼女はドン詰まりの生活の中で、1つだけある秘密を抱えていたのだった。

“Zoology”はまず悲惨なほどに孤独なナターシャの生活を見つめ続ける。撮影監督Aleksandr Mikeladzeによる手振れカメラは、今にも壊れてしまいそうな幸薄さを湛えた彼女が寂しさに耐え忍びながらも、同僚たちに陰口を叩かれたり大量のネズミをけしかけられるなど確実に精神を削られていく姿を追いかけていく。唯一心落ち着くのは動物園で檻の中の動物たちと戯れる時だけだ。ライオンにエサをやり、騒ぎ回る猿に“いたずらな子!”と声をかけたり。その時だけはナターシャの顔にも笑顔が浮かぶのだ、その時だけは。

そんな彼女はお尻に痛みを感じ、病院へと駆け込む。医師であるペーチャ(Dmitriy Groshev)にレントゲンを取ってもらうことになるのだが、彼女はどうしても下半身を彼の前に晒そうとはしない。それでも最後には覆いを取ってしまうと、何と膝くらいまで届く細長い肌色の尻尾がそこにはあったのだった。

この作品は寒々しいロシアの岸辺の町を舞台とした、大人向けの少し不思議なファンタジー映画だとひとまず言えるだろう。尻尾はなかなかにリアルでグロテスクな印象を受ける人もいるかもしれない(その辺りは人魚伝説を大胆にアレンジしたポーランドゆれる人魚を彷彿とさせる)だが序盤はダルデンヌ兄弟風の社会派リアリズム的演出も相まって、それほど現実離れした筋道を辿ることがない。ナターシャも医師も尻尾の存在に何故だか余り驚かないのである。

だが物語はある出来事をきっかけに進展していく。診察の際にナターシャはレントゲン医師のペーチャと出会った訳であるが、治療の都合で何度も彼の元へ通ううちに、2人は仲良くなっていく。ワインを一緒に飲んだり、岸辺にある秘密の場所でソリに乗ったりする中で彼女たちは惹かれあい、そしてとうとう唇を重ねあうまでになる。

という訳で今作は男女逆転版シェイプ・オブ・ウォーターとも言うべきーーナターシャは怪物とまでは行かないがーーロマンス劇へと舵を切り始める。本作が上映された際“怪物はいつも男で、それを受け入れるのはいつも男だ”という呟きをTwitterで見かけ、確かにその通りかもしれないと思っていたのだが、遡ること1年前に遠きロシアで“怪物は女で、それを受け入れるのは男”というロマンス映画が作られていた訳である。その愛の光景は本当に微笑ましく、ロシアの寒さを吹き飛ばすような暖かさに満ち溢れている(ついでに年齢が女>男という恋物語のもかなり珍しいだろう)

しかしだんだんとその愛に不穏な影が差し始めるのに観客は気づくだろう。ダンス場で2人は音楽に合わせ踊るのだが、余りにも舞い上がりすぎたナターシャのドレスから尻尾が飛び出してしまう。すると周囲の客は悲鳴を挙げて、凄まじい勢いでダンス場から逃げ出していくのだ。更に通りを歩いている時、うっかり尻尾をチラと見せてしまうものなら、通行人はまるで狂人を見るような目つきで睨みつけ、ナターシャを避けていく。ここにおいては“普通”からは逸脱した物に対する恐怖や軽蔑が現れ出ていて、それは国を問わないものだろうが、ロシア国内から見るとそれらはまた違って見えてくるらしい。今作のレビューを書く際、色々と海外のレビューを漁っていたのだが、Varietyのレビューにおそらくロシア在住者によるものだろう興味深いコメントがついていたので、それを紹介しよう。

"この作品は私生活を公にしたLGBTの人々を虐げる国における、暗喩に満ちた同性愛映画なんです。ナターシャの動物園での同僚は彼女を怠け者と考えていて、自分たちが飼育している檻の中の動物たちと彼女が密接な関係にあるのに気付いていません。ナターシャの隣人たちは彼女を自分たちと同じ価値観を持つ人物だと思っているが、その価値観は主流にある故に、自分たちが彼女を傷つけていると気付けていません。最終的にナターシャが"本質的に悪である"と彼女の母が気付いた時、母は自分が理解できない悪魔を祓うため部屋を十字架で埋めていきます。ロシア正教の神父がナターシャを祝福する方法が分からなかったり、聖餐を行おうとしないのもつまりはそういうことです"*1

“Zoology”はそうして暖かな愛の風景と凍えるようなロシアの闇が交錯する、中年女性のためのお伽噺なのである。この極寒の地で彼女は幸せを掴めるのだろうか。その余韻は頗る深いものだ。

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
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