鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

クィア映画

Christos Massalas&“Broadway”/クィア、反逆、その生き様

ギリシャ映画には連綿たるクィア映画の系譜がある。最近でいえば日本ではキワモノZ級映画と見なされている「アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ケーキ」とその監督パノス・H・コートラスはギリシャにおけるクィア映画史の重要人物でもある。彼の1世代後に現…

Hannah Marks&“Mark, Mary & Some Other People”/ノン・モノガミーについて考える

性指向にしろ性自認にしろ、性というものが多様になってきている。いや、多様な性を持つ人々というのは以前から存在していたに決まっているが、彼らが“私たちはここにいる!”と叫んできた行動の数々がとうとう実を結んで、多様性が可視化されてきたという方…

Romas Zabarauskas&“Advokatas”/リトアニア、特権のその先へと

最近よく特権について考える。例えば私は日本国籍を持って生まれてその意味では日本に生きる日本人であり、セクシャリティに関してはシスジェンダーかつヘテロセクシャルの男性ゆえ、この意味で日本においてかなりの特権を持っている。一方で自閉症スペクト…

Ulla Heikkilä&"Eden"/フィンランドとキリスト教の現在

皆さんはキリスト教におけるConfirmation Campというものを知っているだろうか。このキャンプは思春期のキリスト教徒たちが集まり、信徒である大人たちの導きに従いながら信仰について考えるイベントである。彼らは数日間共同生活を行いながら聖書を読解した…

Eugen Jebeleanu&"Câmp de maci"/ルーマニア、ゲイとして生きることの絶望

ルーマニアはLGBTQの権利という意味ではかなり保守的な部類に入る。それを象徴する事件が近年頻発している。例えばロマ文化研究者とロマ文化の担い手が恋に落ちる、ゲイ版"ロミオとジュリエット"と呼ばれるルーマニア映画"Soldații: Poveste din Fereastra"…

タイ、響き渡る本当の声~Interview with Ratchapoom Boonbunchachoke

さて、このサイトでは2010年代に頭角を表し、華麗に映画界へと巣出っていった才能たちを何百人も紹介してきた(もし私の記事に親しんでいないなら、この済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!をぜひ読んで欲しい)だが今2010年代は終…

Oliver Hermanus&"Moffie"/南アフリカ、その寂しげな視線

1980年代、マイノリティである白人によって統治されていた南アフリカ共和国において、人種隔離政策、いわゆるアパルトヘイトが頂点を極めていた。そんな中でこの国は、共産主義であったアンゴラ人民共和国における内戦に介入、共産主義政権を潰そうと活動し…

Isabel Sandoval&「リングワ・フランカ」/アメリカ、希望とも絶望ともつかぬ場所

さて、今映画界におけるトランスジェンダー表象が話題である。例えばNetflixでトランスジェンダー表象を当事者の目線で描きだした"Disclosure"(邦題は長すぎる)が配信された一方で、ハル・ベリーがトランスジェンダー男性を演じようとして批判が殺到、彼女が…

広大なるスロヴェニア映画史とLGBTQ~Interview with Jasmina Šepetavc

さて、日本の映画批評において不満なことはそれこそ塵の数ほど存在しているが、大きな不満の1つは批評界がいかにフランスに偏っているかである。蓮實御大を筆頭として、映画批評はフランスにしかないのかというほどに日本はフランス中心主義的であり、フラン…

Marko Đorđević&"Moj jutarnji smeh"/理解されえぬ心の彷徨

いわゆる"コミュ障"という言葉が日本語にはある。内に引きこもるばかりで他者との交流の仕方を知らず、孤独をこじらせていく悪循環に陥る人々のことだ。日本ではこの言葉がカジュアルに使われているが、実際問題この障害によって実生活に悪影響が及んでいる…

Nils-Erik Ekblom&"Pihalla"/フィンランド、愛のこの瑞々しさ

さて、毎年冬に東京ではフィンランド映画祭が行われる。日本では未公開である現代のフィンランド映画を上映してくれる有り難い映画祭だ(個人的にはいつかルーマニア映画祭とかも上映されないかなと羨ましく思っている)という訳で今回はそれに合わせてフィン…

Tamar Shavgulidze&"Comets"/この大地で、私たちは再び愛しあう

昔から女性を愛し、女性に愛されてきた、いわゆるレズビアンという人々がいた。しかし彼女たちの愛と人生は平坦なものではあり得なかった。社会の同性愛者への不理解や偏見に晒され、そして個人的な苦悩にも苦しめられ、愛する者と別たれてきた人々も多いだ…

Marie Kreutzer&"Der Boden unter den Füßen"/私の足元に広がる秘密

ローラ(Valerie Pachner)はビジネス・コンサルタントとしてオーストリアとドイツを飛び回る日々を送っている。仕事の首尾も上々であり、今後これが続けばオーストラリアへの栄転もあるそうだ。上司のエリーゼ(Mavie Hörbiger)とは公私に渡るパートナーであり…

Katharina Mückstein&"L'animale"/オーストリア、恋が花を咲かせる頃

恋はいついかなる時間場所でも花を咲かせる。その恋の風景の数々は共通するところがあれば、異なる部分もある。それらについて映画などを通じて知っていくことは、芸術に触れる楽しみの1つでもあるだろう。今回紹介するKatharina Mückstein監督作“L’animale”…

