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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Jean-Marc Lacaze&“Malavoune tango”/マヨット島、野良犬たちが森を行く

さて、マヨット島である。ここはフランスの海外県の1つであり、コモロ諸島を構成する島の1つでもあったりする。だが他の島々がコモロ連合としてフランスからの独立を選んだ一方で、マヨット島はフランスに残留して今に至るという経緯がある。そんな狭間の存在であるマヨット島にもやはり独自の文化が広がっているわけだが、今回紹介するのはそんなマヨット島の現在を見据えたドキュメンタリー作品、Jean-Marc Lacaze監督作“Malavoune tango”である。

今作の主人公はシェフ、フラムジー、モペという青年たちだ。彼らは森の中で暮らす謂わばホームレスのような存在であり、手なづけた野良犬たちとともにどこにも定住しない暮らしをしている。常に仲間と戯れながら森を彷徨い、食べ物は畑からバナナといった作物を盗んで調達する。彼らにとっての風呂場は川であり、そして寝室は空の下である。彼らの日常は過酷であると同時に、どこまでも自由なものでもある。

そしてそんな彼らはマヨット島における狭間の存在でもある。彼らの生き方はこの島で多数派であるイスラーム社会や文化にはそぐわない不浄なものとして扱われるゆえ、共同体には属すことができずに逸れものとして生活せざるを得ない。

監督自身が手掛ける撮影は常に手振れを伴ったリアリズム指向であり、鬱蒼たる森に広がる陰鬱な空気感や、それを物ともせぬ青年たちの快活な自由さをスクリーンへ鮮やかに焼きつけている。この一方でカメラは光と影が、大自然や青年たちの横顔に詩情を浮かびあがらせる様をも見逃さない。Emma Augierによる編集も相まって、今作においてはリアリズムと詩情が対立することなく有機的に溶けあっているのだ。

中でも印象的なのは青年たちと犬との交流だ。手なづけた野良犬たちは鎖もなしに青年たちの周りをうろちょろし続けており、彼らを群れの一部として認識しているかのようだ。青年たちもまた犬たちをチームの一員として認めており、ほとんどの場所で一緒にいるのだ。このチームは狩りを行うこともあれば、闘犬に参加し他の犬と戦わせる娯楽を提供することで生計を立ててもいる。だが戦うのは犬ばかりでない。夜には青年たちも拳闘に参加し、対戦相手と素手で壮絶な殴りあいを繰り広げる。

その様を見るならば、彼らの関係性には序列というものが存在していないように思える。ともに生き、ともに生活し、ともに戦う。彼らは何よりも戦友なのである。そしてここには人間と動物、ヒトと犬といった区別もまた存在しない。野生が剥き出しになった大自然において、彼らは種族を越えて1つとなり生を紡いでいる。そして“Malavoune tango”という作品には、傍観者の立場からは壮絶に見えながらも、しかし当事者にとってはこの生が日常と化しているという、今正にマヨット島に広がっているのだろう風景が焼きついているのだ。今作が他にない凄みを持つのはそれゆえだろう。