鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ベン・ウィートリー&"Down Terrace"/自分の嫌いな奴くらい自分でブチ殺せるよ、パパ!

ベン・ウィートリー、この名前にピンとくる方は筋金入りのカルト映画好き、そんな時期もあった。ブリテン諸島から突如現れた異形の作品「キル・リスト」でその名を轟かせ、日本においても(変なジャケットで)DVDスルーになった際余りのヤバさで話題になった。次回作「サイトシアーズ」は劇場公開、これまたドス黒いブラック・ユーモアで話題を集め、しかししばらく音沙汰がなかった頃、降って沸いたのがJ・G・バラード原作×トム・ヒドルストン主演「ハイ-ライズ」が8月に劇場公開という報せだった。わーお、前作の"Field in England"は結局日本未公開だったのに、こいつはトムヒファン様々だい!と思ったのだが、ここでベン・ウィートリーのキャリアを振り返るには良い機会ではないだろうか(ちょっと早すぎ?)ということで、私の気分に従い何回かに分けて、彼の長編作品を見ていきたいと思う。まずはウィートリー記念すべきデビュー長編"Down Terrace"を紹介して行こう。

ムショ帰りである父のビル(Robert Hill、脚本も担当)と息子のカール(Robin Hill、脚本と編集を兼任)は久しぶりに愛しき我が家へと足を踏み入れる。母のマギー(Julia Deakin)や伯父のエリック(David Schaal)に迎え入れられカールたちは喜びを噛み締めるのだが、そこには隣人の豚野郎ガーヴェイ(Tony Way)の姿もあった。2人にとっては居るだけで虫酸の走る存在だったが、彼をブン殴るより先にやることがある。それは2人をムショにブチ込んだ裏切り者を探すことだ。そんな中でエリックは釈放祝いにとカールだけにひっそりとある物を見せる――光りして禍々しい拳銃を!これが犯罪一家の再出発1日目であった。

"Down Terrace"に広がるのは労働者階級に生きる人々が見つめる荒涼たる風景の数々だ。色彩を殺ぎ落とされた家の壁、洗われていない食器が乱雑に散らばる台所茶色いシミのへばりついた窓を這うのは小さな蜘蛛。そんな何とも言えない空気の満ちる家で異色のファミリードラマが演じられる訳だ。

息子のカールは34歳、ムショにブチ込まれている時以外は一度も実家を離れたことがなく、犯罪を犯す度胸はあるが両親に楯突く度胸もない。母のマギーは家族を支える専業主婦だが、殺る時は殺るこの一家に相応しい女性だ。父のカールはここらでは名の知られた凶悪な犯罪者で、その一方でアコースティックギターを巧みに弾きこなす音楽好きの一面もある。ある時にカールは息子をこう諭す、世界は三角形で構成されている、善なる物、真正なる物、美なる物によってだ。どれ1つでも欠けていれば翻ってそれはどれ1つでもなくなる、分かったか?……そんな家には強烈な人間たちが集まってくる、伯父のエリックやクソ隣人ガーヴェイに加え、殺し屋のブリングス(マイケル・スマイリー、ウィートリー作品の殆どに出演)は自身の息子と一緒に異様なハイテンションでやってきてこの家庭に嵐を巻き起こす。

そんなある日家にヴァルダ(Kerry Peacock)という女性がやって来る。彼女はカールが刑務所にいた時に文通していた相手で、刑務所から出て実際に会ってまたブチ込まれ刑務所から出実際にて会ってまたブチ込まれの後、彼女は妊娠、もうじき出産を迎えようとしていたのだ。一緒に生きていこうと言う彼女に困惑するカール。だが本当にお前の子なのか、騙そうとしているんじゃないか?と口出ししてくる両親がいい加減うざったらしくなり、そしていい加減自分の人生を生きるためカールは実家を出ていくことを決心する。

ウィートリーにとってこの作品が長編デビュー作ながら、彼の今後に繋がる要素は随所に見え隠れしている。ビルたちはヴァルダを夕食へと招き、これから先どうするかといった話題に華を咲かせる。軽蔑を声に染み渡らせながら婉曲的に息子から離れろやと迫るビルたちだが、ヴァルダの方は息子を束縛し続けるのは止めろと喧嘩腰、両者は小気味良い罵倒語で殴りあいを始め、食卓の空気はクソッタレなほど冷たいものとなる。裏側にウィートリーのニヤついた悪意が煤けてみえるようなシークエンスの積み重ねは観る者をマジで不愉快な気分にさせるが、そこに何ともまあ場違いに爽やかなギターの音色が掛かってくるのが厭らしいったらありゃしない!

そしてウィートリーのもう1つの特色と言えば突発的な暴力である。決心を固めたカールの前には嫌味たらしい邪魔者が現れる訳で、彼はそいつを……BOOM!そして殺っちゃったら死体は処理しなくちゃならない訳で、その光景を監督はニヤニヤしながら見据えるのだ。ここからはビルによる裏切り者探しも同時並行で描かれる故に、いとも容易く且つバラエティ豊かに人々がブチ殺されていく。ここにおいて人殺しはエンターテイメントの一種なのである。

こうして暴力によって物語のトーンが徐々に変わり行く中で1つ重要なテーマが露になっていく。カールはいつであっても偉大なる父ビルにコンプレックスを抱いてきた。それ故にいつだって彼が敷いてきたレールを進み、此処まで来てしまった。そんな状況で監督は凄惨な暴力にこそダメ人間の自我の芽生えを見出だしていく。息子を束縛し家族という規範で以てがんじがらめにしようとする親に対し、カールは言うのだ、自分の道は自分で決める、自分のブチ殺したい相手は自分の手でブチ殺すんだよ、パパ!


ブリテン諸島映画作家たち
その1 Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?
その2 Sally El Hosaini&"My Brother the Devil"/俺の兄貴は、俺の弟は
その3 Carol Morley&"Dreams of a Life"/この温もりの中で安らかに眠れますように
その4 アンドリュー・ヒューム&"Snow in Paradise"/イスラーム、ロンドンに息づく1つの救い
その5 Daniel Wolfe&"Catch Me Daddy"/パパが私を殺しにくる
その6 私が"The Duke of Burgundy"をどれだけ愛しているかについての5000字+α
その7 Harry Macqueen&"Hinterland"/ローラとハーヴェイ、友達以上恋人以上
その8 Clio Barnard&"The Arbor"/私を産めと、頼んだ憶えなんかない
その9 Joanna Coates &"Hide and Seek"/どこかに広がるユートピアについて
その10 Gerard Barrett&"Glassland"/アイルランド、一線を越えたその瞬間

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その120 サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく
その121 Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜
その122 Léa Forest&"Pour faire la guerre"/いつか幼かった時代に別れを告げて
その123 Mélanie Delloye&"L'Homme de ma vie"/Alice Prefers to Run
その124 アマ・エスカランテ&「よそ者」/アメリカの周縁に生きる者たちについて
その125 Juliana Rojas&"Trabalhar Cansa"/ブラジル、経済発展は何を踏みにじっていったのか?
その126 Zuzanna Solakiewicz&"15 stron świata"/音は質量を持つ、あの聳え立つビルのように