鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Léa Forest&"Pour faire la guerre"/いつか幼かった時代に別れを告げて

何度か私はこのブログで配信サイトMUBIについて話している。このサイトは日本では観るのが難しい映画を鑑賞できる意味で本当に最高でマジみんな入りなよ、月額600円だよ!って感じだが、Twitterなどでは旧作が観れるのが有難いって声ばかりで、ここでしか観られない新鋭の作品を観ているって声は余りない。私は新しい映画ばかり観て、ブログ書いてる訳だが、本当今まで名前も何も聞いたことがない作品ガンガン配信されて、もうだからMUBIって超最高!と連日思っている。さて今回紹介するのも昨日まで存在すら知らなかったフランスの新たな才能だ。

Léa Forestは1988年フランスに生まれた。コメディ・フランセーズ出身のNazim Boudjenaの元で演劇を学び、2009年には彼が新人俳優8人のために執筆した"The Sun Have a Rendez Vous with the Moon"に出演を果たす。その後も演出家Delpine Elietやダンサー・振付師のCecile Loyerらの元で学び、2011年にはElietの率いるパフォーマンス集団"Happy Actors"に所属、そんな彼女はチリ人舞台俳優Cosme Castroと出会い、それをきっかけに作り手としての道を歩み始め、2013年には彼女にとって初監督作である短編"Pour faire la guerre"(英題: Waging War)を手掛ける。

大いなる自然が広がるフランスの辺境、その村に建つ邸宅に集まったのは7人の若者たち(Bastien Bouillon, Cosme Castro, Léa Forest, Clara Hedouin, Mathias Pradenas, Paul Renoult, Justine Bachelet)だ。親戚である彼らは久しぶりの再会を喜ぶ……かと思えばそうでもない。テーブルを囲み会話を繰り広げ、いつしか互いへの悪口が唇から飛び出し、声もその荒らぎを増していく。自分のやりたいことが解らないんなら、早く現実と向き合うべきじゃないの?なんて辛辣な言葉が飛び交い、再会は苦いものとなってしまう。

だが彼らは倉庫でとあるスーツケースを見つける。その中に入っているのは子供時代に着ていたコスチュームの数々だ。懐かしさに浸る彼らは、あの時と同じようにこれを付けてゲームをしないかと提案する。2つのチーム、2つの領土、境界線を越えて相手の領地からお宝のビンを全て奪った方が勝ち、そしてゲームは幕を開ける。

撮影監督Balthazar Labが手掛けたモノクロの端正な映像によって綴られるこの"Pour faire la guerre"は、観る者を夢心地へと誘う。誰しもが過ごしただろう幼さという名の時代、だが私たちは1秒1秒ごとにそこから遠ざかっていき、それと同時に、実際にはそうでなかったにしろ、心の中で時代は温もりに満ちた懐かしさを宿し始める。あの頃に戻りたい、そんな願いが彼ら/彼女たちを少年/少女に戻していく。大声を上げて庭を駆け回る少年、彼を追いかけそして芝生の上へ一緒に倒れこむ少女、皆の顔にはバカみたいな笑顔が浮かんでいる。

だが彼らはただ無邪気に子供でいられる訳ではない、あの頃とは確実に何かが違っているとそんな予感も監督たちは滲ませる。不思議とこの作品の全編に流れるのは、幼さという概念からはかけ離れたエロティックな感覚だ。皆は子供のように戯れながらも、その荒々しかったり、親密だったりする戯れからは性の匂いがそこはかとなく漂ってくる。この存在が今作を美化された過去の連なり以上に、それぞれの時代が奇妙に混ざりあう無二のユートピアへと昇華していくのだ。

しかし当然だが、どんな遊びにも終わりは等しくやってくる。段々と日は沈み、闇が彼らの元に降りてくる。テントの中に集まった7人は身を寄せあいながらこの終わりを噛み締める。これはつまり彼らにとって幼さの本当の終わりでもあるのだ、全てが単純だった時代は幕を閉じ、もうシンプルでは居られなくなる。そうして私たちはあの時代に別れを告げる、"Pour faire la guerre"はそんな別れについての短くも美しい物語だ。

監督たちは映画についてこう語っている。

"この作品で、私たちは子供から大人になる過程を、そして誰かが"あの時代はもう過ぎ去ったのだな"と悟ったその瞬間についてを描きたかったんです。しかし同時に子供たちが遊び回る時に見せる本能的な残酷さ、そこに立ち戻ることであの時代を完全に手放さないよう苦闘する姿も描いています。

"共にある"というのはどういうことを意味しているのか?遊びが終わり現実が始まる場所とはどこか?社会のきまりがその重要性を失うのはいつなのか?

私たちの映画は現実を可能な限り現実のままにしながら、いかに素晴らしい物語を語れるかについての試みなんです。私たちの目的は人生をただ説明するのではなく、それをそのままに映し出し、観る者に感じさせることなのです。

今作はそういった物語を登場人物と、願わくば観客たちが旅するための映画です。しかし私たちはそういった期待は脇に置き、予測など忘れ去り、"描かれない物を理解する必要などない"ということを受け入れるべきなのです"*1

2014年にはCastro監督の単独作"Jeanne"で脚本と出演を兼任、末の妹が亡くなったという報せを聞き、残された3人の姉たちは故郷の農場へと集まる……というドラマ作品で、フランス各地の映画祭で上映され話題となる。そして今年にはCastro監督と共同での初長編"Nous sommes jeunes et nos jours sont longs"(英題:We are Young and Our Days are Longs)が上映予定、アーヴル出身の6人の若者がバイクでフランスを旅する姿をドリーミーな筆致で描き出すロードムービーだそう。ということでForest監督の今後に期待。


Cosme Castro監督とForest監督揃い踏み。正に美女と野獣って感じな。

参考文献
http://www.punchlinecinema.com/en/project/court-metrage/waging-war(映画紹介ページ)

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その120 サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく
その121 Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