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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?

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リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
リン・シェルトンの経歴および長編作についてはこちらの記事参照

さて、リン・シェルトンは前々からデュプラス兄弟の初監督作である“The Puffy Chair”が好きだと公言していた。その通り、第2長編“My Effortless Brilliance”はデビュー長編とは全く趣の異なるマンブルコア的な演出に肉薄することとなった。そしてその後、彼女はクレイグ・ジョンソン監督作で弟マークが主演した作品“True Adolescence”にスチール・フォトグラファーとして参加、マークと実際に知り合うことになる。その後、マークへ電話をかけたのをきっかけに、彼女はとある物語の構想について話し、トントン拍子で作品の共同製作が始まる。そうして出来た作品こそがシェルトンの第3長編である“Humpday”だった。

この作品の主人公はベン(ゼロ・ダーク・サーティ」マーク・デュプラス)という平凡な中年男性、彼は最愛の妻であるアンナ(「不都合な自由」アリシア・デルモア)と自分たちで買った一軒家で幸せに暮らしていた。しかしある時、午前2時という深夜真っ只中にチャイムを鳴らす音が響く。怪訝に思いながらベンが玄関ドアを開くとそこにいたのは大学時代からの親友アンドリュー(6年愛」ジョシュア・レナード)だった。何の脈絡もなく起こされたアンナの不機嫌さを尻目に、2人は再会を喜びあう。

アンドリューという男は、言ってみればベンとは正反対の男だ。1つの場所に居住することを好まず、1年中世界を旅するような日常という言葉とはかけ離れた冒険野郎である。という訳で彼はシアトルに着いてベンと再会した直後、早速自分と同類らしいおかしなカップル・モニカ(シェルトン監督が兼任)とリリー(Trina Willard)と友人になる。彼女たちが開くパーティーに、ベンも参加するのだが、そこである話題が持ち上がる。近いうちにポルノ映画の祭典が近くで開催されるのだという。そこでアンドリューが何を思ったか、ベンに一緒にゲイポルノ映画を作ろうじゃないか!と誘ってきたのだったが……

と、おかしなあらすじかもしれないが、シェルトン監督は今作のアイデアについてこんな言葉を残している。“この構想はある映画作家の経験がきっかけで生まれました。彼はポルノ映画祭に行って、ゲイポルノを観るという経験に魅了されたんです。これまで1本もそういった作品は観たことなかったし、彼はストレートでした。ですが彼は何日にも渡ってゲイポルノについて話し続けてたんです。

私はストレートの男性とゲイポルノの関係性、彼らが自分たちとゲイ男性のセックスとの関係性に感じる残留不安に興味を惹かれました。おそらく彼らは考え自体には拒否感を示すことはないでしょうが、同時に'自分もゲイではないか?'という心配をも抱えているのではないか。不安はそこら中にあるんです。だから思ったのは'それで何か出来たらどうだろう?'ということです。それが映画製作の契機であり、男性たちの中にはそれに悶えている人もいるようですけど”*1

という訳で“Humpday”の題材はゲイポルノ製作である。ではストレートの男友達2人がゲイポルノを作る故に一種のカルチャーギャップ・コメディになるかと言えば、それは全く違う。シェルトン監督はにあくまで真剣な、この題材を通じて描き出したい大事な要素が存在していると言っていいだろう。

前作“My Effortless Brilliance”において即興演技やそれに起因する自然体などマンブルコア的な演出を指向していたが、マーク・デュプラスが関わっていることもあってその指向が更に推し進められている。物語の推進力は飾らない自然体の会話の数々であり、その様子を撮影監督のベンジャミン・カサルスキー Benjamin Kasulkeは手振れカメラで生々しく描き出していく。そして幾度も対話を繰り返しながら、俺たちは親友だしゲイポルノくらい作れるぜ!と2人は製作を決定してしまう。

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その決断が波紋を呼ぶのは当然だろう。妻のアンナは自分の夫がポルノ映画なんかを撮ることにはもちろん反対、激怒の末に2人を追求していく。そして2人自身、いざゲイポルノを製作することを決定したとなると、何か変で不思議な雰囲気がその間に流れていく。自分たち本当にポルノ撮るのか、そうしたら俺たちの友情とか永遠に変わっちゃうんじゃないか……

だが、何故平凡な男であるベンがアンドリューの奇妙な提案に乗ることにしたのだろうか。彼は激怒するアンナに対してこう説明する。自分には今とは別の側面が存在してる、今見せてる側面を君が気に入ってくれたから僕は今こんな風でいるけど、それはつまり今自分はその別の側面を押し留めているということなんだよ、僕はその別の側面がどういうものなのか探求したい、自分の目で確かめてみたいんだと。その言葉の裏には、若い頃ビデオ屋の店員である青年に性欲を覚えたことに由来すると、ある時アンドリューとの会話で明らかになる。もしその別の側面を抑圧することがなければ、自分には別の人生があったのではないか。つまりはそれが原動力なのだ。こうであったかもしれない自分を見つけ出すという願いがそこにはあるのだ。

