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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ

いわゆるカミング・オブ・エイジ映画の中でも、思春期の少女を主人公にした作品で今年最も話題になった作品は"The Diary of A Teenage Girl"だろう。高校生で現役の漫画家でもある少女が母親の恋人とセックスしてしまったことから起こる青春のアレコレを描き出した作品で、これが初長編である監督のMarielle Hellerはもちろん、主演のBel Powleyが2015年ブレイクスルー俳優の筆頭候補として評判になるなどかなり話題で、話題になってるからiTunesでなかなか配信されないんだよこれが、早く観たいのにさ!ということで今回は"The Diary of A Teenage Girl"が待ちきれないそんな私を神が憐れんでくれたのか、偶然にも出会ってしまったドイツ産クソったれカミング・オブ・エイジ映画"Die Unerzogenen"とその監督Pia Maraisについて紹介していこう。

Pia Maraisは1971年にヨハネスブルクに生まれた。スウェーデン人と南アフリカ人の両親を持ち、2人の母国に加えスペインで子供時代を過ごしていた。ロンドンやアムステルダム美術大学では彫刻と写真について学んでいたが、ドイツに移住後、デュッセルドルフ芸術アカデミーやドイツ映画テレビアカデミーベルリン(dffb)で映画を学ぶこととなる。

1996年の短編"Loop"で映画監督としてデビュー、"Deranged"(1998)、"Tricky People"(1999)、"17"(2003)などを手掛けた。その間にも助監督やキャスティング・ディレクタースクリプト・スーパーバイザーなどとしても映画界で活躍し、2007年に念願の初長編"Die Unerzogenen"を監督する。

主人公は14歳の少女スティーヴィー(Ceci Schmitz-Chuh)、いつもベロベロのタンクトップを着ているクソみたいな母リリー(Pascale Schiller)とセルジュ・ゲンズブール似のクソみたいな父アクセル(愛より強くビロル・ユーネル)、そんなヒッピーかぶれのクソ家族に囲まれて彼女は全体的にクソみたいな人生を送っていた。ある日ヤクの密売人でもあるアクセルがヘマをやらかして、ドイツのクソ田舎に引っ越さなくてはいけなくなってしまう。クソ汚くてクソ散らかってる家には親戚のクソ野郎イングマール(Georg Friedrich)とかもいて、クソ家族はクソ芝生にクソファーを並べて、クソ網にクソ肉を置いてクソバーベキューを楽しむ。スティーヴィーは渋い顔を浮かべ、こんなクソから早く出ていきたいと思うが、そう簡単には抜け出せないから人生って奴はクソみたいなのだ……

そんなスティーヴィーには趣味と言える物が1つだけある。養育権について語る弁護士のハゲにブチ切れるクソ父を尻目に、彼女はフラっと町をうろつく。そして良い感じにブルジョアな邸宅を見つけるとそこに忍び込み、何をするかと思えば棚に飾ってある幸せそうな家族写真だけを盗んでそそくさと立ち去る。家に帰ると彼女は自分たちが写っている写真から顔だけ切り取って、盗んだ家族写真にペタペタ張っていくのだ。出来上がるのは、高そうなテニスウェアを着て笑顔を向ける写真、親戚が皆集まって開かれたパーティーの写真、そんな彼女が欲しい幸せがたくさん詰まった、だけど顔面だけが惨めに肥大している家族写真の数々だ。

彼女にとって、このクソみたいな状況に何とか適応しようとするための手段がウソだ。彼女はクソ田舎のクソティーンエイジャーたちに写真を見せながら、自分の父親はどこぞの国の大使でとても偉いんだとクソみたいなウソをつく、明らかにバレバレなウソ。別に信じてもらいたいって訳じゃなく、そうしないと自分のプライドがズタズタになるから。そして薄笑いと共に受け入れられたスティーヴィーは、マリファナを吸いながら男2人と女1人がヤってるクソみたいな3Pポルノを観て、日々を無意味に浪費していく。

"Die Unerzogenen"で描かれるスティーヴィーのどん詰まり青春期は、何かもう嫌になるほどクソみたいだ。撮影監督Diego Martinez Vignattiによるドキュメンタリー的でかつ粒子の荒い画面には気が滅入るほどに忌まわしいリアリティが焼きついているし、そのクセ彼が世界に取り込む太陽の光はひどく美しいのだからスティーヴィーたちの荒みっぷりが際立ってどうしようもない。

