鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの

2015年、ISによってパリは同時多発テロに見舞われ、多くの人々が傷つき命を落とした。そうしてパリはかつてない絶望感に覆い尽くされることになる。だがしかし、壱でもあっても世界には絶望を吹き飛ばすような希望を煌めかせる人々が確かに存在している。そしてこの暗黒の時期を煌めいていた者とは、未来への可能性に溢れる若者たちだった。ということで今回はそんな彼らの姿を描き出したドキュメンタリーであるMatthieu Bareyre監督作“l’Epoque”を紹介していこう。

“l’Epoque”はパリに広がる夜を生きる若者たちの映画だと、ひとまずは言っていいだろう。例えば登場するのは酒に酔いまくって公道で騒ぐアホども、見事なテクニックを以て過激な詩を紡ぎ続けるラッパー、色とりどりの灯りに照らされながら一心不乱に踊り続ける少女たち、誰も彼も正に夜の権化といった風に肩で闇を切っていく。

だが今作が軽兆浮薄な作品かと言えば、そうではない。夜を疾走する若者たちに紛れて、監督の持つカメラはまた別の形で夜を生きる青年の姿を映し出す。穏和そうな表情を浮かべた18歳の青年、彼は監督に対して哲学を学ぶことが夢だと語る。だが彼は親にこう言われたのだ。“そんなことを勉強して、もし自分が親になった時、私たちがお前に与えたような教育を子供に与えられるのか?” その言葉に、彼は将来の安寧を選び、ビジネススクールに通うこととなる。だが夢は捨てられないまま、彼はその鬱屈を夜に吐き出している訳だ。夜を生きるにもそれぞれの理由が彼らにはあるのである。

そしてカメラに撮される若者たちの人種は様々だ。その中でも多くの黒人の若者たちが監督の前で政治や夢について語っていく。最も印象的なのは時代の空気感を語るある少女の言葉だ。“私は憎しみなんか感じてない”意外にも彼女はそう語り、こんな言葉を続ける。“だってここに皆がいるから。皆が何かを変えようと行動しているから”

“l’Epoque”は、それでもそういった切実でシリアスな問題だけを描くに留まらず、ナイトカルチャーの明るい部分をも描き出す。爆音で響き渡る音楽に合わせ楽しそうに踊り狂う若者たちは勿論のこと、バーでは酒と炎がコップの中で交わりあい、目隠しをした男がバーテンダーにチンコ型のチョコレートを舐めさせられる姿が映ったりと、愉快な場面から悪ノリ的な狂態までレンズには様々な光景が焼きついている。

そしてその面白味は撮影の見事さに支えられていると言っていいだろう。撮影監督も兼任するBareyreは夜に満ちる虹色の輝きを美しく捉えると同時に、夜を跳ね返す真白い灯りや闇の深まった黒をも艶やかに捉えていくのだ。めくるめく色彩に包まれながら夜を謳歌する若者たちの姿は、他のどんなものよりも刹那的でだからこそ胸に迫る魅力を纏っている。

だがその合間合間において、不気味に挿入されるのが暴力と暴動の数々だ。同時多発テロ後、完全武装した警察隊は毎夜パトロールに明け暮れ、不穏分子を捕らえようと街を練り歩く。そんな彼らと自由を求める若者が衝突するのは必然だろう。爆発音、罵声、悲鳴、闇に炸裂する凄絶な音の群れ。降り下ろされる警棒、舞い散る火花、漂う白煙、闇に浮かんでは消える痛みの瞬き。監督はパリの夜に広がる暴力の渦をも、一瞬たりとも見逃さぬようカメラを向け続ける。

“l’Epoque”は社会に中指を突き立てる若者たちについての、乱暴なまでの活力が溢れるドキュメンタリーだ。ここには彼らやパリの夜についての正の側面も負の側面も余す所なく描かれているが、今作にはナイトカルチャーに親しみのない人物(私含め)すらも夜へと駆け出させる力がある。それは自分の未来を探し求め、自分の心について語り、何かを変えるために行動し、生きている実感を求める者たちの姿が、希望と共に確かに刻み込まれているからだ。

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女