鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星

さて、クルドである。クルド人は自分たちの国家を持たない世界最大の民族集団であり、トルコやイラク、イランやシリアなど中東の各国にその大多数が住んでいる。それ故に少数派として差別・抑圧される立場にあり、特にトルコ人との対立は有名なものだろう。さて今回はトルコにおいてクルド人たちが直面する現実を詩的想像力と共に描き出したドキュメンタリー作品である"Meteorlar"を紹介して行こう。

Gürcan Keltekは1973年トルコのイズミルに生まれた。ドクズ・エイリュル大学で映画を学んだ後、映画製作を始める。2011年の"Fazlamesai"イスタンブールに広がる過酷な資本主義的状況を描いた短編でトビリシドキュメンタリー映画祭で審査員賞を獲得する。他にもドキュメンタリーの祭典Visions du Réel45周年を記念して作られた短編"The Burning Mountain"(2013)や、ベシュパルマク山に眠る人々の死と記憶を辿る中編ドキュメンタリー"Koloni"(2015)を製作した後、2017年に彼は初の長編ドキュメンタリー"Meteorlar"を完成させる。

まず浮かび上がるのは、思わず呼吸を忘れるほど崇高な偉容を見せる大地の姿だ。どこまでも続く頑健な岩地は厳しさを湛えながらも、その上で細かな雪が白く瞬いている風景は頗る神秘的だ。空の色はひどく濃厚で、今にも手が届きそうだと思えるほどに肉薄しているように見える。そうして白と黒の交わりによって森厳に描かれていくこの地は正に聖なる地としか言い様がない。

次に映るのはこの地を黙々と歩き続ける男たちの姿だ。Firat GülgenMustafa Senのカメラは修行僧さながら厳格に岩地を進む彼らを付いていく。一体彼らは何者か?それは彼らが持つ猟銃によって分かる、ハンターなのだ。そして1人が銃を抱え、山の斜面を歩く牡鹿たちに狙いを定める。猛烈な風の音、その間隙に微かに響く吐息の音、銃口と重なりあうカメラの震えが張り詰めた臨場感を生み出す。そして男は銃弾を放つ。銃声の炸裂に逃げる牡鹿の群れ、しかしその中の1匹がよろよろと力なく大地へと伏す。“”はそんな命のやりとりによって幕を開けるが、この厳しさは後の内容を予感させるものだ。

そうして物語はクルド人たちの祭儀へと至る。炎を囲んで叫び声を上げる老若男女、その様は熱狂的であり観る者に畏怖さえ抱かせる類いのものだ。だがその光景、その熱狂の流れがいつしか松明を持った群衆の行進へと移ろうことに観客は気づくだろう。この行進は先とは違い、直裁な怒りに満ちているような雰囲気がある。その中では野太い叫びが響き、花火が炸裂に炸裂を果たす。それでもこの光景すらも徐々に変化していく。花火の弾ける音が、また別の響きに変わるのだ。それは銃声の響きであり、砲弾の響き、つまりは最後には暴力の響きが画面を支配していくことになる。

○監督はこれがクルド人の直面する現実だと私たちに語る。それは次の描写からも明らかだ。私たちはクルド人たちの土地が爆撃される大地を見ることになるだろう。ノイズ混じりの通信音声を背景に、地は穿たれ家々は破壊されていく。不穏に立ち上っていく黒煙のたゆたいは、今そこにある恐怖を雄弁に語っている。そしてそこに憂いを湛えた女性の声が重なるーー“見えない腕によって私たちはなぶり殺しにされている……”

そしてカメラは戒厳令下にある町へと潜行していく。普通の生活を行う人々、その裏側で瓦礫を片づける人々、ここには様々な光景が広がっているが最も印象的なのは子供たちの表情だ。“これがぶっ壊された家だよ!”とスマホの液晶に映る写真をスライドしながら解説する少年、ほぼ崩壊した廃墟の前で悲惨な現状についてカメラに語る少女たち、どの子供の顔にも色濃い影がかかり、その惨状が明らかになる。更に今作は彼らが正に蹂躙される瞬間をも目撃することとなる。荒廃した町の中を必死に逃げ惑う人々、銃を携えた軍人たち。ここにおいてクルド人たちに人権は存在しない。余りにも酸鼻に耐えぬ状況、命が軽く失われていく地獄の風景がレンズ越しに生々しく迫ってくるのだ。

