鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Kerékgyártó Yvonne&"Free Entry"/ハンガリー、彼女たちの友情は永遠!

2015年から2016年にかけて、何故だか日本でハンガリー映画が連続で公開されることとなった。11月にはカンヌ映画祭ある視点部門でグランプリを獲得したコーネル・ムンドルッツォ「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」が、12月にはキテレツ日本描写が話題となりハンガリー映画賞では作品賞含む7部門を制覇したウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督作「リザとキツネと恋する死者たち」が、そして1月にはラースロー・ネメシュ監督によるホロコーストの地獄を語り継ぐために作られた凄まじいまでの圧力を持った傑作サウルの息子が公開された。とそんなハンガリーめいている中で、今回はハンガリー映画界の新鋭Kerékgyártó Yvonneと彼女の長編デビュー作"Free Entry"を紹介して行こう。

Kerékgyártó Yvonneは1989年ハンガリーに生まれた(この名前どう呼ぶのだろうか、ケレークギャールトー・イヴォンネだろうか……?)ブダペスト演劇映画芸術大学、ミュンヘン映画テレビ大学でドラマツルギーや脚本執筆について学ぶ。2009年に短編"Youtube Girls"で監督デビュー、2011年には"Pinkwater"と"Facebook-Molotov"を製作、前者は14歳の少女アンディがハンサムな水泳コーチに恋をして……という青春映画で日本のショートショートフェスティバル&アジア国際短編映画祭でも上映された。2012年には今回紹介する作品の元となった"FreeEntry"を手掛け、翌年にはベルリナーレ・タレント・キャンパスに選ばれた後、2014年に初の長編監督作"Free Entry"を手掛ける。

べティ(Pusztai Luca)はハンガリーの小さな町に住む16歳の少女、彼女はこの夏ある大きな冒険に出掛けようとしていた。車の中で父が「お前の頭ボサボサだぞ」なんてムカつくこと言ってくる、私が好きでやってんだからほっといてよ!なんては返せずブスッとした不機嫌顔で彼を睨み付けるとそんな道中。駅で待っているのは友達の"V"(Barta Ágnes)、自分よりもイケてて、自分よりもオシャレで、だから大好きな親友だ。行き先はブダペストのオーブロ島、そして忘れられない1日が幕を開ける。

スィグト・フェスと聞いてピンとくる人は相当の音楽好きだろう。ヨーロッパ最大級の音楽フェスで、世界から40万人もの人々がドナウ川の中州に位置するオーブロ島へと詰めかけ、1週間ものあいだ音楽に酒に映画に恋に馬鹿騒ぎしまくる。べティたちはそんな場所に足を踏み入れる訳だが、お金はないのでパスはなしのGate-crash!持ち物はカラフルでキュートな小物の数々とそしてマリファナ!これを売り捌いて食べ物や飲み物を買い漁るって魂胆だ。何とも大胆でヨーロッパすごいなという感じだが、2人でやれば怖くない!友情は無敵!とでもいった風に、マリファナ売ってピザ食べて、盗んだメロンを河原の石で砕いてモシャモシャ食べるのだから観てるこちらも楽しくなってくる。

そんな友情の合間には勿論コンサートの様子も映し出される。デヴィッド・マッケンジー「One Night,One Love/ワンナイト、ワンラブ」よろしく、響き渡るビートに身を委ねる観衆の真っ只中にカメラが突入し、臨場感たっぷりの映像が流れまくる。映画ファンには「チャッピー」でお馴染み南アフリカのテンシヨンコンビDie Antwoordハンガリーを代表するオルタナバンドQuimbyらの音楽がガンガン響き、テンシヨン上がってきたアアアアアアアアアア!!!

