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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

私たちは私たちのために立ち上がる「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への戦い」

止まれ、危ない、撃たれるぞ!……ダメだ、もう死んでる……響き渡る銃声、倒れた者の姿……僕はさっき死体を運んだんだ……もう血だまりを歩くのにも慣れた……そっちへ行くな!……革命に尽くしたい、これはウクライナの革命なんだ……2014年2月20日、マイダン革命の始まりから92日目、映画はその1日に広がる衝撃的な光景から幕を開ける。

「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への戦い」は2013年11月21日、ウクライナキエフの英雄広場(マイダン)での抗議活動に端を発したマイダン革命の行く末を描き出すドキュメンタリー映画だ。ニュースや文字情報ではその一端しか垣間見ることの出来なかった革命の壮絶な風景がここには広がっている。

きっかけはFacebookに載せられた1つの呼び掛けだ、マイダンに集まり、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領に対し皆で抗議の声を上げよう!と。ヤヌコーヴィチ政権は西側諸国との協力を国民に約束していながら、裏ではロシアとの関係を強めていき、11月21日にはとうとうEUとの協定締結準備を停止すると決定したのだ。その夜、停止の撤回を求める人々がマイダンへと集結、反対運動を行った。その姿はSNSにアップされ、即座に学生を中心とした組織が形成、広場に集まる人々は加速度的に増えていき、停止後初めての週末には数万人規模にまで参加者の数は膨れ上がる。

そんな状況に早くもウクライナの警察ベルクトが動き出す。学生たちが主導の平和的デモに対し、興奮した群衆がこちらに敵意を向けてきたという理由で、容赦ない暴力を加えてくる。一度倒れた者に対し、数人のベルクトが寄ってたかり棍棒を執拗に叩き込む姿、逃げ惑う群衆、顔から血を流し国への失望を語る人々、様々なフッテージが結い合わされて浮かび上がるのは胸が詰まるほどの凄惨な状況だ。

だが暴力によってでは人々の意志を挫くことは出来ない、マイダンに集まる人々の数はむしろ増えていく。そうして自由と尊厳を求め人々の団結が強くなっていく。そこには翻訳家、歌手、聖職者、会社員、退役軍人、12歳の少年、更にはキエフから遠く離れた地に住む人々もマイダンに集まってくる。デモの参加者は語る、ベビーカーを押す人にお年寄りに松葉杖をついた人も参加していました、私たちは変化を起こせる、そう確信したんです。

それでも人々の団結が強まると共に、警察の弾圧も激しさを増していく。1月17日、ヤヌコーヴィチ政権はデモ規制法案を制定、バイクのヘルメット着用禁止、インターネットのアクセス制限などでデモ隊の排除へと本格的に乗り出し、彼らは越えてはならない一線すら越えようとする。

警察が雇ったのはティテュシュキーと呼ばれる集団、刑務所上がりで金のためなら殺しも厭わない犯罪者たちだ。彼らの暴力に加え、ベルクトはゴム弾の中に故意に実弾を込め、躊躇なく人々に撃ち込んでいく。そして余りにも呆気なく、命は失われる。死は人々を悲しみと怒りの渦に巻き込み、平和的であった筈の反対運動は、互いの命を削りあう暴力革命へと発展していく。カメラには、いとも容易く射殺される人々、血まみれになり担架で運ばれる者たち、轟炎をあげて燃え盛る建物の姿が映し出されていく。暴力が暴力を呼ぶ連鎖の光景は観る者を無力感に苛むかもしれない、だがここには監督の思いが深く刻まれている。あの時、未来のために立ち上がった者たちがいる、より良き明日のために立ち上がった者たちがいる、それをあなたに忘れないでいて欲しいと。

私は私のために立つ、私たちは私たちのために立ち上がる。「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い」は、そんな1人1人の意志が強大な権力に立ち向かう様を力強く、本当に力強く描き出す。この作品こそ、日本で今見られるべきドキュメンタリーだ[A]

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