そしてもう1つ重要なものに2人の間に結ばれている友情の存在がある。ベンたちは軽い勢いでこの友情は永遠さ!という風な振る舞いをするが、その奥深くではこの友情は一体何なんだ?という疑問を同時に抱いてもいる。だからこそゲイポルノ撮影は、この友情がどんなものかを試す試練か実験のようなものでもありうる。だからこそ表面上は気軽さを装いながらも、実際は友情を賭けるほどの真剣さで以て2人はゲイポルノ撮影に望むのだ。

こうしてポルノ撮影が始まる訳だが、ホテルの一室で最初は和気藹々と勢いよくキスして“これはなかなか悪くないよな…………いややっぱ最悪だわ!”と笑いあったり、ビデオに自分たちが何故ポルノを撮影するか喋りかけたり、プールへ駆け込むみたいに楽しげに服を脱ぎ散らかしたりする。だが互いの裸を見つめるうちに、段々と2人の間に満ちる雰囲気が変容し、緊張感のような微妙な空気がその場を支配することになる。

ここに存在している友情という関係性への問いと剥き出しになる肉体性とは、正にマンブルコアが至上命題とする要素なのである。この2つが密接に繋がりあいお互いに作用しあうことで、現代の生活は築かれていく。ベンとアンドリューはその真実に直面しているのであり、この懊悩が物語世界をより深くし、今作にマンブルコアの代表的な作品の1つとしての名声を獲得させるのである。

“Humpday”はあらすじ自体、2人のストレートな男友達がゲイポルノを撮影するというものだが、コメディに舵を切ることはなく、自分が押し留めてきた側面を探り当てたい、俺たちの友情って一体何なんだ、そんな切実な思いの数々を濃厚に反映している。そしてその果てに、彼らは友情と愛情の間にある曖昧な何かを抱き止められるのだろうか。その光景には複雑な余韻が滲み渡る。

さて、このレビューを終える前に、シェルトン監督自身がマンブルコアという潮流について語っている言葉を紹介しよう。これらによれば彼女は、他の作家たちと同様にこのジャンル分けがお気に召さないようである。“(マンブルコアという言葉は)色々な意味でとても不適切ですよ。私が読んだ(マンブルコアについての)1つ目の記事には20代のーー殆どが白人男性のーー若者によるグループだという定義が載っていました。そして彼らは大学卒業後の不安や怠惰な生活についての映画を作っていると。私はそのどれにも当て嵌まりません。私は43歳の女性で、20代の若者についての映画なんて作ってませんからね。

当て嵌まるのはとても規模の小さいDIY的映画を限られたリソースで以て作っていること。ですからこういった側面、つまりはDIY的な感性、自分の映画を作るのに許可なんているか!という精神、とても高いレベルの自然主義などなどにおいては正しいです。誰かに許可をもらうなんて待ってられない!という考え方が好きなんです。勇気が出ますね。そして私は人間の真実や平凡なものの中にある詩情にこそ興味がある映画作家なんです。より小さな、登場人物たちによって牽引される物語に興味がある。思うにそういったもの全てによってマンブルコアと見なされるのでしょう” *2

"その言葉は好きじゃありません。2007年の9月、私はマーク(・デュプラス)とノースウェスト・フィルム・フォーラムのマンブルコアについてのパネルに参加したんですが、この潮流について'そういう映画って全部同じ様なものだろ'といった態度で質問してくる人がいました。ですから私は'それは800万ドルで作られている、脚本もキチンと書かれ35mmフィルムで作られた映画は全部同じ様なものと言うのと一緒ですよ'と言いました。これらの作品は誰が監督かによって大きく異なります。デュプラス兄弟の作品はジョー・スワンバーグの作品とは全然違いますし、スワンバーグの作品はアーロン・カッツとの作品とも全く違います。何故ってそれはもう完全に違う人物によって作られているからですよ。もちろん、仲間意識はありますけどね。*3

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参考文献
http://www.dailyfilmdose.com/2009/07/humpday-interview-with-lynn-shelton.html?m=1(監督インタビューその1)
https://m.huffpost.com/us/entry/226909(監督インタビューその2)
http://parallax-view.org/2009/07/09/interview-lynn-shelton-on-humpday/(監督インタビューその3)

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
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その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
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その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
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その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
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その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
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その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
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その62 サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独
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その68 ソフィア・タカール&「ブラック・ビューティー」/あなたが憎い、あなたになりたい
その69 アンドリュー・バジャルスキー&"Computer Chess"/テクノロジーの気まずい過渡期に
その70 アンドリュー・バジャルスキー&「成果」/おかしなおかしな三角関係
その71 結局マンブルコアって何だったんだ?(作品リスト付き)
その72 リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?