鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

João Nicolau&"John From"/リスボン、気だるさが夏に魔法をかけていく

夏休みと言えば海やプールで泳ぎ、誰かと花火を見たり、クーラーのかかった家でアイス食べながらゴロゴロしたり、とにもかくにも自分のやりたいことが何でも出来る長い長い休みだ。だが夏休みに突入した後、実際やれることもやりたいことはそう多くないことにも気づいたりする。親は仕事だし、遠くに行く予定もないし、友達と遊ぶのもいつか飽きが来るし、そんな状況に陥るとむしろ夏休みが鬱陶しく感じ始める。それでも長いから終らない、全然終らない、夏休みはいつまでも続く……今回はそんな鬱屈を映画に焼きつけた一作"John From"と、群雄割拠のポルトガル映画界から現れた新星João Nicolauについて紹介していこう。

João Nicolauは1975年リスボンに生まれた。リスボン大学では人類学を専攻していた。まず編集技師として映画界に足を踏み入れ"Vai〜E〜Vem"(2002)やドキュメンタリー"Outras Frases"(2005)などを担当し、作品の中には何度かブログで話題に出しているAlessandro Comodin"L'estate di Giacomo"に現代ポルトガル映画界の俊英ミゲル・ゴメスの短編「贖罪」(2013)などがある(そして自身の監督作は彼の製作会社O Som e a Fúriaがほぼ全て手掛けている)。更に編集者としてジョアン・セザール・モンテイロについての本を編纂したり、ミュージシャンとしても活躍するなど多岐に渡って活動している。

Nicolauの監督作を見ていこう。まず初めての作品は1999年の短編ドキュメンタリー"Calado Não Dá"だ。今作はカーボベルデ共和国の離島に住む、民族楽器であるCimboaの最後の奏者を追ったドキュメンタリーだ。2006年の"Rapace"は大学院を卒業したばかりである青年の憂鬱でシュールな日常を描いた短編、2009年の"Canção de amor e saúde"は鍵屋の孤独な一人息子と芸術を学ぶ大学生の恋模様を描いた作品で、両作ともカンヌ国際映画祭監督週間で上映されるなど話題となる。

2010年には初の長編作品"A Espada e a Rosa"を監督、全てに別れを告げ大型船に乗り込んだ青年の奇妙な旅路を描き出した作品でヴェネチア国際映画祭でプレミア上映後、サンパウロブエノスアイレス、釜山など世界各地で。2012年にはハンターと王女の出会いを奇妙な形で綴る一作"O Dom das Lagrimas"を、2013年には10歳の少年が空想上の生物であるハギスを探しに奔走する冒険譚"Gambozinos"を監督した後、2015年には第2長編である"John From"を完成させる。

リタ(Julia Palha)は夏休みの真っ最中だったが、特に何かイベントがある訳でもなく、特にどこか行きたい訳でもなく、無意味にダラッと過ごす日々を送っている。そんな中でも何となく友達が開いたパーティに行ってみたり、公民館に行って徒然なるままにピアノでも弾いてみるのだが、退屈が晴れる訳でもない。彼女はずっと、ずーっとブスーッと、ブスーッとした表情を浮かべて、何か起きないかなーって思い続けている。

いつまでも終らない気だるげな夏休み、"John From"には幼い頃に抱いていたあの感覚が濃厚に反映されている。ソファーに寝転がりテレビを観るけど退屈、だから取り敢えず外に出て辺りをフラついてみるけど何もなくてやっぱ退屈、iPodで何か音楽を聴こうとはするけどこれを聴く気分じゃないしそれも何か違う、そうするうち夕飯が出来たので食べて、部屋でネットやってから寝て、また起きたは良いけど、やることは昨日と変わらない。どうにもし難いダルさ、でも心地よいことは心地よい、うーん、でもさぁ……と、この曖昧な日々が撮影監督rio Castanheiraの太陽の光を多分に含んだ映像(最初はてっきりフィルム撮影と思ったが、デジタルらしい)に浮かび上がっていく。

