「さて、だいぶ間が開いてしまったが前回『ネイバー 美しき変態隣人』は現代に蘇った『血の魔術師』だという仮説を私が打ち立てたことを、皆さまは覚えていらっしゃるだろうか? 覚えて居ずともいらずとも、今回はまず『血の魔術師』について見ていくことから始めさせて頂こう」
美女を惨殺するというマジックで評判の魔術師モンタグ。彼に興味を抱いた女性TVレポーターと新聞記者のカップルは、彼の舞台に上がった女性たちがその後、舞台で行なわれたのと同じ手口で殺されている事に気づく。次々と犠牲者が出る中、主人公の番組に出演したモンタグは恐るべきマジックを披露する…… Yahoo映画より引用
「この作品は、ゴッドファーザー・オブ・ゴアの異名を持ちしZ級映画界の生ける伝説、ハーシェル・ゴードン・ルイスの最高傑作と言って良い作品だろう。さて、キミの意見を聴こう!」
「…………“最低傑作”と言うに相応しきに相応しい、酸鼻に耐えぬ俗悪グロ描写と意味不明な展開の数々………
今まで私が見せられてきたZ級映画が、デヴィッド・フィンチャーの技巧的作品群に見えてくるようなそんな……そんな…………余りにも度し難い作品に過ぎます…………」
「この作品が『ネイバー 美しき変態隣人』と何処か似かよった歪みを持ち合わせていることに気づいただろうか?」
「………何が現実か?何が虚構なのか?そんな観客を煙に巻く編集の混迷っぷりでしょうか。
そしてラストの一連の展開、虚構から虚構に至る堂々巡りの驚愕と当惑………Z級映画の類に良くある怠慢からくる意味不明ラストとは一線を画すような………何か、何か…………」
「カフカや安部公房の作品に触れた時のような、実存の揺らぎを感じたのではないか?」
「いや、それは無いです」
「………………………」
「いや、それは無いです」
「…………ともかくだ、この映画は“映画”という物はどこまで行っても虚構でしかない事実を看破する。
映画の虚構性から逃げることなく、その虚構性を逆に自覚することで、映画の深き本質に到達しえた、ヌーヴェルバーグの後継者なのだ。私の尊敬する『最低映画館』というサイトの言葉を借りるならば、『血の魔術師』はZ級映画版の『去年、マリエンバードで』という訳だ。*1」
「えーーーーーーーーー…………」
「えーーーじゃない、君はラストな鮮やかなる変転の瞬間を目撃したか?
虚構を生きる魔術師ギュスターヴは、死してなお主人公の肉体を以て生き返り、そしてまたヒロインの肉体を以て再誕し、最後には虚構は虚構として永劫回帰に至る」
何が現実であるのか、何が虚構であるのか、貴方がたにはその確信があるか?
この瞬間、貴方がたがベッドの中で眠りについているのではなく、この劇場のシートに座り私を見据えていることをどうやって証明できるというのか?
ああ、それは全て余りにもリアルに過ぎるのだ。貴方がたは現実と錯覚する程に鮮やかな夢を見た事はないか?目覚める前までは現実としか思えないような、そんな……だがそれ時、貴女は“目覚めた”のだとどうして言える?
実の所「自分は目覚めた」のだと貴方が思ったその時、貴方は夢を見始めたに過ぎない!
