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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力

眼前に広がる光景をカメラのレンズに焼きつけるという行為には様々な力が宿る。映画、特にドキュメンタリーはこの力によって支えられていると言えるだろう。戦争の災禍、悍ましい人権蹂躙の実態、映像はそういったものを何よりも雄弁に私たちに伝え、世界の再考を促していく。今回紹介するNanfu Wang監督作“Hooligan Sparrow”もまた、そんな力に満ちた一作だ。

ニューヨークを拠点に活躍していたドキュメンタリー作家のNanfu Wangは2年ぶりに故郷である中国の地を踏む。彼女は活動家であるイェ・ハイヤン(彼女のニックネームが題名にもなっている“Hooligan Sparrow”だ)と接触を図ろうとしていた。彼女は中国において踏みにじられる女性の人権を守るため日夜国中を駆け回っており、芸術家アイ・ウェイウェイらとも親交がある有名な人物だ。インターネットで彼女の活動を知った監督は、この姿をもっと広く伝えるべきと中国への帰国を決意したのだ。

そしてハイヤンと合流し、監督が目指すのは海安島だ。ここでは、政府の高官が十代の少女6人をレイプしたという事件が起こっていた。中国においてレイプ犯は極刑に処されるが、児童売春は5年から15年の刑で済むという法の間隙を突き、少女たちは娼婦だったと主張し罪を免れようとしていたのだ。ハイヤンは志を同じくする仲間たちと抗議活動を開始、監督はその光景をカメラに映し取っていく。

“Hooligan Sparrow”はこうして闘い続ける活動家ハイヤンの姿をドキュメンタリーとして捉えていく作品だ。彼女たちは道に並び立ちプラカードを掲げながら、抗議の声を上げる。雑踏に満ちる喧騒は鼓膜を曇らせるほどの物だったとしても、その声は更に強く響き続ける。道を行く人々は素通りする者もいれば、チラシを手に取り声に耳を傾ける者もいる。そして携帯で抗議を撮影する人の姿もまたカメラには映ることになる。だがそれは必ずしも良い事を意味する訳ではない。

今作において印象的なのは政府による圧力がいかに激烈かであることだ。抗議活動の際、警察がやってきてハイヤンたちを妨害するのは勿論、後には罪を仕立てあげられ彼女は逮捕されることにもなってしまう。監督は弁護士を連れ立ち警察署へと赴くも面会すら拒絶され、何とか釈放された後も、彼らは執拗にハイヤンの動きを監視し妨害工作を続けていく。

そんな中でも監督は小型カメラ搭載の眼鏡など様々な道具を使い、中国の内情をそのレンズに撮そうと試みる。オフィスの窓からは政府が雇ったと思わしき暴徒たちが建物を取り囲むのが見え“売女のハイヤンは町を出ていけ!”という垂れ幕すら映される。警察もやはりグルであり、ハイヤンたちの話が聞き入れられることはない。そしてカメラには人権が蹂躙される姿が克明に映し出される、時にはカメラすらも破壊される瞬間すらある。暴力の予感は常に満ち、気が休まる時間は殆どない。追い立てられ町から町へと渡り歩く監督たちの姿には疲労感が色濃く滲む。

それでも今作には希望も存在している。ハイヤンの娘であるヤシンはいつでも笑みを絶やさず、ある時は腐敗した警察やジャーナリストを非難したりと、母親の正義と精神を受け継いで育っている姿が映し出される。そしてホアンという活動家は監督の行動に感化され、ハイヤンを助ける傍ら自分もまたカメラを持ち、目の前で繰り広げられる光景の数々を世界に伝えようと奔走する。政府の圧力は激烈であろうとも、それに立ち向かう強い意思を持った人々は確かにいるのだ。

“Hooligan Sparrow”で描かれるのは全てを押し潰そうとする社会とそれに抵抗する個の闘争、絶望と希望の絶え間ない拮抗だ。作品の中でこの闘いの終りが見えることはない、エンドロールで明かされる後日談に私たちは打ちひしがれるかもしれない。それでも監督たちはこの現実を真正面から見据え、カメラに映し続ける。彼女たちはレンズに焼きついたその風景がいつかこの世界を変えるのだと信じているからだ。

参考文献
http://hooligansparrow.com/(映画公式サイト)
http://www.indiewire.com/2016/01/sundance-2016-women-directors-meet-nanfu-wang-hooligan-sparrow-208735/(監督インタビューその1)
http://caamedia.org/blog/2016/10/17/filmmaker-nanfu-wang-on-hooligan-sparrow/(監督インタビューその2)

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