鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!

タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
タイ・ウェストの経歴および彼の長編作品についてはこの記事参照。

1978年、南米の北東部に位置するガイアナ共和国、この地に根を張ったカルト教団人民寺院のメンバー約900人が教祖のジム・ジョーンズと共に服毒自殺を遂げるという凄まじい事件が起きた。この事件はアメリカ現代史に、そしてある種の文化的コンテクストとしてアメリカ人の心にも深く刻まれることとなる。当然様々な映画のモチーフともなり、有名どころだと事件を再現したZ級クソッタレ映画ガイアナ人民寺院の悲劇」などがある(クソ映画が好きな人は観よう)そしてあれから25年もの歳月の後、米ホラー映画界の鬼才であるタイ・ウェストがこの事件を映画化することとなる。そんな作品こそが彼の第6長編サクラメント 死の楽園」だ。

VICE誌に所属する記者であるサム(「地球最後の男たち」A.J. ボーウェン)は写真家のパトリック(「V/H/Sシンドローム」ケンタッカー・オードリー)からとある相談を受ける。彼にはキャロライン(「リベンジ・フォー・ジョリー」エイミー・サイメッツ)という妹がいるのだが、麻薬中毒である彼女は奇妙な新興宗教に入信し、外界から隔絶された共同体の中で生活しているというのだ。その宗教がいかなる物かを探るため、サムたちはカメラマンのジェイク(「ハッピー・クリスマス」ジョー・スワンバー)を連れだって、共同体のある某国へと潜入、しかし彼らの予想に反しそこに広がるのは驚くべき<楽園>だった。

ウェストはそのフィルモグラフィにおいて過去の古きよきホラー映画を指向する作品が多いが、時折それを逸脱した作品を制作する。例えば第2長編の“Trigger Man”は森へ狩りにやってきた男たちが直面する恐怖を「ブレアウィッチ・プロジェクト」に代表される、手持ちカメラ中心のドキュメンタリー的な筆致で描き出す一作だったが、VICEという実在するメディアによって製作されたモキュメンタリーという体裁の今作はその発展系と言えるだろう。森の中に作られた共同体には立派な小屋や畑などが遍在し、人々が身を寄せあいながら暮らしている。サムは彼らにインタビューを敢行するのだが、彼らはここがいかに平和で安全な場所かを説き、キャロラインもまた共同体の素晴らしさを滔々と語っていく。

だが皆の言葉の中に不気味に浮かび上がるのが<お父さま>(ジーン・ジョーンズ)の存在だ。夜、集会が行われるという場所に赴き、サムたちは<お父さま>に対してもインタビューを行う。常にサングラスをかけ表情は伺い知れないが、肥え太った老人という平凡な風体からは一種異様なオーラが漂う。彼はインタビューの中でマルコムXなどの先人になぞらえて自分を救世主と言って憚らない。外界には暴力や貧困、悪しき帝国主義が蔓延っており、それから逃れる手立てこそがこの共同体であるのだと宣言する。人々はそれを拍手喝采で迎えるのだ。そうしてゆっくりと不穏な何かが首をもたげる中で、その空気を嗅ぎ取ったサムたちの前に現れるのがサヴァンナという少女だ。彼女はサムにメモを渡すと何処かへと消えてしまうが、そのメモには“私たちを助けて”とそんなメッセージが記されていた。

さてここで書くべきなのは、上のあらすじに記した俳優の名前で、このブログの読者なら一発で分かるだろうが、今作がマンブルコア/ゴア一派のリユニオン映画でもあるという側面だ。2011年にはマンブルコア派の余りにも早すぎる同窓会映画「サプライズ」が製作されているが、2年後に製作された本作はその早すぎる第2回、もっと正確に言えば今度は同窓会ではなく遠足会である。私としてはマンブルコア一派の心の声をこんな風に想像したくなる。

”自分たち映画作りすぎじゃない? たまにはバカンスとか行こうよ”
”良いね! 自然の中でゆっくりしたいよ”
”いやでも、そこで撮影とか出来たら、映画製作にバカンスにと一石二鳥じゃないかな”
”それは言えてる、テーマは……ガイアナ人民寺院集団自殺はどう?”
“それって超Cool!”……みたいな感じで。

