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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で

オーストラリアの内陸部にはアウトバックという巨大な砂漠地帯が広がっている。この地に心を惹かれる映画作家たちは少なくないようで、ここを舞台とした様々な映画作品が作られているが、まず私の頭に浮かぶのはテッド・コッチェフによる異形のドラマ作品荒野の千鳥足だ。アウトバックに位置する町へと赴任してきた教師の男が、ビールにギャンブルにと享楽に溺れ、あれよあれよと道を踏み外す姿を描き出した今作を観た時の衝撃は半端なかった。

だが荒野の千鳥足にしろクロコダイル・ダンディーにしろ「ウルフクリーク」にしろ、映画はこのアウトバックを自分たちの理解できない奇怪な人間が跋扈するド田舎地帯として描くことが多かった。何でもオーストラリアの人口の90%は沿海地域に集中しているらしく、余りに広大でありながらほんの一握りの人々しか済まないこの場所に対しては、様々な幻想が――殆どが偏見に基づいた――投影されてきた訳だ。しかし今回紹介するAlena Lodkina監督のデビュー長編"Strange Colours"はその幻想に与しない。むしろ真逆のアプローチを取った、素朴で、だからこそ胸を打つ一作となっている。

Alena Lodnikaは1989年ロシアに生まれた。現在はオーストラリアのメルボルンを拠点として映画を製作している。彼女の名をまず有名にした作品が2014年製作の短編"There Is No Such Thing as a Jellyfish"だ。街を孤独に彷徨う女性の姿をコミカルに描き出した作品で、各地の映画祭で公開され話題となる。その後ビエンナーレ・カレッジに参加することになった彼女は、2017年に待望の初長編である"Strange Colours"を完成させる。

今作の主人公はミレーナ(Kate Cheel)という大学生、ある日彼女の元に長らく疎遠だった父のマックス(Daniel P. Jones)から電話がかかってくる。重い病に苦しんでいる、御前に会いたいという告白を受けた彼女は、彼が住んでいるという田舎町へと向かうこととなる。そこはオパールの名産地であり、マックスはそれで生計を立てていたそうだが、今病床に伏せる彼の姿にその面影はなかった。

まず私たちの目を惹くのは、撮影監督Michael Lathamの捉える自然の圧倒的映像美だ。荒涼たる褐色の世界では砂埃がタバコの紫煙のようにくゆり、ザラついた風の中で大木が揺れ、穏やかな湖には波紋が広がっている。その広大さにおいては人間は全くちっぽけな存在であり、自然との共生というよりは人間がそこに呑み込まれていると表現すべき状況が広がっている。

そしてLodkina監督はこの自然の内で生きる人々にも焦点を当て始める。昼間から上半身裸のままで仲間と共にビールをかっくらうかと思うと、仕事の合間にもビールを離すことはない。正に酒好きにとっては夢のような光景だ。しかし彼らの物腰は武骨ながらも優しいもので、ミレーナを甲斐甲斐しく世話してくれる。最初は頑なだった彼女も、そんな善意に溢れる人々に心を開き始める。

荒野の千鳥足に出てくる人々もある意味では善意に溢れていたが、その善意が結果的に主人公を灼熱の地獄へと導くこととなったが、"Strange Colours"はそちらへ舵を切ることはない。美しい自然や住民たちの人柄に触れることで、滞在をズルズルと引き延ばしていく。今作においてアウトバックは地獄ではなく、全てを優しく抱く楽園なのだとでもいうように。

だが監督は楽園の別の側面にも目を向けていく。この町はオパールの名産地として有名な場所だ。ある時ミレーナは坑道でそれを眺める機会を得られるのだが、闇の中で虹色に輝く様は息を呑むほどの美しさを誇っている。だがその裏側には不気味な影をも存在しているのだ。オパールはその高価さゆえに盗む者たちが跡を絶たない。彼らの存在は楽園に濃厚な影をも投げ掛けるのだ。

その微妙な雰囲気の中で前景化してくるのが父と娘という親子の関係性だ。“あなたが怖い、あなたみたいにはなりたくない”そんな言葉が二人の間にある確執をまず象徴していると言えるだろう。それがオーストラリアの大自然の中で束の間に心を近づけるかと思えば、ある瞬間には心が離れていってしまう。監督とIsaac Wallによる脚本はこの関係性の機微を繊細に描き出すことで、この世界をも複雑なものへと変えていく。

“Strange Colours”アウトバックを舞台としながらも、野蛮さを強調した他の作品とは一線を画するような素朴で繊細な作品だ。監督の手によって悪魔どもの住む灼熱の地獄は居心地のよい楽園へと変わるが、そこで終わることはない。彼女はこの地にも私たちと同じような日常がありそれを生きる人々がいるのだと、この地もまたかけがえのない一瞬に満ちた大地であるのだと、そう優しく語りかけてくる。


参考文献
https://vimeo.com/alenalodkina(監督公式vimeo)
https://blog.womenandhollywood.com/venice-film-fest-2017-women-directors-meet-alena-lodkina-strange-colours-c80176e3a65(監督インタビュー)

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