鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アルベルト・セラ&"La Mort de Louis XIV"/死は惨めなり、死は不条理なり

ルイ14世ブルボン朝第3代のフランス王国国王であり別名"太陽王"。当時ヨーロッパ随一の国力を誇っていたフランスを指揮し、侵略戦争によって領土を広げ更に国力を増強、豪奢の限りを尽した末にあのベルサイユ宮殿を作り、フランス絶対王政の全盛期を謳歌していた。だがその国力拡大路線が祟ってかフランスは衰退を遂げ世紀末にはフランス革命が起こる訳だがそれは別のお話。そんなルイ14世の伝記映画が作られるのだからどんな絢爛たる映画になるかと思うだろうが、この映画の監督があのカタルーニャの異才アルベルト・セラなのだがら、一筋縄で行く筈もない。

時は1715年8月、ルイ14世(「豚小屋」ジャン=ピエール・レオー)は弱りきった体をベッドに横たえ最期の時を迎えようとしていた。既に全身は思うように動かせず、何をするにも従者を頼らなければままならない。いっそ死神がこの命を刈り取ってくれればと彼は思うものの、地獄の苦しみを味わう姿を見て楽しんでいるのか、一向に命が尽きることはない。そして毎晩毎晩、ルイ14世は渇きの中で叫び続ける、水を、水をくれ、水を……

以前のアルベルト・セラ作品から一貫している、流れる時間をそのまま映像として焼きつけるようなスタンスは今作"La Mort de Louis XIV"にもやはり受け継がれている。天然痘によって歩くことすらままならなったルイ14世の足に従者たちが薬を塗り込んでいく、青白く痩せさらばえた足に塗り薬深く浸透していくように従者の手がゆっくりと皮膚を這いずっていく姿、そして役人が橋の補強工事のための資金提供をルイ14世の頼みにくる光景、役人を尻目に思考能力すら衰えているのかルイ14世が呆けた顔で虚空を眺め続ける光景、そういった物を延々と撮し続ける様は観客を拷問にかけるかのようだ。

だが死の匂いを覆い隠すが如くに、ルイ14世の周囲には豪奢な装飾が溢れ返っている。彼が横たわるのは高貴な赤に染め上げられたベッド、そこには目も眩まんばかりに輝く黄金の天蓋が付いている。部屋には直下たつ燭台やきらびやかな宝石なぢ荘厳たる調度品の数々が飾られており、壁には若きルイ14世が威風堂々たる立ち姿を見せる肖像画が掛けられている。それらは何よりも饒舌に太陽王の栄光を語りながらも、死はむしろその絢爛たる輝きを内部に取り込むことで全てを凌駕する虚無感を私たちに見せつける。

そんなルイ14世の元には多くの貴族たちが見舞いに現れる。彼らは優雅な衣装を身に纏い、王の苦痛に憐閔の念を抱く素振りを見せるのだが、セラは彼らの中に不気味な存在を見出だしていく。ある時ベッドの周りに集まる来賓客たちが見るのはルイ14世の食事風景だ。もはや満足に咀嚼すら出来ない状態のルイ14世だが、彼は従者に差し出された卵のデザートを食べようとスプーンを持つ。来賓客はその姿を固唾を飲みながら見守り、スプーンが菓子を掬い、口許に運ばれ、そして口の中に入る瞬間、アッと歓声を漏らす。そして何とか王が飲み下した後には拍手まで行うのだ。更に彼がビスケットを所望した時、貴族たちはザワつき、1枚を食べきったその姿を見ながら感動にうち震え、拍手と共に“ブラボー!”という叫びを上げるのだ。

ここにおいて豪華絢爛たる寝室は贅を尽くした見世物小屋であり、貴族たちにとってルイ14世の死とは今世紀最高の見世物なのだ。この時代庶民にとって罪人の公開処刑は何にも勝る娯楽であったと伝えられているが、つまりは貴族にとってのそれこそが王やそれに準ずる者たちの死であった訳だ。苦痛なまでに延々と王の苦しみを描き続けてきた本作は、その死すら娯楽として搾取されていく構図までも延々と見せることになる。そして同時に映画というメディアはその死を擬似的に再現することによって、庶民と貴族の別なしに、時と場所すら選ばずこの娯楽を楽しむことを可能にしたという悪趣味な真実を私たちに叩きつけてくる。

ところで"La Mort de Louis XIV"(フランス語で“ルイ14世の死”)という題名からは、2006年製作の“ルーマニアの新たなる波”の幕開けとなった作品「ラザレスク氏の死」を思い出させる。実際題名以外にも、老いと苦しみの極致にある男が死に至るまでを嫌がらせのように描き出す内容である点でも2つは似かよっている。だが後者がルーマニアの医療システムや官僚主義を皮肉る社会批判的な要素を内包しているのに対し、こちらは徹底して死についてのみを描き出す。ルイ14世は実在の人物であり、装飾や美術の歴史考証も、例えその時代を良く知らぬ者でさえリアルと信じさせるに足る圧倒的な際密ぶりだが、伝記映画的な側面はほぼ排されている。セラが描くのは死のみだ、死の惨め、死の不条理、死が娯楽として消費される光景の醜悪さ、全ては死の背景に徹することで、吐き気を催すほどに純粋なる死が今作には宿っている。

だが観客がそれを悟った所で、この死の物語は終わらない。約2時間のランタイムを費やし、ある意味では律儀な形でルイ14世が死に至るまでを描く。遂には食事が出来なくなり、声すら出せなくなり、痛みに叫ぶことも体を痙攣させることも不可能になり、延命のために薬漬けにされ、身体を切断され、極限まで延命され続けた末に惨めな死を迎える。しかし彼の死でさえも死の物語は終わらせることは出来ない、死は終わらない、死の後ですら終わることはない……


ジャン=ピエール・レオはバリバリ生きてるでーーーーーーーーーーーー!!!!

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