鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

フランク・V・ロス&"Bloomin Mud Shuffle"/愛してるから、分かり合えない

フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって
フランク・V・ロス&"Present Company"/離れられないまま、傷つけあって
フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
フランク・V・ロス&"Tiger Tail in Blue"/幻のほどける時、やってくる愛は……
フランク・V・ロスの監督作はこちら参照。

テン年代も後半に差し掛かる頃、ずっと狭い世界に籠り続けているかと思われたマンブルコアの面々だが、彼らは続々とメジャー進出を果たすこととなる。それはこの界隈において異端児であったフランク・V・ロスも例外ではなかった。さて、長く続けてきたロス監督特集だが、現時点での最新作まで到達してしまった。名残惜しいが、今回は2015年に製作した彼の第7長編“Bloomin Mud Shuffle”について紹介していこう

30代も半ばを迎え、ペンキ屋勤めのロニー(「チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密」ジェームズ・ランソン)は自分の人生を振り返る起点に立っていた。きっかけはとなりのサインフェルドだ。長年の親友チャック(「ヘイル・シーザー!」アレックス・カルポスキー)と最終回迎えて何年も経つのにドラマのこと話題にする奴が多すぎると盛り上がっていた所、自分たちの高校卒業と最終回の時が同じなのに気づき検索してみると、あの時から16年もの月日が経っている事実にロニーは愕然してしまう。自分は何も変わってない、同じ友人とつるんで、家にペンキを塗る仕事を延々続け、夜は酔っ払って最悪な気分で目覚める、おいおいこんなじゃ駄目だろ……

この“Bloomin Mud Shuffle”においてロス監督が重視する要素は、やはり主人公であるロニーたちの些細な日常の数々だ。ロスはそこにこそ人生のちっぽけな真実を見つけ出そうとする。チャックや彼の恋人ジェニー(Rachel Spence)らと酒場で駄弁りに駄弁ったり、休みには家に籠ってゲームをしながら画面の向こうにいるプレイヤーに罵詈雑言を吐き散らかす。だが印象的なのは彼の酒癖のヤバさだ。しこたま泥酔した後、彼は道で騒ぎまくり交通妨害をかますなど洒落にならない感じだ。自身もそれを認識している訳で、この現状をどうにか変えようと彼は行動に移ることとなる。

その鍵こそが職場の同僚であるモニカ(アレックス・ラスムッセン)の存在だ。ロニーとモニカは既にセフレ的な関係にあって、最近彼女が遠距離恋愛中だった恋人と別れるなど進展の兆しが見えている。いい加減この段階から前に進みたい、そうすれば自分の人生は変わると信じるロニーはサプライズを用意したりと距離を詰めようとするのだが、そう上手くは行かない。モニカの考えは彼と真逆、つまり関係性を曖昧なままにしておきたいのだ。前のめりな自分をのらりくらりとかわしてくるモニカに、ロニーの不満は募るばかり。ロスは、日常の節々に浮かぶ彼らのスレ違いを丁寧に捉えていく。

2人のスタンスの違いは劇中頻繁に出てくる家族描写に最も顕著に現れる。ロニーは妹のジョッド(アメリカン・パイパイパイ!完結編 俺たちの同騒会」ナターシャ・リオン)や父親と会うとガンガン意見を言い合い、口論になることもしばしばだが割合腹を割って互いに突っ込んでいける。モニカの家には両親に祖父母に叔母たちにといつも人々が溢れ返っているカオスが広がりながら、弟のマイク以外とは何となく距離を取っているような感触がある。彼らに対する返事はボヤけていて、進んで話そうという気はなさそうだ。人々が行き交う真ん中でスマホを弄りながら、彼女は“いつもいつも同じ話してるよ”と独りごつ。

ロスはそんな背景の違いをも交えながら、2人の関係性が進んでいく姿をつぶさに観察していく。彼らは他愛ない冗談やどうってことないデートを重ねながら、だんだんと深く親密になっていく。だがそうなるにつれ、親密さに矛盾するような形で両者の齟齬が痛々しいほど露になっていく。セックスの後のちょっとした喧嘩は心に傷を刻み、それがふとした意地やイラつきによって膿んでいく。互いに好きなのは分かっているのに、決定的な所で理解しあうことの出来ないもどかしさは、いつしか何より大きな溝として彼らの前に現れることとなる。

テン年代に入った後、デュプラス兄弟を筆頭としてマンブルコアの中心メンバーが次々とメジャー進出を果たしていくが、ロスもまた今作でメジャーへと半歩足を踏み入れたと言ってもいいかもしれない。例えばキャスト陣に目を向けると「Go! Go! チアーズ」でもお馴染みのナターシャ・リオン「Girls」アレックス・カポースキーら有名俳優たちが出演するなど、以前はほぼ友人のみだった世界が外へ開けているのが明らかだからだ。だが彼の軸足はまだこちら側にある。“Hohokam”の主演俳優Alison LattaTiger Tail in Blue”Rachel Spenceが続投かつ、ジョン・スワンバーはもちろん彼の盟友ケント・オズボーン(詳しくはこの紹介記事を読んでね)らマンブルコアのメンバーが大挙して出演を果たしているからだ。モニカ役のアレクシス・ラスムッセンもこの流れで出演しただろう人物で、彼女はスワンバーグと共に“Proxy”aka「二つの真実、三つの嘘」に出演を果たすなどしている。

しかし何といっても映画の中心になるのがロニー役のジェームズ・ランソンである。「The Wireインサイド・マンなど数々のドラマ/映画に出演してきた彼だが、今は彼の黄金期が到来していると言っても過言ではない。トランスジェンダーの娼婦たちの姿をポップに描き出したショーン・ベイカー監督作「タンジェリン」ではランソン本人言う所の”ケツ穴クソ野郎”であるポン引き役を、マンブルゴアの一員としてお馴染みのタイ・ウェスト監督作「バレー・オブ・バイオレンス」では主人公にちょっかい出しまくる空前のヘタレチンピラ野郎を演じ、話題をかっさらってきた。そんな名脇役である彼が主演を果たした一作がこの“Bloomin Mud Shuffle”な訳だ。この映画でも彼はなかなかどうして大人になりきれないクズ野郎として魅力を放ち、その神経質な彫像的容貌から“怒れるエルフ”呼ばわりされるなどしている。更に次回作はあのアーロン・カッツの手掛けたL.Aノワール“Gemini”であり、期待が抑えられない訳である。

ロス監督の作品群を集中的に観てきたうえで思うのは、彼の作品には余白というべき代物が存在する。何処にでもいる普通の人々が過ごす日常の中には不可解な空白が存在し、観客の心は非日常的なその間隙に心を吸い込まれ、思索を促されることとなる。ロニーやモニカの人生もまたそうだ。ロスの手捌きは彼の何の変哲もない人生にすら深遠なる意味を宿していく。そして謎めいた余韻の中で、私たちの生きるこの人生までもが姿を変えていくのだ。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!
その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
その56 フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって
その57 フランク・V・ロス&"Present Company"/離れられないまま、傷つけあって
その58 フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
その59 フランク・V・ロス&"Tiger Tail in Blue"/幻のほどける時、やってくる愛は……