だがリタにとって退屈な日々のスパイスとなる存在が親友サラ(Clara Riedenstein)だ。思ったことを内に秘めてしまうタイプのリタとは逆にサラは活動的で気分屋な性格だ。それでもウマが合うらしく、家を抜け出しては夜のリスボンを歩き回ったり、かと思うと相手の気に喰わずに喧嘩を繰り広げては翌日には仲直り。部屋に籠って"昨日、ネットでナマケモノの動画観てたんだけどめちゃ興奮した、だってアイツら超遅いんだよ……"というサラの言葉にリタが笑ったりする。2人の関係性にはジャック・リヴェット諸作やヴェラ・ヒティロヴァ「ひなぎくのような作品が好きな人間(つまり私)の心をブチ抜くような煌めきに満ちている。彼女たちにしか分からない鬱屈や不満を抱えながら、それでも自由に世界を駆け回る姿は観ているこっちの心も躍る。

そんなリタ、最近恋人を差し置いて片想い中の相手がいる。彼こそ40代の中年男フェリペ(Filipe Vargas)、リタが住むマンションに引っ越してきたばかりのシングルファーザーで、カメラマンとしても活動しているらしい。ベランダから彼がいる下の階を眺めたり、スーパーマーケットで偶然出会った時には動揺しまくり店内を駆け回る始末。ある日リタはフェリペの写真が飾られている展示会に行ってみるのだが、そこに撮されたメラネシアの文化に衝撃を受け、頭の中からそれが離れなくなってしまう。

前半はリタの抱く退屈さをそのまま反映している故に、展開は遅々として映画そのものが退屈という概念と重なりあう代物になっているのだが、だんだんとリタの夏に魔法がかけられていく。親やサラが心配するほどメラネシア大好き人間と化していくリタだったが、とうとう全身に絵具を塗ったくりパプアニューギニアの部族に変身を遂げたりする彼女の周りで少し不思議な出来事ばかりが起きる。独りでに窓が開いたり、手紙がヒュルヒュルと宙を舞いながら彼女の前に現れたり。でもそのおかげで憧れのフェリペと近づいていっている気が……する、だからもっと近づきたい!

監督が"John From"についてこんな言葉を残している。"少女の心ほど荒れ狂うものはないでしょう、それ以外の何かがあるとしても思いつきません。お固くもおふざけ混じりに、今作は若い情熱の論理と変貌を探っていきます。そしてある特定のコードを尊重し観察していきながらも、十代の少女と年上の男の間にある愛は精神疾患であるとか社会的な病の発露であるとか、そういうアプローチを慎重に避けていこうともしています。主人公がただひたすら絶え間ない変貌を遂げるように、映画というものも観客を情熱的な関係性の最も誠実な側面へと近づけてくれるのです、つまり美それ自体へと"

彼女の心が移り変わるごとに、世界もまた変容していく。この精神と世界の連動は日本でもブームになったいわゆる"セカイ系"の作品群と共鳴するようだが、国が違えば手捌きも全く違う。いつしかリスボンの街並みは綿飴のような煙に巻かれて、幻惑的な雰囲気を纏い始める。私が見る現実からリタの世界は逸脱していき、その風景は現実とは何だか微妙に異なる風景へと変わっていく。そこにはどこか楽観的な空気すら漂うのだが、今作は更に1歩踏み込んでゆき、少女の恋心とメラネシア文化が融合したカオスによって、世界のあり方そのものが徐々にだが根本から変わっていく風景が焼きついているのだ。そして価値観も文化も何もかもが変貌を遂げていく、薄ら寒さを感じるほどに。

"John From"は1人の少女が世界を作り変えてしまう姿を描き出した現代の奇妙な神話だ。だがそれでも何だかんだ良い感じなんだし、こういうのもありなんじゃな〜い???と、観客へその世界を豪快に放り投げてみせる監督の大胆さが、今作に無二の魅力を宿しているのだ。

参考文献
http://osomeafuria.com/(製作会社公式サイト)

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