Thank God It's Friday!金曜日は良い日だ、明日は学校が休みだ、明日は仕事が休みだ、それじゃ何する?酒を飲むしかないだろ!酒が飲める!酒が飲める!酒が飲めるぞ!酒が飲める飲めるぞ、酒が飲めるぞ!……という人々は少なくないと思う。でもハメを外して飲みまくったら、翌日マジでとんでもないことやらかしてるってそんな経験がある人もまた多いと思う。ということで今回はやっちまった!!!な惨劇を描いたオーストラリア発のWebコメディ・シリーズ"Fragments of Friday"とその監督Kacie Anningについて紹介していこう。
Kacie Anningはシドニーを拠点とした監督・脚本家、北クイーンズランドのマッカイで生まれ育つ。2007年にはブリスベンへ引っ越しクイーンズランド工科大学に入学、美術学士号(映画&テレビ)を得る。卒業後はTV局ネットワーク・テンの子供番組Totally Wildでプロダクション・コーディネイターを担当していた。2009年、短編ドキュメンタリー"Red: The Decline of A People"で監督デビュー(以下、いくつかの作品が監督の公式サイトから観れます)、この作品はクイーンズランド新人監督賞でthe Best Producer & Innovation of Form Prizeを獲得する。2011年にはオーストラリア国営映画学校(AFTRS)の大学院で映画製作について学びながら3つの短編を監督することとなる。
まずは短編劇映画の"Happenstance"思いがけない出来事がきっかけで友情を育んでいく2人の少女を描いた作品だ。そして次は"Problems With A Girl & A Unicorn"、ジェシー(Nick Frost、いや同姓同名の別人である)は薄紫色のタイツ――角とロン毛ウィッグ付き――を着ているだけの変態にしか見えないユニコーンのエディ(Andrew Steel)と一緒に何故か住むハメになっている。が、何やかんや言って楽しい日々を過ごしている。そこに現れたのはキュートなジェス(Fiona Pepper)だ、ルームメイトとして彼女を迎えるのだが、エディは彼女のオールタイムベスト映画「カサブランカ」をSHIT呼ばわりしたりと不倶戴天って感じだ。スタンリーは2人の間で板挟みになり、悩みまくっていたら……荒唐無稽さの中にピリっと黒い笑い、これがなかなかで、且つ1番"Fragments of Friday"のテイストに似ている作品だろう。そして3作目が短編ドキュメンタリー"Far from You"だ。部屋に散らかる様々なもの、色褪せた写真の数々、そして娘と母が電話越しに交わす会話……Anning監督自身の旅立ちを情感豊かに描き出した自伝的ドキュメンタリーはアトランタ国際短編映画祭で最高実験映画賞を獲得する。この3本が認められ、Anning監督は才能ある新人監督に与えられるFoxtel奨学金(Foxtelはオーストラリアの有料TV会社)を勝ち取り、彼女はキャリアを着実に積み上げていく。
2012年、彼女はクラウドファンディングで資金を集め、Webシリーズ"Fragments of Friday"を監督する。今回紹介したいのはこの作品だ。が、2012年の9月から製作を開始、2013年の中旬には内輪でプレミアもやったのに、何故か配信されるとかそういうのはなかったらしい。なのでもう少しAnning監督のキャリアを追っていこう。2013年には短編"Emu"を監督、あるパーティーの夜、人生を変えるような発見をしてしまった女性アンナについてのブラックコメディだそう。そして2014年にはシドニーの製作会社The Fedsに就職、TVコマーシャルを何本も監督、クライアントにはディズニーやフェアファックス、シドニー・オペラハウスなどそうそうたる大企業が連なっている。で、やっと2015年まで来た訳である。新作短編"First & Second"を監督すると共に、そして彼女はEndemol Australiaから資金提供を受け"Fragments of Friday"の第2シーズンを製作、そして8月、まずはシーズン1の配信となったのだ。ということでまずは予告と1話を続けてどうぞ。この時点で面白かったらここで一気見できるよ!