ではどれほど今作がどれほどマンブルコアでズブズブか、出演俳優陣を見ながら確認していこう。まずサム役のA.J.ボーウェン、彼はウェストの過去作“The House of the Devil”に出演しているマンブルゴア派の重要人物で、詳細はそのレビュー記事を参考にして欲しいが、件の「サプライズ」にも重要な役回りで出演している。更にジェイク役のジョー・スワンバーはまあ正直説明不要だろう、彼について知りたいならこの記事から作品を手繰っていって欲しい。そして彼も「サプライズ」に出演しており、今回なんか妻のクリス・スワンバーや息子のジュードも連れだって遠足を存分に満喫している。ていうか常時頭に着けてる鉢巻きみたいな奴ダサすぎる。

更に重要なのは今から紹介するこの3人だ。まずは住民の1人として登場するオーストラリア人女性役はケイト・リン・シャイル(この記事を読もうその1)、アレックス・ロス・ペリーの初長編“Impolex”(この記事を読もうその2)で鮮烈なデビューを飾ったシャイルはスワンバーグ監督作“Silver Bullets”からマンブルコア・コネクションに参加、この一派の中で八面六臂の活躍をしているが、今回は脇役としてしれっと遠足に参加している。そしてキャロライン役のエイミー・サイメッツ(この記事を読もうその3)、彼女もマンブルコアの超重要人物であり、スワンバーグの“Alexander the Last”(この記事を読もうその4)から頭角を表し始めた俳優だが、今作では薬物中毒という弱味を衝かれ完全に洗脳された女性役を熱演、そして熱演の果てにスゴいことになる。ちなみに上述の2人も「サプライズ」に出演、両者ともブチ死にます。

そしてもう1人の重要人物がパトリック役のケンタッカー・オードリー(この紹介記事を読もうその5)だ。彼は長編“Team Picture”で不気味なデビューを飾ったマンブルコアの異端児だが、スワンバーグが2012年に監督した中編“Marriage Material”では恋人であるキャロライン・ホワイトと共に主演を果たし(この記事を読もうその6)、かと思うと“インディー映画が作られ過ぎて、本当に観られるべき映画が観客に届かない事態に陥っている。だから才能のない作家は映画作りを止めろ、まずは俺が止める!”と映画監督を引退し、俳優に専念するようになった変人でもある(ちなみに彼だけは「サプライズ」に出演していない)でこの3人、実は今作完成の1年前、サイメッツが監督でシャイル&オードリーはダブル主演という形で長編映画“Sun Don't Shine”を共同で作っている。つまり今作は“Sun Don't Shine”組のリユニオン映画でもあるのだが、この作品では3者3様にとんでもない事態に陥るので注目だ。

まあ、このように今作は「サプライズ」レベルまでは行かずとも、ズブズブもズブズブなマンブルコア大遠足会映画なのだが、ウェストはその大遠足会を凄まじい惨劇の舞台にしてしまう。外部の存在によって化けの皮は剥がれ去った後、この共同体は正にガイアナ人民寺院が辿った通りの道を辿っていく。帝国主義によって潰されるぐらいなら私たち自身の手で天国へと旅立とうという<お父さま>の号令で、人々は次々と毒を飲んでいく。逃げようとする者たちはその場で射殺され、毒を飲んだ者は泡を吹きながら肉塊へと化していく。ウェストはその光景を私たちに目撃させていく。毒を注射され、命乞いをし、その甲斐もなく痙攣に襲われた末、成す術もなく死んでいく姿を延々と見せつけるのだ。

この爆発的な展開はウェスト作品において常套手段だが、息詰まるほどのリアルさで描かれる爆発は、暴力の発露がいかにおぞましい物かを伝える手段だ。それは他作品のように恐怖を怒濤のように押し流すようなことはない、観る者の心には吐き気ばかりが募っていく。そして人々の死は私たちの心に呪詛として刻まれる。お前らのせいだ、お前らのせいでこんな惨劇が起こってしまったのだ……

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か