だけど、だけどもそう楽しいだけが青春じゃない。2人は気の向くままフェスに来ている青年たちと行動を共にするのだが、"V"が彼らと良い感じの雰囲気になる中でべティは蚊帳の外に締め出されている心地になってしまう。イチャついてる"V"を横目にべティはあのブスッとした不機嫌顔を浮かべる、この些細なスレ違いは2人の道を分かつことになり、彼女たちはそれぞれに青春の限界というものを目の当たりにすることとなる、澄んだ水の中に、そしてギターの音色の中に。

"Free Entry"はたった1日の夏の日を通じて、少女たちがただ幼いだけではいられない事を知る姿を瑞々しく描いた作品だ。それでも彼女たちはギターを掻き鳴らしながら未来に向かって叫ぶ、私たちは溢れる尿の上を船で行く!立ち向かわなくちゃいけないクソがたくさんある!それでも、それでも!


2人の身に付けてる小物がカラフルですっごい可愛いのも注目!

私の好きな監督・俳優シリーズ
その51 Shih-Ching Tsou&"Take Out"/故郷より遠く離れて自転車を漕ぎ
その52 Constanza Fernández &"Mapa para Conversar"/チリ、船の上には3人の女
その53 Hugo Vieira da Silva &"Body Rice"/ポルトガル、灰の紫、精神の荒野
その54 Lukas Valenta Rinner &"Parabellum"/世界は終わるのか、終わらないのか
その55 Gust Van den Berghe &"Lucifer"/世界は丸い、ルシファーのアゴは長い
その56 Helena Třeštíková &"René"/俺は普通の人生なんか送れないって今更気付いたんだ
その57 マイケル・スピッチャ&"Yardbird"/オーストラリア、黄土と血潮と鉄の塊
その58 Annemarie Jacir &"Lamma shoftak"/パレスチナ、ぼくたちの故郷に帰りたい
その59 アンヌ・エモン&「ある夜のセックスのこと」/私の言葉を聞いてくれる人がいる
その60 Julia Solomonoff &"El último verano de la Boyita"/わたしのからだ、あなたのからだ
その61 ヴァレリー・マサディアン&"Nana"/このおうちにはナナとおもちゃとウサギだけ
その62 Carolina Rivas &"El color de los olivos"/壁が投げかけるのは色濃き影
その63 ホベルト・ベリネール&「ニーゼ」/声なき叫びを聞くために
その64 アティナ・レイチェル・ツァンガリ&"Attenberg"/あなたの死を通じて、わたしの生を知る
その65 ヴェイコ・オウンプー&「ルクリ」/神よ、いつになれば全ては終るのですか?
その66 Valerie Gudenus&"I am Jesus"/「私がイエス「いや、私こそがイエ「イエスはこの私だ」」」
その67 Matias Meyer &"Los últimos cristeros"/メキシコ、キリストは我らと共に在り
その68 Boris Despodov& "Corridor #8"/見えない道路に沿って、バルカン半島を行く
その69 Urszula Antoniak& "Code Blue"/オランダ、カーテン越しの密やかな欲動
その70 Rebecca Cremona& "Simshar"/マルタ、海は蒼くも容赦なく
その71 ペリン・エスメル&"Gözetleme Kulesi"/トルコの山々に深き孤独が2つ
その72 Afia Nathaniel &"Dukhtar"/パキスタン、娘という名の呪いと希望
その73 Margot Benacerraf &"Araya"/ベネズエラ、忘れ去られる筈だった塩の都
その74 Maxime Giroux &"Felix & Meira"/ユダヤ教という息苦しさの中で
その75 Marianne Pistone& "Mouton"/だけど、みんな生きていかなくちゃいけない
その76 フェリペ・ゲレロ& "Corta"/コロンビア、サトウキビ畑を見据えながら
その77 Kenyeres Bálint&"Before Dawn"/ハンガリー、長回しから見る暴力・飛翔・移民
その78 ミン・バハドゥル・バム&「黒い雌鶏」/ネパール、ぼくたちの名前は希望って意味なんだ
その79 Jonas Carpignano&"Meditrranea"/この世界で移民として生きるということ
その80 Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから
その81 彭三源&"失孤"/見捨てられたなんて、言わないでくれ
その82 アナ・ミュイラート&"Que Horas Ela Volta?"/ブラジル、母と娘と大きなプールと
その83 アイダ・ベジッチ&"Djeca"/内戦の深き傷、イスラムの静かな誇り
その84 Nikola Ležaić&"Tilva Roš"/セルビア、若さって中途半端だ
その85 Hari Sama & "El Sueño de Lu"/ママはずっと、あなたのママでいるから
その86 チャイタニヤ・タームハーネー&「裁き」/裁判は続く、そして日常も続く