アレックス(Anning監督が主演も兼任)とソフィー(Sarah Armanious)はルームメイトとして共に生活している。アレックスはいつもヘラヘラしていて適当に日々を過ごす典型的な大人こどもだ、一方ソフィーはブラジリアン・ワックスを使ったアンダーヘアケアで生計を立てたり、生き方は堅実。どう考えても気が合わなそうな2人だが、唯一の共通点は酒が大好きなこと。金曜日にはとにもかくにも酒を呑みまくり、次の日にはとんでもない結果に見舞われる。が、そんな失敗忘れて金曜日は酒飲みまくって再びの大失敗と、そんな日々の繰返し。
ある日、アレックスがベッドで目を覚ますと、横には謎の男。多分酔った勢いでヤッちゃったんだろう、でも頭にはデカい枕で覆われていて「カッコーの巣の上で」のラスト的な……もしかして殺っちゃった?アレックスが急いで部屋を出ると、廊下ではルームメイトのソフィーがガラスの容器にオボロロロロロと黄色いゲロをブチ撒けている。「アンタ、ゲロ吐くなら便器でしてこいよ!」「あんな遠くまで行けない……」そして調子が良くなったソフィーと2人で作戦会議、あの男一体誰なんだ、何か制服からしてタクシーの運転手で、胸辺りにRickyとか縫ってあって、でも……誰?互いに責任をなすりつけあいながら、2人は顔を覆う枕を剥ぎ取るのだったが……
こうしてアレックスとソフィーの、何がどうしてこんなことなってんだ……という頭抱える姿が全編通じて描かれていくのだが「ハングオーバー!」以後の二日酔いコメディとして、この"Fragments of Friday"は輝きを放っている。謎の男殺害疑惑やお風呂場監禁事件、更には朝、目覚めたら何故か自分がクルーザーに乗っているのに気がつき、二日酔いと船酔いのダブルパンチであらゆる場所にゲボをブチ撒けにブチ撒ける地獄絵図すら体験するハメになるアレックスたち、特に酒好きとしてはあるあるwwwからねーよwwwまで大笑いしながらも同情を禁じ得なかったりする。
そんな醜態の数々についてAnning監督はこう語る。
“描かれるダイナミックさは実際あった出来事に基づいていますし、友人の発言や私自身の経験も取り入れているんです。海のド真中を進む船の上で起きたとか、そんな経験はありませんけども”
“この物語は酒を飲むことについて讚美するとかそういう内容だとは思っていません。描写は惨めたらしいまでに酷いものでしょう。ゲロ吐いて、後悔して、間違った決断をして、傷ついて……”“確かに前提として彼女たちはバカ騒ぎをして二日酔いに見舞われますが、この作品はそれを通して友情を描きだしていく作品なんです”
そう、この"Fragments of Friday"は「ブライズメイズ」以降の女子の友情コメディとしても素晴らしいのだ。1話以降、何となく険悪ムードになるアレックスとソフィー、互いに何となく相手を許せなくて、ちょっと仲直りしたかと思えば一発が全てを無かったことにしたり、ものすごくもどかしい距離感が続く。でもその過程をお酒地獄も交えて丁寧に描き出すことで、最後には何だかジーンと来てしまうくらい素敵な展開が待っている、ぎゅーっと抱きしめたくなる友情の暖かさがそこに待っているのだ。ということで、英語字幕ついてないけど分かる分かる大丈夫大丈夫、ここから一気見しよう!
そんな"Fragments of Friday"、9月4日にはシーズン2が配信になる。いやいやシーズン1で綺麗に終わらせたのに今後どうするんだって感じだが、シーズン2ではナッツの下りで笑いをかっさらったカット・デニングス似のメガネ女子マディ(Madeleine Jones)がレギュラーとして登場するらしい。配信されたらレビューを書こうと思うが、9月はNetflix日本上陸やヴェネチア国際映画祭特別記事などの関係で、遅くなるかもしれない、でも配信されたらTwitterに書くのでみんなシーズン2も観よう!ということで、Kacie Anning監督の今後に期待!
参考文献
https://vimeo.com/user5238768
http://www.kacieanning.com/
http://www.news.com.au/entertainment/what-happened-a-new-web-series-about-trying-to-piece-together-the-boozy-antics-of-friday-night/story-e6frfmq9-1227483077841
私の好きな監督・俳優シリーズ
その1 Chloé Robichaud &"Sarah préfère la course"/カナダ映画界を駆け抜けて
その2 アンドレア・シュタカ&“Das Fräulein”/ユーゴスラビアの血と共に生きる
その3 ソスカ姉妹&「復讐」/女性監督とジャンル映画
その4 ロニ・エルカベッツ&"Gett, le procès de Viviane Amsalem"/イスラエルで結婚するとは、離婚するとは
その5 Cecile Emeke & "Ackee & Saltfish"/イギリスに住んでいるのは白人男性だけ?
その6 Lisa Langseth & "Till det som är vackert"/スウェーデン、性・権力・階級
その7 キャサリン・ウォーターストン&「援助交際ハイスクール」「トランス・ワールド」/「インヒアレント・ヴァイス」まで、長かった……
その8 Anne Zohra Berracherd & "Zwei Mütter"/同性カップルが子供を作るということ
その9 Talya Lavie & "Zero Motivation"/兵役をやりすごすカギは“やる気ゼロ”
その10 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その11 リンゼイ・バージ&"The Midnight Swim"/湖を行く石膏の鮫
その12 モハマド・ラスロフ&"Jazireh Ahani"/国とは船だ、沈み行く船だ
その13 ヴェロニカ・フランツ&"Ich Ser Ich Ser"/オーストリアの新たなる戦慄
その14 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その15 クリス・スワンバーグ&"Unexpected"/そして2人は母になる
その16 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その17 Marco Martins& "Alice"/彼女に取り残された世界で
その18 Ramon Zürcher&"Das merkwürdige Kätzchen"/映画の未来は奇妙な子猫と共に
その19 Noah Buchel&”Glass Chin”/米インディー界、孤高の禅僧
その20 ナナ・エクチミシヴィリ&「花咲くころ」/ジョージア、友情を引き裂くもの
その21 アンドレア・シュタカ&"Cure: The Life of Another"/わたしがあなたに、あなたをわたしに
その22 David Wnendt&"Feuchtgebiete"/アナルの痛みは青春の痛み
その23 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その24 Lisa Aschan &"Apflickorna"/彼女たちにあらかじめ定められた闘争
その25 ディートリッヒ・ブルッゲマン&「十字架の道行き」/とあるキリスト教徒の肖像
その26 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その27 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その28 セルハット・カラアスラン&"Bisqilet""Musa"/トルコ、それでも人生は続く
その29 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その30 Damian Marcano &"God Loves the Fighter"/トリニダード・トバゴ、神は闘う者を愛し給う