鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Sébastien Laudenbach&"La jeune fille sans mains"/昔々の、手のない娘の物語

さてアニメーションである。この記事を書く前に調べてみたのだが、ブログで300本以上の映画をレビューしてきたのに、実は今まで1度もアニメーション映画を取り上げてこなかったらしい。別にアニメが嫌いな訳ではなく、映画にハマる10年以上前は超アニメを観まくっていて(オールタイムベストはガン×ソードぱにぽにだっしゅ!)今もジョジョの奇妙な冒険ヒラコー原作のドリフターズなんかは観たりしている。が、まあ確かに映画となると話は変わってきてピクサージブリもロクに観ていない体たらく振りではある。ということで今回は本ブログ初めてのアニメ作品“La jeune fille sans mains”とその監督Sebastien Landenbachを紹介していこうと思う。

Sébastien Laudenbachは1973年10月12日に生まれた。映画作家として活動する一方で、グラフィック・デザイナーとして映画/映画祭ポスター(カンヌ映画祭ACID部門やヴァンドーム国際映画祭)を製作したり、2001年からはパリ国立高等美術学校(EnsAD)で教鞭を取っていたりと多方面で活躍している。

映画監督としてはまず1998年の"Jounal"でデビュー。とある小説家の日記が美しいアニメーションで綴られる短編作品で、クレルモン=フェラン国際映画祭で審査員賞を獲得するなど華々しいデビューを飾る。2004年には離ればなれになったカップルが最後に過ごす1夜を描く短編"Des câlins dans les cuisines"、2009年にはハル・ハートリーのミューズであるエリナ・レーヴェンソンを主演に迎えたアニメ短編"Regarder Oana"を製作し、着々とキャリアを積み上げていく。2010年の"Vasco"カンヌ国際映画祭批評家週間に選出、2012年の"Les Yeux du renard"はイタリア人監督Chiara Maltaとの共同監督作、2015年の"Daphne"ジンチョウゲの花が巡る一生をアニメーションで描くドキュメンタリーだ(以上、抜粋映像が公式vimeoで観れます)そして2016年には彼にとって初の長編監督となるアニメーション"La jeune fille sans mains"を完成させる。

物語の舞台はどこか遠くにある国の、そのまた遠くにある山の奥、ここには1人の娘(ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリー」アナイス・ドゥムースティエ)が両親と身を寄せあいながら暮らしていました。しかしその暮らしぶりは楽ではありません。近くの川は干からびて、狩りも上手く行かず、娘たちは飢えていくしかありません。そんなある日狩りに向かった父親がある老人(「熟れた本能」フィリップ・ローデンバック)から1本の瓶を手渡されます。その中の液体を一粒飲むと、何と川から無限の黄金が流れてき他のです。家族は大喜びでその黄金を手にするのですが、彼らは老人が悪魔であることに気づいていませんでした……

今作でまず特徴的なのは人物や物を形作る線の独特さだ。緻密に描き込むのではなく、逆になるべく簡略化することで空白にこそ描く対象を語らせようとするのだ。数少ない線と色彩によって浮かぶ娘たちの姿はその空白分、生命力で満たされ、溌剌な魅力が宿すことになる。おそらく水墨画の手法に多大なる影響を受けたのだろうこの筆致は、中途半端な描き込みよりも豊かに観客の想像力を刺激していく。

そんな中で物語は清く正しく昔話の道筋を進んでいく。黄金のおかげで豪奢な生活を送る家族だったが、ある時あの悪魔が姿を現し、代償として娘を生け贄にしろと要求してくる。それを拒否する家族だったが父は堕落し、母は悪魔の使いに惨たらしく殺害され、そして娘は悪魔に見いられた父の手で腕を切断されてしまう。それでもその純粋さから悪魔から逃げ出した娘は山を彷徨するうち、1人の美しい王子(「ベルヴィル・トーキョー」ジェレミー・エルカイム)に救われ、彼と結婚することとなる。

この昔話という枠においてLandenbachの才覚は美しい輝きを見せる。本作を観る間に私たちは2つの種の筆致の存在に気がつく筈だ。まず1つが大筆の荒々しさだ。例えば描かれる木々のベタ塗りによって木の葉が広がる様は酷く大胆で、且つ木の幹の武骨な皮は、硬筆を強く紙に押し当てられ生まれる線の中で生まれたかのような力強さを誇っている。そして聳え立つ断崖、赤茶色と空白に満ちる無色という2つも色彩で描かれるそれはそのシンプルさからは想像しがたい雄々しさで観客の視界を覆っていく。

だがもう1つの筆致は細筆の繊細さを宿している。腕を切り落とされた娘が大いなる自然を彷徨う時、彼女は水溜まりで喉を癒すことになる。その時水の表面には雨の珠が降り注ぎ、2つは反発しあい小さな小さな飛沫が生まれるのだ。しかし腹の餓えばかりは満たせず、命からがら辿り着いた王子の領地で、娘は1つの梨を口にする。その時、甘美な安らぎを伴った果汁が娘の顔をスッと伝っていく。Landenbachはその美しい瞬間を見逃さない。荒々しさと繊細さ、通底する2つの感覚が本作をより豊かな物としていく。

そして2つが交わりあう時、更に生まれる物が存在する。娘はしばしの間、王子と幸福な時間を過ごすが、突如勃発した戦争は彼を戦地へと導いていく。忠実な庭師(恋愛睡眠のすすめサッシャ・ブルド)と共に彼の帰りを待つ娘だったが、自身が彼の子供を宿していることに気がつく。こうして物語の中に身体性というべき要素が現れ始めるのだが、彼の描く肉体は驚くほどリアルだ。彼は最小限の線によって娘や赤子の輪郭を縁取っていくが、そうして綴られる肉体にはデフォルメを越えて、骨と筋肉を覆う脂肪の質量が目に迫るような感覚がある。肉体の凹凸や動きによって出来る皺、そういった生々しさがキチンと存在している。そうして物語は赤子と共に悪魔に翻弄される娘の姿を描くが、彼女たちの身体の線は自然が抱く大胆で繊細な線と一体化し、生の解放感へと導かれていく。

今作はグリム童話の一篇「手なし娘」が基となっているフランス映画だが、水墨画のような筆致や描かれる文化の姿から、中国や日本の昔話を観ているような心地になるかもしれない。個人的にはライカの新作アニメーション“Kubo and Two Strings”と並べて観てみたい一作だ。

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