鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Nelson Carlo De Los Santos Arias&"Santa Teresa y Otras Historias"/ロベルト・ボラーニョが遺した町へようこそ

ロベルト・ボラーニョという名前を貴方は聞いたことがあるだろうか?世界の裏側に潜む大いなる狂気を描き続け、現代の文学界に何者よりも高く聳え立つ永遠の存在となった偉大なる小説家だ。そんな彼が50歳の若さで亡くなる前に残した畢境の大作"2666"にサンタ・テレサという町が登場する。この町はアメリカとメキシコの国境近くに位置しており、おぞましい連続殺人が繰り広げられることとなった場所でもあるのだが、モデルは存在するにしろ、あくまでサンタ・テレサはボラーニョが創造した架空の町である。しかしこの町を映画の中で実現しようとした者がいる。ということで今回は映画作家Nelson De Los Santos Ariasと彼の作品"Santa Teresa y Otras Historias"を紹介していこう。

Nelson De Los Santos Ariasドミニカ共和国サント・ドミンゴに生まれた。ブエノスアイレスでは撮影を、エディンバラ美術学校では実験映画製作について学んでいた。2011年には初の短編"Le Dernier des Bonbons"を手掛け、ブエノスアイレス映画祭で上映された(監督が所属する制作会社Titua Filmsの公式vimeoから鑑賞可)。そして2013年には初めての長編ドキュメンタリー"Pareces una carreta de esas que no la para ni lo' bueye"を監督する。グラディスと彼の娘はニューヨークに暮らしているが、自分たち以外の他の誰とも関わらない孤独な生活を送っている。彼らが喋れるのはスペイン語とほんの少しの英語だけ、今作はそんな2人の人生を探っていくドキュメンタリーである。そして2014年の短編"Lullabies"を経て、2015年には第2長編"Santa Teresa y Otras Historias"を手掛けることとなる。

1つの場所を目指して歩き続ける人々、その中にひときわ大きな荷物を背にし、地面を這いながらも進む男がいる、まるでこの身を捧げるに一分一秒すらも惜しいといった風に。彼らが向かうのは町の中心に位置するサン・ラファエル教会、モノクロの映像にこそその荘厳さは一層際立つ。そして皆の鼓膜を揺らすのは高らかなる叫びだ、グアダルーペの乙女に祈りを捧げます、神のご加護がありますことを、神のご加護がそこにありますことを……

"Santa Teresa y Otras Historias"はもちろん余りにも長大な"2666"を全て映画化することはない、そんなこと到底無理な話だ、長さにおいてもこの小説を映画として語り直す不可能性においても。今作が映画化するのはサンタ・テレサのジャーナリスト兼捜査官のフアンの挿話である。町から少し離れた家母長制の色濃い場所で育ったフアンは、とあるきっかけからサンタ・テレサへ赴任することとなる。そんな彼は町で起こる連続殺人に興味を抱き始め、持ち前の気質からこの事件に深く深くのめり込んでいくこととなる。

だが1つの挿話の映画化といっても一筋縄では行かない。本作にフアン自身の姿は殆ど現れない、彼の物語は1人の女性のモノローグとして語られるのみだ。その代わりスクリーンには美しい風景の数々が映像詩的に紡がれていく。家屋が密に連なる住宅地、土と埃の感覚が色濃く残る裏路地、その道を並び立って歩く2人の少年、淡い紫の色彩がヴェールさながら漂う夕暮れの空。私たちの耳は町に生きる人々の人生を聞き、私たちの目は町に広がる風景を映し、そして私たちの心にはロベルト・ボラーニョが遺したサンタ・テレサの町が浮かび上がる。

彼の最新作は以前紹介したオーストリアの新鋭Lukas Valenta Rinnerの制作会社Nabisとの共同作"Cocote"、生まれ故郷であるサント・ドミンゴを舞台にした作品だそうである。ということで監督の今後に期待。

メキシコ!メキシコ!メキシコ!
その1 Elisa Miller &"Ver llover""Roma"/彼女たちに幸福の訪れんことを
その2 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その3 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その4 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その5 Santiago Cendejas&"Plan Sexenal"/覚めながらにして見る愛の悪夢
その6 Alejandro Gerber Bicecci&"Viento Aparte"/僕たちの知らないメキシコを知る旅路
その7 Michel Lipkes&"Malaventura"/映画における"日常"とは?

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
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その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
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