そんな中で物語は予想を裏切る展開へと至る。11月のある日、クルド人たちの住む地域に降ってきたのは何と隕石だった。夜の闇に塗り潰された空を白い光は悠然と横切っていく。そしてそのうち隕石は大気圏で崩壊し始めるのだが、崩れながら幾十幾百の光の筋が現れる様は凄まじく美しいものであり、夜空を見上げる人々の願いを、あの流れ星の群れが全て叶えてくれるのではないか?と思わされるほどに圧巻だ。

だが何故監督はクルド語で“隕石/流れ星”を意味する"Meteorlar"を本作の題名としたのだろうか。それはこの後に分かってくる。翌日、野原に人々が集まるが、彼らは皆隕石の破片を探しに来たのだ。そうしてカメラの前で、隕石が落下する様子や破片はこのくらいの値段がするらしいという噂話などをする人物たちの顔には先ほど見られたような陰鬱は全く見て取れない。むしろ快活な笑顔だけがそこにはある。そう"Meteorlar"とはこの映画において、悲惨な状況を生きているクルド人にとっての希望の象徴なのだ。だからこそ監督は題名に"Meteorlar"とつけることで、光ある未来への祈りを込めたのだろう。

"Meteorlar"は人々から畏敬の念を呼び起こす荘厳なる大地の様子やクルド人トルコ人との対立などの歴史的事実、クルド人が直面する余りにも過酷な現実を描き出した作品だ。しかし今作には確かに、この地にも存在している希望をも綴られている。だからこそこの映像詩は空に輝くあの星たちのように、眩いばかりの光を放っているのだ。

"Meteorlar"ロカルノ映画祭でプレミア上映後、ブラチスラヴァミランなどで作品賞を獲得するなど大いに話題となる。そしてKeltek監督の最新作が2018年製作の短編"Gulyabani"だ。1人の女性の子供時代を日記や手紙から浮かび上がらせると共に、それらを通じて共和国としてのトルコの趨勢を描き出した作品だそうで、これもやはりロカルノ映画祭でプレミア上映され高評価を得た。ということで最後にKeltek監督の作品に対する思いを語った言葉を以て、この記事を終えることとしよう。

"(これは実験映画ですか、それともドキュメンタリーですか?という問いに対して)最初'Meteorlar'サイケデリックが基底部にあるドキュメンタリーだと冗談を言っていたんですが、今はこの作品はフィクションに近いように思えます。執筆された台詞に荒くとも時間の流れや脚本が存在していますからね。もし映し出される全てが事実だったとしても、政治的に大きな動乱が幾つも起こっている時に介入してくる類の、自然的か超自然的な力についての考えは全てフィクショナルなものなんです。ドキュメンタリー制作に限界はありませんし、それが何なのかを表現しようとする度、その概念は広がっていく訳です。私の頭から離れないイメージがあるだけで、特定の基準があるとは考えたこともありません。実験的なフィクションとドキュメンタリーは共生すると私は信じています"

"オープニングにおけるネムルト山の場面を粒子深い白黒映像で撮影したのは随分前のことです。フィルムを使ったんですが、私はその手触りが好きですし、高精細の粒子や画質の悪いビデオと相性が良かったんです。それからこの撮影法は映画の重要な要素と綿密に結びついています。撮影中、南東の街についての情報やニュース映像は限られていました。私は映像の様式が人間の持つ歪められた共有記憶――地方から送られるノイズや独白付きの、ウェブ上から匿名で配信される映像のようなものです――と響き合うと考えています。そんなイメージの数々に魅了されてきたんです。過去に起こった出来事は今という時にはぼやけた記憶と化していきますが、'Meteorlar'は人間が全てをどう記憶していくかについての私の再考的作品という訳です"*1

参考文献
https://fourthreefilm.com/2017/08/meteors-an-interview-with-gurcan-keltek/(監督インタビューその1)
http://cineuropa.org/en/interview/333332/(監督インタビューその2)

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