鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ソフィア・タカール&「ブラック・ビューティー」/あなたが憎い、あなたになりたい

ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
ソフィア・タカールの略歴、および第1長編"Green"についてはこちら参照。

さて、ソフィア・タカール監督である。マンブルコアに参加することで演技力や演出力を養い、2011年には初の監督作“Green”を手掛け高い評価を獲得することとなった。その後彼女は恋人であったローレンス・マイケル・レヴィーンと結婚、彼の監督作“Wild Canaries”で主役を演じるなど公私ともに順風満帆な生活を送っていたが、監督としては6年もの間沈黙を続けていた。そんな彼女が2017年に完成させた待望の第2長編“Always Shine”(邦題は「ブラック・ビューティ」だが、本編を観れば分かる通り意味が分からない)は彼女にとって新境地を開拓する一作であった。

ベスとアナ(「マンハッタンロマンス」ケイトリン・フィッツジェラルド&「オデッセイ」マッケンジー・デイヴィス)は無二の友人で、女優として日々競いあう仲でもある。最近はお互いの予定が合わず疎遠な状況が続いていたのだが、彼女たちは久しぶりにアナの叔母が所有する別荘で週末を共に過ごすこととなる。しかしそれが二人の人生を劇的なまでに変えてしまうとは誰も予想していなかった。

タカールは前作に続いて今作においても、2人の女性の濃密な関係性を描き出そうとする。ベスはとある雑誌で今後期待の女優として特集されるなど前途洋々なキャリアを送っているのだが、逆にアナは全く芽が出ず鬱屈した日々が続く。旅の道中でもレストランに入ると、ベスは客からサインを求められるのだが、アナは見向きもされない。挙げ句の果てに写真係までやらされ、アナの心には濁った澱ばかり募っていく。

しかし実際にはベスの方も余り良い状況にあるとは言い難い。物語の序盤において映し出されるのはとあるオーディション風景、カメラはベスの表情を真正面からのクロースアップで捉える。内容は男性に襲われ女性が助けを求めるというものだ。台詞の数々は吐き気を催すものばかりだが、一通りオーディションが終わった後、監督たちは彼女に語る。“この映画はいわゆるヴェリテ・スタイルだ、撮影の時は裸になってもらいたい” ベスは話が違うと困惑した表情を見せるが、監督はそこである言葉を付け加える。“君は美しいんだから大丈夫だろ……”

“女性にとって美しく魅力的であることは権利であり、ある意味では義務でもあるのです。女性とはテーブルに飾られた花のような存在なのです” 冒頭に現れるこの言葉は今現在女性の置いやられている立場を端的に示しているだろう。女性に人格は存在せず、何もせず美しい花でいればそれでいいのだ。それはとても侮辱的な響きを持つが、題名の“Always Shine”は正にそれを象徴する言葉であり、日本で言えば安倍首相が提唱する女性活躍Shine!とかいう奴に重なると言えるだろう。

さて、今作において特徴的なのは2人の間において男性関連の話題が異様なほど頻出することだ。“あの男はクソ野郎!”だとか“あの男のチョビ髭、全然似合ってないし”だとか、主に男性への罵詈雑言の数々が、圧倒されるほど多く放たれる。まるでベクデルテストに対して確信犯的に逆行するような会話だが、それはタカール監督による意図的な演出だろう。これは“女性たちの中心は男だ”という思い上がりに対して、そしてそんな考えを醸造する男性中心社会へと唾を吐きかけ、中指を突き立てる反逆でもあるのである。

ではその反逆によって女性同士は仲良く連帯できるのかと言えば、タカール監督のヴィジョンはその理想を映し出すことはない。前作“Green”で描き出した通り、男を忌み嫌いながらもそんな男たちを求め女同士で対立してしまうという地獄絵図、ヘテロ女性たちの憂鬱への洞察を、彼女は今作において更に深めようとする。その嫉妬の数々を濃密に描き出そうとするのだ。同じような題材の作品に、私が最も偏愛する映画作家ブライアン・デ・パルマによる「パッション」がある。しかし“Always Shine”はそれを観たタカール監督が“本物の女同士の愛憎劇って奴を見せてやりますよ!”と腰を上げた結果生まれた作品という印象を受けるのだ。

似ているのは題材だけではない。そのマンブルコアの影響下から完全に脱した演出法もデ・パルマ・スタイルを越えんとするほどの野心に満ちている。随時挿入されるフラッシュフォワードは禍々しく、時の流れを克明に捉えるための長回しのギミックも冴え渡っている。更に最も印象的なのはズームの手捌きだ。撮影監督Mark Schwartzbardのカメラは彼女たちを見つめる時、ゆっくりとゆっくりと、まるで拳を壁へと押しつけるような早さと力で2人に迫っていくのだ。そして私たちはベスとアナの心の内奥へと潜行していくこととなる。

その意味において緊張が頂点に達する場面こそが、女優2人がSF映画の脚本を読み合わせるシークエンスだ。男役と女役に分かれて最初は普通に台詞を言い合うのだが、だんだんと言葉に熱気が籠ってくる。その中でアナはベスへと詰めより、熱は不穏なまでに肉薄していく。そして台詞が交わされる中で、彼女たちの心が音もなく激突し鍔迫り合いを繰り広げるのだ。ベスとアナ、ケイトリン・フィッツジェラルドマッケンジー・デイヴィスという二重に螺旋を描いた女優たちの魂がここで凄まじい炸裂を遂げるのだ。きっと今後この場面は、彼女たちの映画史においてターニングポイントだと言われるだろう。それほど濃密なのだ。

だがしかし、惜しいのである。余り作品を下げることは言いたくないのだがしょうがない。今作の、ある事件によって完全にトーンが変わってしまう後半は、前半において何が魅力的だったのかを監督自身理解してなかったのでは?と思うほどに、先が予想できる凡作に堕してしまうのである。故に、この記事は1回途中まで書いて、いやでも凡作だから紹介しなくていいかと放置していたのだ。だがこれ自体その影響下からは抜け出ているが、マンブルコア作家の作品はやっぱり紹介すべきと新たに書き直した次第である。とはいえタカールの監督としての手腕は疑いないものなので、今後の作品に期待したい所だ。

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!
その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
その56 フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって
その57 フランク・V・ロス&"Present Company"/離れられないまま、傷つけあって
その58 フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
その59 フランク・V・ロス&"Tiger Tail in Blue"/幻のほどける時、やってくる愛は……
その60 フランク・V・ロス&"Bloomin Mud Shuffle"/愛してるから、分かり合えない
その61 E.L.カッツ&「スモール・クライム」/惨めにチンケに墜ちてくヤツら
その62 サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独
その63 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩
その64 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ
その65 サフディ兄弟&"The Black Baloon"/ニューヨーク、光と闇と黒い風船と
その66 サフディ兄弟&「神様なんかくそくらえ」/ニューヨーク、這いずり生きる奴ら
その67 ライ・ルッソ=ヤング&"Nobody Walks"/誰もが変わる、色とりどりの響きと共に