だがこの作品には灰色カミング・オブ・エイジもの――例えば以前紹介したマヤ・ミロシュ「思春期」のような――としては異質な空気感を持っている。この不思議に弛緩した空気の源はドイツの実験音楽バンドアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのメンバーでもあるヨッヘン・アルベイトによる音楽だ。劇中では誰も彼もがマリファナをスパスパ吸うのだが、多分彼らはその時こんな音を耳にしているのではないかと思う音をArbeitは奏でていく。腑抜けたパーカッション、気だるげなギターの音色、これらの響きがどん詰まりとどん詰まりを緩やかに繋げ、映画は妙な可笑しみを宿す。クソ親戚たちやクソ母リリーがほぼ全裸で湖から現れる下りなんかは、カメラの変な距離感も相まってかなりシュールだ。

そうして物語は綴られていくのだが、スティーヴィーの顔面はどんどん渋さを増す。ソバカスだらけの頬にクソ社会への嫌悪感に細まる瞳、彼女を演じるCeci Sehmitz-Chahの面構えは思春期を迎えた子供たちが抱える、キッチンシンクに溜まったネトつきのような不満を体現している。周りの状況がクソもクソなのに加え、自分の中の不安定さとも折り合いつけなきゃいけない、そんなスティーヴィーを監督は寄り添う/寄り添わないのその間から眼差しを向ける。そうだよね、世界はクソだよね、クソクソ……って共感は向けながら、彼女がクソの中で足掻く姿を冷静に見つめ続けるのだ。"Die Unerzogenen"マリファナの白煙みたいに緩やかな見た目に反して、このクソ社会で思春期を生きるのはクソ辛いって容赦なくクソ投げつけてくる物語なのだ。

"Die Unerzogenen"ロッテルダム国際映画祭でプレミア上映、最高賞のタイガーアワードを獲得する。その後カルロヴィ・ヴァリ、フィンランドエスポー、テッサロニキ、香港などで上映され、ダーバン国際映画祭やドイツ映画批評家組合賞では新人監督賞を受賞するなど世界的に評価される。

長編2作目はジャンヌ・バリバール主演の"Im Alter Von Ellen"だ、主人公は中年に差し掛かり結婚を控えていたキャビン・アテンダントのエレン、しかしある日恋人であるフロリアンの驚きの秘密を知ってしまう、何と彼にはもう1人の恋人がいて彼女とも結婚しようとしていたのだ。ショックから仕事中にパニック障害に襲われたりと踏んだり蹴ったりな彼女はアニマル・ライツ団体と出会い、愛とは何かを探り始める……今作はブエノスアイレス国際インディー映画祭で主演女優賞を獲得するなど話題になった。

そして最新作は2013年の"Layla Fourie"、この作品は監督の母国である南アフリカで撮影された作品で、ヨハネスブルクに生きるシングルマザーが陰謀に巻き込まれていく姿を描いたポリティカル・スリラーだそう、ドイツ1の神経質イケメンなアウグスト・ディールも出演。ベルリン国際映画祭コンペティション部門で上映、特別賞を獲得した。ということで南アフリカ期待の新星Marais監督の今後に期待。

私の好きな監督・俳優シリーズ
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その2 アンドレア・シュタカ&“Das Fräulein”/ユーゴスラビアの血と共に生きる
その3 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その4 ロニ・エルカベッツ&"Gett, le procès de Viviane Amsalem"/イスラエルで結婚するとは、離婚するとは
その5 Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?
その6 Lisa Langseth & "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級
その7 キャサリン・ウォーターストン&「援助交際ハイスクール」「トランス・ワールド」/「インヒアレント・ヴァイス」まで、長かった……
その8 Anne Zohra Berracherd & "Zwei Mütter"/同性カップルが子供を作るということ
その9 Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは“やる気ゼロ”
その10 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その11 リンゼイ・バージ&"The Midnight Swim"/湖を行く石膏の鮫
その12 モハマド・ラスロフ&"Jazireh Ahani"/国とは船だ、沈み行く船だ
その13 ヴェロニカ・フランツ&"Ich Ser Ich Ser"/オーストリアの新たなる戦慄
その14 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その15 クリス・スワンバーグ&"Unexpected"/そして2人は母になる
その16 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その17 Marco Martins& "Alice"/彼女に取り残された世界で
その18 Ramon Zürcher&"Das merkwürdige Kätzchen"/映画の未来は奇妙な子猫と共に
その19 Noah Buchel&”Glass Chin”/米インディー界、孤高の禅僧
その20 ナナ・エクチミシヴィリ&「花咲くころ」/ジョージア、友情を引き裂くもの
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その22 David Wnendt&"Feuchtgebiete"/アナルの痛みは青春の痛み
その23 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
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その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
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その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
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その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父