鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

リン・シェルトン&「ラブ・トライアングル」/三角関係、僕と君たち

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リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
リン・シェルトン&「不都合な自由」/20年の後の、再びの出会いは
リン・シェルトンの経歴および長編作についてはこちらの記事参照

さて“Humpday”の成功後、リン・シェルトン監督はマークらデュプラス兄弟との親交を更に深めていく。そんな時、“Humpday”とは逆に彼女は2人からある物語の構想について相談されることとなる。その時のことについて彼女はインタビューでこう答えている。“マークが私の元にやってきて、兄弟を亡くした男を描く映画についての構想が自分たちにはあるんだと言ってきました。ですが自分たち兄弟にとってはその構想が余りに近すぎて……という。それでも彼はアイデアを気に入っていたので、私に電話してきた訳です。私もプロットは良いと思いました(中略)それでマークと私はどう協力しあえるか探っていきました” *1そしてマークとシェルトンは共同2作目である“Your Sister’s Sister”aka「ラブ・トライアングル」を完成させる。

今作の主人公であるジャック(「彼女はパートタイム・トラベラー」マーク・デュプラス)は弟を亡くしたその日から、傷心の日々が続いていた。そんなある日、彼は親友のアイリス(「ウォリアークイーン」エミリー・ブラント)からある申し出を受ける。自身の家族が所有している孤島のコテージで一人になりゆっくり休養しないかとの申し出だ。ジャックはそれを受け入れ、その孤島へと赴くこととなる。

だがコテージには先客がいた。アイリスの姉であるハンナ(「エイリアン バスターズ」ローズマリー・デウィット)だ。最初は互いに不信感を抱きながらも、一緒に酒を飲み交わしながらハンナが同性の恋人と別れただとかそんなことを話すうちに意気投合、更にはその勢いで一夜を共にしてしまう。だが翌日、コテージへ何も知らないアイリスが訪問してきて……

「ラブ・トライアングル」はシェルトン作品の十八番である会話劇を洗練させることで生まれた作品と言っていいだろう。2人が酒を飲み交わす時の和気藹々たる雰囲気、姉妹の久し振りの再会ながらジャックたちが秘密を隠している故にどことなくぎこちなくなる雰囲気。監督は撮影監督のベンジャミン・カサルキーと共に、人と人との対話を丁寧に切り取っていき、その間に満ちる空気感をも繊細に捉えていくのだ。

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そして前作から更に洗練されたと言っていいだろう点は、映し出される登場人物の心の機微の精度だ。以前はもっと手振れ感が濃厚でありそれは登場人物と彼らを取り巻く空気感を荒くも生々しい手つきで掬い取ってきていたが、今回はカメラのクオリティが上がった故か、カサルキーは手振れを封印してドッシリとした面持ちで以て登場人物たちを見据えることとなる。クロースアップで表情を映す時に浮かぶジャックの笑みやハンナの当惑、アイリスの驚き、そしてそこに付随する目や口の動き、表情の移り変わり。そういった些細なものがよりハッキリと見えてくるのだ、そんな細部にこそ神は宿るのだとでも言う風に。

その中で薄皮が1枚ずつ剥がれていくように、登場人物たちの心が明らかになっていく。アイリスは実はジャックのことが好きなのだが関係性が余りにも近すぎて告白するにはもう遅いのではないか?と半ばあきらめ状態になっていたりする。そしてハンナは恋人との別れの後、ここから自分自身の人生を歩んでいきたいとそのために子供が欲しいと思っているのが明らかになっていく。

ここにおいて重要となる要素が、マンブルコア映画としてはやはりというべきか、セックスなのである。マンブルコア総括記事にも記したことだが、肉体性を重んじるマンブルコアにおいては肉体が最も密接に関わる日常の行為であるセックスは欠かせない要素だ。そしてそれが良い意味でも悪い意味でも関係性に激震を巻き起こす訳だが、今作はその正にお手本のような映画であり、冒頭におけるセックスが後の展開にひと悶着を生じさせるのだ。

シェルトン監督は俳優に対して常に全幅の信頼を置きながら映画を組み立てていくが、今作においてはより一層俳優たちの輝きが増していると言っていいだろう。アイリスを演じるエミリー・ブラントは快活な性格の中に癒せない寂しさや脆さを持つ女性役を巧みにこなし、ハンナを演じるローズマリー・デウィット(撮影3日前に女優が降板した故のピンチヒッターが彼女だったという)は人生経験豊富という雰囲気を湛えながらも実は少々幼くて危うい側面を持っているという複雑な女性を上手く演じている。

だが「ラブ・トライアングル」の中心になる人物はジャックに他ならない。彼を演じるマーク・デュプラス“Humpday”からの連続登板であり、シェルトン監督と息の合い方は抜群だ。どこにでもいる気のいい平凡な兄ちゃん役をやらせたら右に出る者なしのポテンシャルを存分に生かしている。そんな時のデュプラスは場を不思議と和ませ、気さくな笑顔で観客を映画世界へと引き込んでいくのだ(時々はその平凡さを逆に利用し、気色悪い人物を演じることもあるが)今回もこの雰囲気で以て、三角関係の中心として2人を奇妙な形で惹き付けていく。

「ラブ・トライアングル」は頗る繊細に描かれた三角形の愛のついての作品だ。三角関係はマンブルコアに頻出のテーマであり、それを描く代表的存在であるバジャルスキーの場合には明け透けで身も蓋もないものになっていただろうが、彼女はリアルかつ温もりある筆致で以てそれを描き出している。そして三角関係の行く末も、こんな着地点があってもいいじゃないかとばかり暖かな余韻が満ちる、シェルトンにしか成せないものとなっている。

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結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
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その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
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その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
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その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
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その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
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その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
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その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
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その58 フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
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その61 E.L.カッツ&「スモール・クライム」/惨めにチンケに墜ちてくヤツら
その62 サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独
その63 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩
その64 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ
その65 サフディ兄弟&"The Black Baloon"/ニューヨーク、光と闇と黒い風船と
その66 サフディ兄弟&「神様なんかくそくらえ」/ニューヨーク、這いずり生きる奴ら
その67 ライ・ルッソ=ヤング&"Nobody Walks"/誰もが変わる、色とりどりの響きと共に
その68 ソフィア・タカール&「ブラック・ビューティー」/あなたが憎い、あなたになりたい
その69 アンドリュー・バジャルスキー&"Computer Chess"/テクノロジーの気まずい過渡期に
その70 アンドリュー・バジャルスキー&「成果」/おかしなおかしな三角関係
その71 結局マンブルコアって何だったんだ?(作品リスト付き)
その72 リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
その73 リン・シェルトン&「不都合な自由」/20年の後の、再びの出会いは