鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

杨明明&"女导演"/2人の絆、中国の今

香港映画、台湾映画、そして大陸映画、いわゆる中国映画は大きくこの3つに分けられる。香港映画はもう大分昔からジミー・ウォングからジョン・ウーウォン・カーウァイからジョニー・トーダンテ・ラム、そして今年上映された八仙飯店之人肉饅頭」「エボラ・シンドローム」ハーマン・ヤオから私の偏愛する「魔 デビルズ・オーメンカイ・チーホンまで幅広く受容されていて、台湾映画はエドワード・ヤンホウ・シャオシェンツァイ・ミンリャンなどの台湾ニューウェーブ、最近では「セデック・パレ」ウェイ・ダーション「あの頃、君を追いかけた」ギデンズ・コー「光に触れる」「共犯」チャン・ロンジーなどなど。

大陸映画はチャン・イーモウニン・インに加えて、ジャ・ジャンクーロウ・イエなどいわゆる第六世代の映画が多く紹介されている、というか調べてみると、これは大陸映画かと思うと、香港映画だったり大陸映画でも監督は香港だったりそういうのが多いのに気付く。最近ではベルリン国際映画祭金熊賞を獲得した「薄氷の殺人」ディアオ・イーナン、先月日本でも公開された「僕たちの家に帰ろう」リー・ルイジュン、小説家でありながら「いつか、また」で映画監督としてもデビューしたハン・ハンなどがいる。今回紹介するのはそんな大陸映画界のインディー作家である杨明明と彼女の短編作品"女导演"だ。

ミン(杨明明監督本人、カタカナ表記は多分ヤン・ミンミン)とユエ(郭月)は映画学校で知り合った無二の親友なのだけども、2人揃って卒業後の進路はニート。そんな状況でミンたちが何をしようと思ったかといえば、このニートな現状を互いにドキュメンタリーとして撮影しようということだった。2人はいつも一緒にいて、1つのカメラを渡しあいながら、様々な風景を撮しとっていく。繰り広げられるのはセックスだとか、芸術だとか、イングマール・ベルイマンだとかそんな会話の数々、しかしふとした出来事から2人が同じ男と付き合っているのが判明し、ミンたちの関係は少しずつ変わっていく。

これを観ながらまず思い出したのが羽仁進「午前中の時間割」だった。この作品も親友の少女2人が互いの姿をビデオカメラで撮影しあい、その映像の連なりが物語の一部となっているってそういう作品だった。この"女导演"はランタイム42分ほぼ全てが2人の撮影映像で構成されていて、かなり徹底している。最初その映像からは親密さが伺えて、1人の表情や動きが映し出される時、もう1人の眼差しの暖かさが溢れてくるような感触がある。だけども男の存在はその親密さを歪ませていき、手ぶれが多くなったり、編集がブチブチ途切れる様が観る者に不安を波打たせる。まあ、少し陳腐なことは陳腐な展開かもしれない、でもそれを越えて、2人の感情の機微という物を丁寧に掬い取りながら、友情っていうのは不安定でそして複雑なものなんだってそういう重要なテーマを浮き彫りにしていく。

しばらく口論を繰り広げた後、いっそ一緒に男に会いにいくかと夜の町へとくり出す2人、そんな時も撮影を続けるミンとウンザリしたような様子を見せるユエ、たった数分の合間にも友情は良い方向に転がったり悪い方向に転がったりとそのダイナミックさは鮮やかだ。色々あってミンがユエの家に押し掛けた時も、友情が官能的なほど高まったかと思えば余計な一言が生む墜落は劇的だ。なんだけどミンがトイレに籠って完全に友情もご破算、から、2人で延々と骨付き肉を喰いまくるだけのショットが続き、監督の采配は絶妙と言うほかない訳で。そんな中でユエが愛についての自分の考えを涙ながらに語るシーンは今までの流れも相まって、グッと来たりする。

でだ、この"女导演"が更に優れているのは、2人の友情の移り変わりを通じてまた、中国の今も描き出そうとしている所にある。そもそもミンたちが就職できなかったというスタートラインが色々示唆している――それは日本の今と通じる物があるだろう――し、ドキュメンタリー調に映し出される彼女たちの生きる町の風景には、私たちの見慣れない風景と見慣れた風景が混ざりあい、そして人々の日常が根付いている。あるシーン、道の真ん中でミンがダンスを披露する他愛ない場面があるのだが、そこに映りこむ普通の人々の姿に、私たちは2人が生きる中国という国を身近に感じる、そんな素敵な一瞬があったりする、でもその親しみの中にはかすかな痛みもあって、それがこの""をかけがえのない存在にしてくれる。

"女导演"は2人の絆と中国の今を重ね、鮮やかに描き出していく。移り変わる日々は少し残酷でもあるけれど、それでも変わらないものだってあるのだと、そう私たちに優しく語りかける[B+]

杨明明は1987年北京に生まれた。中国の少数民族の一つであり、中国最大のムスリム民族でもある回族の生まれだそうだ。中国国立演劇大学で監督業について学び、2012年この"女导演"で監督デビューを果たす。ここからはインタビューを紹介していこう。“この映画の出発点は自分へのこんな問いでした――ほとんどの男たちが避けたいと思っているシチュエーションとは何だろう?”その問いの答えが""という訳だ。彼女は中国で作られるメロドラマやロマコメにおける人物描写について“率直すぎるし、シンプルすぎる”と言い“私はもっと多くのことを求めていました”*1と語る。

私的にはあまり注目していなかったが、監督はこの映画で中国社会における男女の関係性について描こうとしていたそうだ。ミンとユエが男に依存するのは階級問題や、中国社会における唯物主義以外の全ての価値の消失と密接に関わっているとして、監督は次のように語る。“ほとんどの女性は、自分がウェイトレスや清掃作業員であったら幸せではないと思っています。社会で何の地位も築いていないからです。色々な選択肢がありますが、地位を築くにはそれがベストということで男たちに依存してしまいます。それは輸出入業のようなもので、双方に有益なゆえにその取引は起こってしまうと”*2

監督は今作について“私はこの作品が女性映画だとは意識していません。もっと詳しく言えば、この作品の全てが女性映画である訳ではありませんが、極私的的イメージを映すことで公共を描いているとは思っています。この映画はフェミニズム的色彩を持った社会的問題についての作品なんです。そして3Dで描かれるWeibo(微博、中国版Twitter)という側面もあります”と語り、“前近代的な社会においては、男と女の間には大きな差異があり、私たちはどちらが遠くまで石を投げられるか競いあったことでしょう。しかし今日、男と女の間には身長、体重、知性においても違いは殆どありません。いわゆる女性監督が直面する問題というのは男性監督も同じく直面するものなのです”*3だそうだ。ということで、監督の今後に期待。


参考文献
http://www.goethe.de/ins/cn/en/lp/kul/mag/flm/11243649.html(北京女性映画祭のパネルまとめ記事)
http://www.timeoutbeijing.com/features/Books__Film-Interviews__Features/20815/New-directions-Yang-Ming-Ming-interview.html(監督インタビュー)
http://www.international.ucla.edu/asia/event/10716(監督プロフィール)

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