鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

70年代の終わりに「スカイラブ」

家族4人仲良く連れだって、アルベルティーヌたちは電車に乗り込む。だけども向かい合わせの席が空いていない、列車の旅は長い、4人でカードゲームでもして遊びたいのだが。「すみません、あの、私たち家族4人で座りたくて、もし宜しかったら対面席、譲ってくれません?」しかし現実は非情だ、乗客ににべもなく断られ、彼女はすごすごと席に戻る。列車の窓から見える風景、アルベルティーヌの頭の中に浮かんでくるのは、幼い頃、精液色のセーターを着た変態クソ野郎に話しかけられた思い出と、そして……

パリ、恋人たちの2日間そして続編「ニューヨーク、恋人たちの2日間」と人々の笑いをかっさらっていった映画監督ジュリー・デルピー、そんな彼女がこの2作の間に手掛けていたコメディ作品が「スカイラブ」だ。デルピー自身の思い出が元となっているこの作品は、前述の2作にはない暖かみに満ちながら、だけれどあの開けっ広げなゲスっぽさにも溢れた映画となっている。

1979年、11歳のアルベルティーヌ(ルー・アルバレス)は母のアンナ(「ファングルフ/月と心臓」ジュリー・デルピー)に父のジャン(「あの夏の子供たち」エリック・エルモスニーノ)、そしてメイおばあちゃん(ジェーン・バーキン in スキャンダル」エマニュエル・リヴァ)共にブルターニュへと向かっていた。 この日はアマンディーヌおばあちゃん(「狼獣たちの熱い日」ベルナデット・ラフォン)の誕生日、親戚一同が集まって盛大なパーティを!という訳だ。アルベルティーヌは仲良しのロベールと再会、屠殺された羊を見て笑いあったり、かと思えば宿敵のシシーといきなり髪を鷲掴みの大喧嘩を始めたりとなかなか忙しい。そんなこんなで家族が一堂に会し、誕生日パーティが始まる。

ゆうに20人を越える登場人物たちが繰り広げられるのは愛に、戦争に、音楽に、セックスに、彩り豊かな会話の数々。低俗なTV番組を子供に見せるなんて!と叫ぶ者がいれば、1日に20回セックスしたと告白する者がいて、いきなり掃除機の実演販売を始めだす夫婦がいるかと思えば、子供と一緒に地獄の黙示録を観たと自慢げに話す親もいる。バカ笑いに叫び声、歓声を上げたり下ネタソングを高らかに歌ったり、とにもかくにも大騒ぎ、しかしアルベルティーヌには1つだけ不安なことがあった。なんと明日、このブルターニュ人工衛星スカイラブが墜落するかもしれないというのだ……!

この物語において、劇的な出来事はほとんど起こることがない。会話や登場人物の行動の数々はデルピー作品の常として妙に過激でゆるめにゲスいが、一つ一つのエピソードの繋がりは緩やかでむしろ淡々とした印象を受けるほどだ。そういう意味ではロバート・アルトマンの手掛けた群像劇、特に「ウェディング」などが想起されるだろう。

しかしこの映画において通低しているのはアルベルティーヌの視点、つまり紛れもなく主人公がいるということだ。パーティを楽しみながらも、スカイラブが落下してくるかもしれないという不安から逃れられない。それはまた思春期の不安定さとも重なりあう。子供扱いされるのは嫌だけども、でも何となく大人の世界という物に馴染めず振り回される自分もいる。そんな彼女は休日の最中、初恋を経験することにもなる。そのトキメキの始まりがまたフランス的としか言い様がない突拍子のなさで笑えるのだが、そういう節々に多分アルベルティーヌに自身を投影しているのだろうデルピーの、懐かしい思い出を眼差す時に彼女だけでなく誰もが浮かべるだろう微笑みが見えてくる。

しかしデルピーは時代の良き部分だけを描こうとはしない。この時代の暗部、それを象徴するようなキャラクターが叔父のロジェ(「危険なプロット」ドゥニ・メノーシェ)だ。ある時彼は驚く不愉快な行動を遂げ、その理由を説明しようとする。それでも“彼は加害者でもあり被害者なのだ”とは到底言えないが、ロジェのアルジェリア帰還兵という背景はフランスに影を投げ掛けるものであり、時代から取り残される者がまた存在していた事実もこの映画は掬いとっていく。

個人的に、この「スカイラブ」を観ながら思い出した作品はポール・トーマス・アンダーソン監督のインヒアレント・ヴァイスだった。どちらにも共通するのが、とある時代に対して、良いとか悪いとかそういう概念を越えてこの時にしかない“何か”があった筈だ、という監督の思いを感じる所だ。「インヒアレント・ヴァイス」は“1970年”という70年代の始まり、PTA監督がちょうど生まれた年であり、その時代に生きながら記憶はなかったからこその切実さがある一方、「スカイラブ」は“1979年”という70年代の終わり、デルピー自身は10歳で映画に投影できる記憶がある。だからこそ、もっと弛緩した余裕というか、ああ、あんな時代もあったなと、彼女の暖かな思いを感じる、そんな幸せが「スカイラブ」には息づいている。[B+]

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