その87 マヤ・ミロス&「思春期」/Girl in The Hell
その88 Kivu Ruhorahoza & "Matière Grise"/ルワンダ、ゴキブリたちと虐殺の記憶
その89 ソフィー・ショウケンス&「Unbalance-アンバランス-」/ベルギー、心の奥に眠る父
その90 Pia Marais & "Die Unerzogenen"/パパもクソ、ママもクソ、マジで人生全部クソ
その91 Amelia Umuhire & "Polyglot"/ベルリン、それぞれの声が響く場所
その92 Zeresenay Mehari & "Difret"/エチオピア、私は自分の足で歩いていきたい
その93 Mariana Rondón & "Pelo Malo"/ぼくのクセっ毛、男らしくないから嫌いだ
その94 Yulene Olaizola & "Paraísos Artificiales"/引き伸ばされた時間は永遠の如く
その95 ジョエル・エドガートン&"The Gift"/お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れはしない
その96 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その97 アンジェリーナ・マッカローネ&"The Look"/ランプリング on ランプリング
その98 Anna Melikyan & "Rusalka"/人生、おとぎ話みたいには行かない
その99 Ignas Jonynas & "Lošėjas"/リトアニア、金は命よりも重い
その100 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その101 パヴレ・ブコビッチ&「インモラル・ガール 秘密と嘘」/SNSの時代に憑りつく幽霊について
その102 Eva Neymann & "Pesn Pesney"/初恋は夢想の緑に取り残されて
その103 Mira Fornay & "Môj pes Killer"/スロバキア、スキンヘッドに差別の刻印
その104 クリスティナ・グロゼヴァ&「ザ・レッスン 女教師の返済」/おかねがないおかねがないおかねがないおかねがない……
その105 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その106 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その107 ディアステム&「フレンチ・ブラッド」/フランスは我らがフランス人のもの
その108 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その109 Sydney Freeland&"Her Story"/女性であること、トランスジェンダーであること
その110 Birgitte Stærmose&"Værelse 304"/交錯する人生、凍てついた孤独
その111 アンネ・セウィツキー&「妹の体温」/私を受け入れて、私を愛して
その112 Mads Matthiesen&"The Model"/モデル残酷物語 in パリ
その113 Leyla Bouzid&"À peine j'ouvre les yeux"/チュニジア、彼女の歌声はアラブの春へと
その114 ヨーナス・セルベリ=アウグツセーン&"Sophelikoptern"/おばあちゃんに時計を届けるまでの1000キロくらい
その115 Aik Karapetian&"The Man in the Orange Jacket"/ラトビア、オレンジ色の階級闘争
その116 Antoine Cuypers&"Préjudice"/そして最後には生の苦しみだけが残る
その117 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その118 アランテ・カヴァイテ&"The Summer of Sangaile"/もっと高く、そこに本当の私がいるから
その119 ニコラス・ペレダ&"Juntos"/この人生を変えてくれる"何か"を待ち続けて
その120 サシャ・ポラック&"Zurich"/人生は虚しく、虚しく、虚しく
その121 Benjamín Naishtat&"Historia del Miedo"/アルゼンチン、世界に連なる恐怖の系譜
その122 Léa Forest&"Pour faire la guerre"/いつか幼かった時代に別れを告げて
その123 Mélanie Delloye&"L'Homme de ma vie"/Alice Prefers to Run
その124 アマ・エスカランテ&「よそ者」/アメリカの周縁に生きる者たちについて
その125 Juliana Rojas&"Trabalhar Cansa"/ブラジル、経済発展は何を踏みにじっていったのか?
その126 Zuzanna Solakiewicz&"15 stron świata"/音は質量を持つ、あの聳え立つビルのように
その127 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来