Agustina Comedi&"El silencio es un cuerpo que cae"/静寂とは落ちてゆく肉体

アルゼンチンの現代史は激動の歴史以外の何物でもないだろう。特に、俗に言う“汚い戦争”が繰り広げられた、7年にも渡る軍事政権は様々な形で人々を翻弄していった。例えば共産主義者などに対する弾圧は有名であるが、同時に同性愛者に対する弾圧も凄まじいも…

Blerta Zeqiri&"Martesa"/コソボ、過去の傷痕に眠る愛

さて、コソボである。他の旧ユーゴスラビア諸国のようにこの国もまた苛烈な紛争を経験し、数多の死と破壊に見舞われることとなった。その時代から約20年が経ち復興は確かに進みながらも、今にも癒えない傷や隠された忌まわしき過去というものはコソボの人々…

Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について

現在、ルーマニアでは同性婚禁止の動きが活発化している。政府が国民投票によって結婚についての憲法条項の改訂を決めたのである。もしこれによって本当に同性婚が禁止されてしまったならば恐ろしいことだ。LGBTQである人々の権利が著しく侵害されてしまうの…

Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と

さて、ヴェネチア国際映画祭はメキシコの映画作家アルフォンソ・キュアロンの最新作“Roma”が金獅子賞を獲得したことで、幕を閉じることとなった。だが私が興味あるのはメインのコンペティション部門よりもサイドのオリゾンティ部門である、とは前も言った。…

リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?

リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる? リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ? リン・シェルトンの経歴および長編作につい…

Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に

Chloé Robichaud &"Sarah préfère la course" /カナダ映画界を駆け抜けて Chloé Robichaud&"FÉMININ/FÉMININ"/愛について、言葉にしてみる Chloé Robichaud監督の略歴、および前作についてはこちら参照。さて、Chloé Robichaud監督である。彼女は私にとって…

Jen Tullock&"Disengaged"/ロサンゼルス同性婚狂騒曲!

同性婚がアメリカにおいて認められた後、その事実を背景として様々な作品が作られている。日本でも公開されたアイラ・サックス監督作「人生は小説よりも奇なり」やキャサリン・ハイグルが主演を飾った“Jenny’s Wedding”に、一風変わった作品としては結婚式を…

Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ

芸術作品とは否応なくその時代を反映するものであるが、こと映画に関しては映像メディアという側面もあるがゆえ、もはやフィクションですらもある意味で時代を撮すドキュメンタリーのような役割を果たすことになる。その過程で否応なく問題となってくるのが…

Michalina Olszańska&「私、オルガ・ヘプナロヴァー」/私、オルガ・ヘプナロヴァーはお前たちに死刑を宣告する

オルガ・ヘプナロヴァという名前を聞いてピンと来る人間は、殺人鬼マニア以外にそうは居ないだろう。1973年彼女はチェコの首都であるプラハの中心地で、路面電車を待っていた人々の列へとトラックで突っ込んだのだ。この事故によって12人が負傷、8人が死亡、…

マリアリー・リバス&「ダニエラ 17歳の本能」/イエス様でもありあまる愛は奪えない

宗教と性愛の関係性は何というか極端だ。例えばキリスト教を見てみれば、神の名の元に性愛およびセックスは著しく制限され、それが回り回って「スポットライト」のような忌むべき性的虐待事件やケン・ラッセルの「肉体の悪魔」のような性欲大爆発な事件を巻…

Stephen Cone&"Henry Gamble's Birthday Party"/午前10時02分、ヘンリーは17歳になる

このブログでは何度かアメリカにおいて、いわゆるキリスト教啓蒙映画が台頭し始めていると書いてきた。そんな状況で5〜7月の3ヶ月連続でキリスト教啓蒙映画が日本でも公開決定という頭抱えたくなる事態が起こった。レイバーデイを狙って週間興業収入1位を強…

アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから

飛行機に乗るでもいい、いっそ鳥になるでもいい、この地上から離れてあの大空へと飛んでいきたい、そう思ったことのある人は少なくないのでは。最近でもパスカル・フェラン監督の手掛けた「バードピープル」が話題になったが、純粋な憧れにしろ日々の疲れか…

Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画

時折、この映画は全てにおいて"新しい"としか形容できない作品に出会ってしまうことがある。例えばRamon Zürcherの"Das merkwürdige Kätzchen"(詳しくはこの紹介記事を読んでね)、今作はある家族の日常の風景をシャンタル・アケルマンの禁欲性とジャック・…

アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る

少し前Julia Solomonoff "El último verano de la Boyita"(この記事を読んでね)を取り上げ、"わたしのからだ"を眼差すことについての考えを巡らせていった。あちらは、肉体はここにあり心はそれをどう受け止めていくかという物語だったが、今回はもっと奥へ…

Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ

自分はなんでこんな体をしているんだろう、誰でも一度はそんなことを思う時がある。思春期を経て変わっていく体に当惑と違和感を覚えたり、毎朝鏡に映る自分を見て溜め息をついてしまったり、子供の時も辛いが、この辛さは大人になったとしても簡単には折り…

Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女

以前、イランの映画監督モハマド・ラスロフを紹介した時(記事はこちらから)、題名にも付けたのだが"国とは船だ、沈み行く船だ"というように船は荒廃する国のメタファーとして映画によく表れるという話をした。だが"Jazireh Ahani"も「海にかかる霧」にも出て…