「こう高らかに叫ぶ魔術師ギュスターヴはそして、2009年にアメリカ・オリーヴォという女優の肉体を以て、新たなる虚構の世界に光臨した、その映画こそが『ネイバー 美しき変態隣人』なんだ!」
「正直全然わかりませんけど、教授はこの2作品が好きなんだなぁ、ということはかろうじて解りました」
今回は『血の魔術師』のグロ描写には触れません、あしからず
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「ということで、『ネイバー 美しき変態隣人』に話を戻そう。
苛烈なゴア描写が売りの前半も勿論素晴らしいが、真に素晴らしきは中盤以降の展開という訳だ。主人公ドンが三バカ仲間によって、変態隣人の魔の手から助け出されてから本題なのだな」
「意外と簡単に変態隣人がブチのめされて、これからまだ45分続くの!?とびっくりしましたが、まさかあんなにも酷い展開が待ち受けているとは………」
「ああ、ドンは満身創痍ながらも日常へと帰っていく。ヒロインや仲間たちの献身的介護を受けて、回復の兆しを見せるが、そこに変態隣人の幻が忍び寄る」
なって凄まじいゴア描写の連続でしたね。魅せ方はヘタクソでしたけれど」
「中でも凄まじかったのはチンコ破壊だな。
ヤバい、チンコはマジにヤバい。チンコは本当にヤバい。さすがに尿道グリグリされたら、さしもの私もいつもの態度を崩さざるを得ないだろう、チンコはヤバいなホント尿道は辛い!!!!」
「やはり男性はチンコ攻撃が辛くてらっしゃる」
「当たり前だ!チンコ攻撃には、男の本能が悲鳴を上げる!縮む!!!」
「ハイ、まあ話を続けて下さい」
「………ここで、素晴らしいのは、現実と虚構の関係性だ。
ドンの生きる現実において、虚構は現実に侵犯する幻覚という形を取ることもあれば、夢という現実から切り離された形を取ることもある。この二つの虚構によって現実が侵食される過程を丹念に描きながら、チンコ攻撃に至る訳であるが……」
「あの攻撃、性別は逆転していましたけれど、『血の魔術師』のラストに似ていますよね」
「そう!そこは注目すべきだろう。
セックスしていた相手が、何時の間にか忌むべき相手にすり替わる。
『血の魔術師』においては内臓を抉りだされ、『ネイバー』においては変態隣人にチンコを針でグリグリされるが、ここに監督の熱烈なる『血の魔術師』への確信的オマージュを見たいのだ!
少し話は剃れるが、『変態隣人』のIMDBデータを見ていきたい。
http://www.imdb.com/title/tt1362103/?ref_=fn_al_tt_1
此処に明記されているキャラの名前に、何か気づくことは無いだろうか?」
「えーっと、Don Carpenter, Elizabeth Hitchcock, Sam Landis, Nancy Baker…………ああ!
これ全員が著名なホラー・クリエイターのもじりになっているのですね!
ジョン・カーペンター、アルフレッド・ヒッチコック、ジョン・ランディス、リック・ベイカーetc……」
「そう、ここにこそ彼のホラーへの愛が存分に感じられはしないか!
そしてJenn Crawfordというキャラ名は、監督が幼少時に鑑賞してトラウマになった『愛と憎しみの伝説』のフェイ・ダナウェイasジョーン・クロフォードから来ているという!『神は細部に宿る』というが此処に監督の更なる絶愛を感じたのだ!
私はこの絶愛こそが、意識的にしろ無意識にしろ、この一連の『血の魔術師』へのオマージュを成し得たと思えてならない!
ここまでドンを襲う現実と虚構の対立による揺らぎを見てきた。
その頂点がチンコ破壊であったが、そこから成される転換を見たか?
繰り広げられてきた現実と虚構の対立、それ自体が“虚構”であったという転換を!
現実は夢と言う虚構であり、夢さえもまた更なる夢という虚構の中の存在であった。時間は三バカに助けられる前へと巻き戻り、そして私たちは拷問の迷宮に再び彷徨う事と相成る訳だ」
「全ては“The Girl”という虚構を統べる“虚構”によって弄ばれた、何重にも結われた虚構。
最後にはただひたすらなる絶対的暴力によって“虚構”が完全なる勝利を収める。この映画は現実と虚構の関係性を、拷問Z級ホラーという体裁を以て表現し得た、小路の寓話である。そう教授は仰りたいのですね?」
「………………」
「どうされたのですか、教授……?」
「“虚構”“虚構”言ってたら、何か良く分からなくなってきた」
「エェええ………」
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「と、このように考えれば考える程に、知と血の迷宮に入り込んでしまうような意義深いZ級映画も存在するのだと、皆様に指定頂けたところで今回はこれで終わりだ!!!」
「投げっぱなしジャーマンも甚だしすぎですよ!」
「次回からは、欧州へとZ級映画の目を向けて行こう!君にはこの作品を見てより、今度のZ級映画対話に臨んでほしい」
「えーーっと、これは『ラスト・コンサート』?Z級映画というには随分趣が違うようですけれど……」
「その意味は次回分かるだろう、それではサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ………}